第13話 魔曲家《マジックアーティスト》

オルは藁束の寝床で寝ている。

三つ子も一緒だ。

奥さんが毛布を一つさらに貸してくれた。


ケルとベルは既に毛布を抜け出て、デタラメの寝相。

オルは二人を近づけて毛布を掛けてやる。


ロスは何故か、オルの毛布に潜り込んでいる。

起こさないように、そっとオルも毛布に入る。


「にしても困ったな。

 この街に来ればすぐ金属弦が手に入ると思ってたのに」


足りない弦でアレンジして演奏するのにも限度がある。

単純な曲ならなんとかなるけれど、オルの得意な曲が幾つも演奏出来ない。

それに魔曲マジックソングだって。

多少アレンジしても効き目があるのは分かってるけど。

それもどこまで応用が利くものか。

別の金属が手に入る街に行こうにも、魔曲マジックソング無しにオルだけの一人旅はムリがある。


「……今日はもう寝よう。

 考えてもしょうがないや」


毛布に潜り込むオルなのである。

目を閉じると寝息が聞こえる。

静かで規則正しい音は同じ毛布で眠るロスのモノ。

少し離れた場所でぐわー、ぐわー、と騒がしい二重奏はケルとベル。


「ん……」


寝返りを打ったロスがオルに近づく。

オルのお腹にくっつく温かい感触。

なんだか数日前にも似たような感触を味わったような。

そんな事を考えながら、オルはぐっすりと眠ってしまった。



「オル師匠、鉱山に行きましょう」


そんなムチャを言い出したのは意外な事にロスである。

ケルとベルは奥さんが出してくれた朝食を旺盛な食欲で平らげている。


「えええ、だって鉱山にはゴブリンが沸いているんだよ」

「でも……鉱山から鉱石を持ってこれないと師匠が困るんですよね」


「まぁ、そうなんだけどさ」


「ゴブリンだろ、あんなヤツら」

「俺らにかかればラクショー」


「なっ、ベル」

「なっ、ケル」


ムダに自信ありげな子供たちを見てオルは頭を抱えた。


「あのね、ゴブリンは確かに一体なら弱い魔物だけど……」


一体一体は人間の半分くらいしか無い体長のゴブリン。

だけど何体もいるのだ。

ゴブリンが一体いたら、百体はいると思え。

そう言われてる。


しかも鉱山の洞窟に沸いてるとなったらサイアクだ。

狭い脇道に隠れて、人間を襲ってくる。

暗い鉱山の道で、いきなり襲われれば冒険者だってやられてしまう。

一体を剣で叩ききっても、すぐ次が現れる。

集団の力でなぎ倒される。


「大丈夫です。

 師匠の魔曲家マジックアーティストの力があれば、ゴブリンなんて……」


魔曲家マジックアーティスト?!」

魔曲家マジックアーティスト?!」


オルの方を見てオヤジさんと奥さんがポカンと口を開けていた。

あっちゃー。

さらに頭を抱えるオルなのである。

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