第3話 迫り来る恐怖

 再び映像が切り替わった。

 その瞬間私の両腕の毛が真っ直ぐ立ち上がった。

 ザブさんは何も言いませんが、間違いなく三軒目の廃墟でしょう。

 その異常な気配の廃墟の玄関が目の前にあった。


 私は、この廃墟から、怒りと悲しみのような両方の感情を感じていた。

 いったい何があった廃墟なのでしょう。


「あーだめだ、ここはだめだ、誰かの気配がする」


 ザブさんは、つぶやいていた。

 すでに余裕を無くしている。

 さっきまでの、ベテラン配信者の姿はなかった。

 玄関は引き戸で、ザブさんは引手に手をかけた。


 きゅるきゅる、大きな音がした。

 その音でザブさんは、体がビクンと揺れた。

 そして、ドサッと音がした。


「うわああ」


 画像が大きく上下に揺れた。

 ザブさんが飛び上がって驚いているのだろう。

 音は玄関の下駄箱の中から聞こえたようです。

 ザブさんの、怖がり方はもう演技には見えません。


 それでもザブさんは震える手で、下駄箱を開けようとしています。

 きっと腰が引けて、へっぴり腰になっているのが想像出来ます。

 でも、画面はザブさんを写さない。

 下手箱に固定され、ザブさんの震える手を写し出している。


 ガラガラ、素早く下駄箱の引手を手前に動かすと中から何かが飛び出した。


「うわああ」


 ザブさんは大きな叫び声を上げた。

 でもカメラが写していたのは、下駄箱から落ちる黒い紳士靴だった。


「な、なんだ、ただの靴か。おどかすなよ」


 ザブさんは麻痺をしているのか、今起ったことにほっとしている。

 そして画像は下駄箱の中を写していた。

 大人ものの履物が綺麗に並べておいてある。

 私はこの異常な現象に違和感を覚えた。

 そもそも下駄箱に綺麗にしまってある靴が、下駄箱の中で動くものだろうかと。


「誰かー、いませんかー。少しお邪魔しまーす」


 ザブさんはいつものあいさつをして、中に入った。

 廃墟の中は、誰かが住んでいるかのように綺麗だった。

 人里離れた、忘れ去られた廃集落に訪れるものがいなかったのでしょう、全く荒らされていません。


 そして、ザブさんの高性能ライトが部屋を照らします。

 でもその明かりは、部屋を照らす蛍光灯よりはるかに暗い。

 照らしているところは明るいけど、それ以外がやけに暗く感じる。


「誰かいる。誰かに見られている」


 ザブさんは、自分の後ろをやたら気にしている。

 誰かの気配を感じているようです。


 ミシッ


「ひっ」


 ザブさんは誰かが床を踏みしめるような物音に小さく悲鳴を上げた。


「はーーーっ、はーーーーっ」


 ザブさんの呼吸音が深く大きくなった。

 恐怖に怯える人の呼吸にかわった。

 それでもザブさんは、一つ一つ丁寧に部屋の中を写していった。

 応接用の部屋、寝室、茶の間。

 部屋の中は家具だけで無く、小物まで全部残っている。

 応接セットの机の上には灰皿やライター、たばこまで置いてある。


 さっきのぞいた廃屋は、家の中にいらない物しか残っていなかった。

 おそらく引っ越しをした後の家だったのでしょう。

 では、この家は、何故このまま残っているのでしょうか。


 そして最後の広い和室を写した映像で、私は何か違和感を覚えた。

 それは直感で感じたことで、それが何か具体的には、この時はわからなかった。

 この部屋には仏壇が有り、仏壇の反対の壁に少し低いタンスが置いてある。

 そしてそのタンスの上に日本人形が、ガラスケースの中に入っていた。


 カメラは日本人形の方を写したまま固定され、ザブさんはその前に座り込んだ。

 そしてポシェットからばけたんを取り出した。


「じゃ、じゃあここでも心霊検証をしたいと思います。まずは、ばけたんからスイッチオン」


 座り込んで少し落ち着きを取り戻していたザブさんでしたが、ばけたんの点滅が終わり、真っ赤に光ると、ばけたんを持っている手がビクンと反応して落としてしまった。

 そしてザブさんは、ばけたんを拾おうと体を動かして画面の外に消えた。


「うわあああーー」


 ザブさんの絶叫が聞こえた。


「こ、子供、子供がいるー、うわああああ」


 音声はザブさんの声だけを拾っている。

 そしてカメラの前に少しやつれたようなザブさんが姿を見せた。


「き、気のせいでした」


 本当でしょうか。

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