月下の見送り
米太郎
プロローグ
カチ、カチ、カチ、カチ…。
辺りは静寂に包まれており、時計が動く音だけが聞こえる。
大きな屋敷のバルコニーで、1人の女性が空を見上げている。何年も屋敷のメイドとして働いていると思われる程にメイド服が馴染んでいた。
女性の手には懐中時計があり、たまに懐中時計を開いては時間を確認しては、夜空を見上げるのであった。
「今日は綺麗な満月の夜ですね、アズール様。それも、青色の月なんてとても珍しいです。アズール様の瞳と同じ色ですね…。こんな良い日に旅立たれるなんて、羨ましいです…。」
そこまで言い終わると、女性の目から涙が溢れ出てきた。
「…どうして私も一緒に連れて行ってくれなかったのですか…。」
涼しい風が吹き抜け、濡れた頬を撫でていく。空を見上げていても、次から次へと涙は頬を伝って流れ落ちる。下を向けば尚更だった。
月明かりの中、女性は懐中電灯を開けて覗き込む。涙の粒は時計の文字盤に吸い込まれる。
「…もうすぐ時間でしょうか。これでお別れですね…。」
寂しそうに泣いている女性の元へ、ふわふわの毛並みの猫が歩いてやってきた。
「…あら、ブラン?最近見かけなかったので心配してましたよ。あなたもアズール様のお見送りに来たのですね…。こちらへどうぞ。」
ブランと呼ばれた猫は、女性の足元へとやって来て女性の膝へと乗って一緒に月を見上げた。
「ブランが導いてくれた、この御屋敷。ここで過ごした日々は、とても楽しかったです。…出来れば、アズール様ともっと一緒に過ごしたかった…。…もっと一緒に月を見ていたかったです…。」
時計の針はもうすぐ12時を指そうとしている。
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