第49話 ガチなやつ

水瀬さんとの楽しいお昼が終わると、残る午後の授業は座学と……そして、体育のみとなった。


「春斗はやっぱ見た目通り速いなー」

「岡田には負けるよ」


今回が初回のはずの体育だけど、中学だろうと高校だろうと、やる種目が増えようが変わらないものもある訳でして。


本日は学校の外周を走るマラソン……持久走と呼ぶのかもしれないが、永遠と走る大抵の生徒にとってはめちゃくちゃダルいそれが早速やってきた。


ショートカットする生徒こそほとんど居ないものの、大抵の生徒は実に面倒くさそうにゆっくり走っているが、高校生になって多少の悪知恵が働けば、先生の近くではそこそこ頑張ってるフリをして、その他では駄べりつつ走っているという奴も珍しくはない。


この授業で本気で走るヤツの大半は体育会系だが、先頭を走っているのは俺と、そしてやはり岡田であった。


かなりのペースで走っているが、無駄に体力のある俺は勿論、天才アスリートタイプっぽい岡田も余裕の表情で話しながら先頭を走っていた。


「春斗は部活運動部に入るのか?」

「いんや、決めてないよ」

「野球部入ってくれると助かるんだけどなぁ……道連れ的な意味で」

「んー、パスで」


部活に入るにしても、水瀬さんとの時間を邪魔されないものにしたいのでそう答えると岡田は残念そうにため息をつく。


「そっかー、春斗なら俺の代わりに目立ってくれそうだと思ったんだがなぁ」

「流石に岡田の代わりは無理でしょ。野球となれば特に」

「ん?もしかして知ってたん?」


俺の言い方から、中学の頃の有名を知ってると思ったのかそんな事を聞いてくる岡田に、俺は実にとぼけたように答える。


「さて、なんの事だか」

「くっ……ははは!やっぱり春斗は思ってた通り面白い奴だな!」

「岡田には負けるよ」

「それ、褒めてないだろ?」

「褒めてるよ。にしても、面倒がってた割にはガチで走ってるよね」


かったるいとボヤいていた割には、岡田はこうして先頭をガチで走っている。


正確には余力があるくらいではあるが、いつもの岡田なら後方でダラダラ走ってそうなのでそう言うと、岡田が視線を丁度通りかかった校庭に向けてから苦笑気味に答えた。


「ああして、見られてちゃ、流石に手は抜けねーよ」


視線を向ければ、岡田に熱視線を向ける女子が一人。


体育はクラス混合で男女別なのだが、どうやらうちのクラスと岡田の彼女のクラスが一緒に授業を受けているようだ。


なるほど、彼女さんから見られてブーストがかかってるのか。


「愛されてるね」

「もう少し普通の愛された方でもいいんだがな」


贅沢なヤツめ。


まあ、岡田らしいといえばらしいけど。










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