第9話 ツンになりきれないテレ

図書室を出ると、自然と俺と水瀬さんは一緒に帰路についていた。


入学式が早めに終わったことで、この時間に残っているのは部活関連の上級生達が比較的多めの印象だけど、汗水たらして努力する姿というのは、見ていて悪いものに思えないから不思議だ。


全ての生徒がそうであれとは言わなくても、やはり物事に真剣に取り組めるのは、それだけで才能と呼べるのかもしれない。


「蒼井くんもこちらの道なんですね」

「水瀬さんと方向は一緒みたいだね」


朝出くわしたのも、通学路と呼べる場所なので比較的近いのかもしれない。


「登下校は一緒になることもあるかもね」

「そうですね。あの……でも、大丈夫ですか?」

「何が?」

「その……私と一緒だと、変な噂とかされるかもしれませんし……」


男女が2人きりで登下校を一緒というのは、確かに邪推を呼ぶのだろうが、にしても今それに気づいた様子なのが面白い。


「俺は気にしないよ。水瀬さんが嫌じゃなければ、話し相手になって欲しいかな」

「私でいいんですか?」

「うん、水瀬さんがいいな」


そう微笑むと、水瀬さんは頬を赤くして視線を逸らしてしまう。


「な、なら良かったです。私は別に蒼井くんと一緒で変な噂されても気にしませんから!そんな子供じゃないですから!勘違いはしないでくださぃ……はぅ……」


照れて、ツンになりきれないデレが出てしまう水瀬さん。


ツンデレというのはキャラ的にはあってそうだけど、この子の性格的にはツンというより、強がりや焦ったりテンパって変なことを言ってしまう感覚なのかもしれないな。


「ありがとう、水瀬さん」


そう優しく微笑むと、さらに照れてテンパりだす水瀬さんは、やはり見ていて楽しい。


「あぅあ……わ、私こっちですから!」

「うん、また明日ね」


忙しなく俺を翻弄した彼女は、去り際にもそのポテンシャルを遺憾無く発揮して去っていく。


転ばないか少し心配にもなるけど、多少俺から離れれば落ち着くだろうし、そばに居る方が今はパニくるかもしれない。


まあ、これから慣れてもらうか、もう少し距離を縮めて送迎くらいならさせて貰えるような立場を目指すのも悪くないかもしれない。


不思議とこれからの高校生活の楽しみに微笑みつつ、それを見送ってから俺も帰途に着く。


それにしても、本当に変わった子だ。


久しぶりに演技なしで笑みを浮かべられたように思えるし、明日も会えるのが楽しみだ。


そうして、新しい学校生活への期待を胸に入学式の日は滞りなく過ぎていくのであった。
















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