第5話 最初の下地作り

「ちょっと待ってください!ネクタイくらいしっかりしないとダメですよ!」

「えー、してるじゃん」


教室に着くと、水瀬さんがクラスメイトの男子に服装の注意をしていた。


よく見れば、確かにその男子生徒はネクタイを緩くしており、あまり褒められる付け方ではなかったが、それにしても入学式当日にこうして初めて会ったクラスメイトに注意をできるとは凄いな。


「全くしてませんよ!直してください!」

「へいへーい」


サラリと水瀬さんの注意を流して、席に座る辺り、この男子生徒も中々面白そうではあるけど、流石に水瀬さんが可哀想だしここは俺がやるとするかな。


「お坊ちゃま、ネクタイがズレております。直しても?」

「ん?ああ、苦しゅうない」


ノリのいいヤツだなぁ。


そう思いながらネクタイを直すと、水瀬さんが満足気に頷いたのでとりあえずミッションコンプリートだろう。


「サンキュー」

「いいって。でも入学式だしくたびれたサラリーマンみたいな着こなしは止めときなよ」


ネクタイを緩くして、カッコ良さを出したい厨二心もわからなく無いけど……いや、目の前のコイツの場合は苦しいから緩めてるのか?


何にしても、入学式当日に余計な事で水瀬さんに負担をかけないように軽く注意を込めてやんわりと伝えると、その男子生徒は実にケロリと答える。


「それもそうか。俺は岡田太郎な。お前は?」

「蒼井春斗だ。よろしく岡田」

「おう!春斗でいいか?」

「構わないよ」


初見から予想はしていたけど、かなりコミュ力の高そうな奴だし、とりあえず高校生活最初のクラスメイトの友人には丁度いいかな。


そんな事を思いながら、近くの男子生徒達と軽く交友関係を築いていると、水瀬さんの様子が少し気になる。


彼女は席に座って、持ってきていた本を開いて一人の空間を作ってしまっていたけど、話しかけるタイミングが掴めてないようにも見える。


真面目で真っ直ぐな性格だし、交友関係を築くのも得意とは言えないのかもしれないなぁ。


俺と朝話せていたし、慣れの問題だとは思うけど、見たところ同じような真面目気質の生徒は同じクラスには多くなさそうだし、タイミングを見て俺から接触を測ってクラスに馴染ませようかな。


そうと決まれば、この場は交友関係を広げてクラス内での立場を明確にしておくべきだろう。


本当は今すぐ水瀬さんに話しかけたいけど、こういうのは焦るとろくな事にならないし、タイミングが大事なので仕方ない。


仕方ないけど……うん、後で話す時間は作りたいかも。











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