ハロウィンパーティー

清瀬 六朗

第1話 自分の姿を見ている待ち時間

 みどりはソファの向かいの壁一面に据えつけてある鏡に映っている自分の姿に目をやった。

 昔作った黒い三角帽子に包装用の金色のリボンを通してあごのところで留めている。服は家にあった黒いレインコートを着てきた。年の離れた姉か、昔のお母さんのものだろう。

 下には中学校のころに着ていたオレンジ色のポロシャツを着て、その襟のところを無理やりコートの襟の上に出している。さらに黒タイツを穿いて、靴も黒い革靴を履いてきた。

 これでハロウィン衣裳になるのだろうか?

 よくわからないが、これ以上サービスする気もない。だいたいこれ以上凝った衣裳を着ると演奏ができない。

 慣れない衣裳を着せられて、いきなり演奏するのには、慣れているといえば慣れているけれど。

 「ハロウィン……」

 正面の自分の姿から目をらして、ため息をつく。

 あまりいい思い出がない。

 いや、四年前に悪い思い出があって、それからいい思い出も悪い思い出もない。

 もともと家でも学校でもハロウィンには縁がなかった。今日だって、商工会が子どもたちを集めてパーティーを開くから、ピアノの伴奏をしてくれと言われて呼ばれたから来ただけだ。

 ピアニストじゃなくてハーピストなんですけど、という抗議は、

「ハープは会場に運び込めないから」

の一言で却下されたらしい。

 もっとも、がほんとうにそんな交渉をしてくれたかどうか、あまりあてにはならない。

 今日だって、まだ来ていない。

 アーティスト本人が来て待っているというのに、マネージャーが現れないとは何ごとだろうと思う。

 もう慣れたから、ため息を一つつくぐらいですむけれど。

 ロビーは、カボチャとかコウモリとか、ハロウィンらしい飾りで飾り付けられている。その下を、開会までまだ一時間以上あるというのに、仮装の服を着た子どもが来て、二人で走り回ってはしゃいでいる。

 あれで小学校の何年生ぐらいだろう、と思う。

 自分もあんなのだったのかな?

 そして、あのときから、あいつとは腐れ縁だったな、と思う。

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