第9話 小さな鏡

 見るところが限定されていれば、小さな違和感でも見落とさない自信はあります。


 私は、真っ暗な画面から再確認します。

 そして、ガチャンという音の後、ここで隣の部屋の光がとびらの隙間から見えました。ザブさんが目を覚まして部屋の照明をここで付けたのでしょう。私は今になってその事に気が付きました。

 隙間からの光では部屋全体を照らすことはありません。それどころか部屋はまだ真っ暗で、画面左端に細い光の縦線が見えるだけです。


「でも、見える」


 チェストだけを注意していると暗い部屋の中でも、チェストの前に人の気配がします。

 いいえ、気配だけではありません、人の形に一段濃い闇があります。

 恐らく普通の人に言っても、「そうかなー、気のせいじゃ無い」と、言われるほどの違いですが、私にはわかります。


 ザブさんが引き戸を開けると隣の部屋の光が入ります。

 その瞬間人影は、消えてしまいました。


「最初に見えた人影はやはりあったんだ」


 私は強烈な寒気に全身がブルッと震えました。


 恐らく、ザブさんは廃村の廃墟から帰って、何日も自宅の異変に悩まされたのでしょう。

 そして、それが隣の部屋だとわかり、映像に収めるためカメラをセットしたのでしょう。


 この暗闇の映像はカメラをセットした初日の映像ということですね。

 そして、この映像がその翌日の映像と言うことですか。

 私はもう一度チェストに注意をして、翌日の天井カメラの映像を見はじめました。

 やはり天井カメラの映像からは、異変を感じません。

 続いて


 ガチャン


 この音が聞こえます。


「あっ!!」


 私は思わず声を出してしまいました。

 ザブさんの頭が一瞬チェストの方を向いたのです。

 その後、全身バタバタさせて驚く動作に入っていきます。


 ――これは、ひょっとして、音もチェストの方からしているということでは無いでしょうか。


 そして、今度はザブさんの正面カメラ、ゾンビの様なザブさんが、助けて、助けてと、口を動かす映像です。


 恐いです。


 ガチャンと音がします。

 その瞬間、ザブさんはやはりチェストの方を一瞬だけ見ました。


 心霊映像というのは、どうしてこうも一瞬一瞬を見逃さないように見ないといけないのか、疲れます。

 視線の先の、チェストの映像には何も映りませんが、倒れていく映像のチェストの前にはやはり人影が見えます。こちらも普通の人に言ったら、「そうかなー、気のせいじゃ無い。あははは」と、笑い飛ばされるほどの違いです。


 私はもう一度天井カメラの映像を再生します


「あっ!」


 チェストの上に何か見えます。

 動きが無かったのと、あまりにも小さいので見落としていました。

 私はチェストの上が見える映像の全てを確認します。


 やはり全てにあります。

 それは小さな鏡でした。

 白い手鏡に見えます。

 でもあまりにも小さい。


 白いチェストの上に白い小さな鏡、私はここで初めてその存在に気が付いたのです。


 私は再び全身に悪寒が走り、全身の毛が逆立っているのを感じました。


 この一連の現象は部屋自体からでも、チェスト自体からでも無いのでしょう。

 全ての現象は、この小さな鏡から起っているのでは無いでしょうか。


 私は、ディスクをもう一度全て再生してみました。

 すると、人影は鏡の前に出ることがわかりました。

 そして、おそらくあの音もこの鏡から出ているように感じます。


 まさか、まさか、ザブさん、この鏡……。


 私は、一つの仮説を立てました、それはこの鏡が、あの廃墟にあった鏡なのでは無いかという仮説です。

 もしそうだとしたら、子供の影については説明がつきます。


 あとの謎は、「助けてー」かー。いったい誰がなにから?

 そして、ザブさんがうなされている時の声。

 この家が事故物件でなければ、全ては廃村の廃墟からの怪現象と言えるのですが、全てをそこに結びつけられませんから面倒です。


「うーーん」


 私が頭を抱えていると、家の電話が鳴りました。

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