勇者の先生、転生して教え子に新たな勇者に育てられる

ムネミツ

第1話 先生、生まれ変わる

 「嫌だよ、先生~~~っ! 起きてよ~~っ! また僕と一緒にボール遊びをしてよ~っ!」

 「先生、死なないでっ! ライフエンチャント、最大付与っ!」

 「先生のいない世界なんて、守った意味がないっ! 私達の先生を返してっ!」


 簡素な田舎の小屋の寝室で四人の男女がいた。


 鎖鉄球を腰に付けた黄色いチュニックに赤いマントを着た、熊耳に茶髪の美少年が泣き叫ぶ!


 青い神官服に黒髪の美少女が、ベッドの上で死にかけているそこそこ良い容姿の青年男性に治癒魔法の白い光を当てる。


 金髪縦ロールに赤いドレスを着た豊満なハーフエルフの美少女が、何処からか分厚い本を取り出して呪文を唱えた!


 「……げはっ! 泣くなテディ、俺もまたお前と遊びたいよ♪」

 「先生! 死んじゃ駄目っ! 今度は僕達が、先生をお助けするの!」


 魔法で目を覚ました先生と呼ばれる男性が、熊耳の美少年こと鉄球勇者テディに優しくも弱弱しく語りかける。


 「先生! 私の寿命の半分をこれから上げるから、まだ死なないで!」

 「……それは駄目だよメープル、君が辛くなるのは俺が悲しいよ」


 先生は、今度は青い神官服の美少女ことの聖女メープルに語りかける。


 「我が声を聞き届け出でよ、女神召喚っ! お願い女神様、私達の先生を死なせないで! あんたの言う事聞いて私達は、魔王を倒して世界を守ったでしょ?」

 「……べ、ベアトリス? 凄い魔法を使えるようになったけれど、出て来た女神様が困ってるよ?」


 赤いドレスの美少女ベアトリスこと、最強魔法使いベアトリス。


 彼女は、寝室に現れた神々しく輝く翼を生やした美しき女神に直談判する!


 「女神様っ! 僕達に意地悪するなら、女神様でも僕の鉄球が許さないぞっ! 僕達の先生は、死後の世界には渡さない!」


 テディが泣きながら、神器である鎖鉄球を手に取り女神に叫ぶ。


 「話を聞いて下さい勇者達よ、あなた達の師が持つ力である英雄保育者ヒーローブリーダーの力の代償は私ですら覆せない既に滅びた神の力なのです」


 女神が困惑しながら三人の勇者達に謝る、先生は英雄保育者と言う英雄を育てる特殊な力があったのだ。


 ただし、その代償は育った英雄が偉業を為せば能力の持ち主は役目を終えて教え子に看取られて死ぬと言う物。


 先生はその事を秘密にしてテディ達を育てて、村から送り出したのだ。


 「そんな! 女神様の嘘つき! 先生を助けて下さいっ!」

 「なら僕達は英雄をやめる! どんな事しても、先生は死なせないぞ!」

 「私達は先生や村を守る為に強くなった! 皆で、この村で楽しく暮らす為に頑張ったのにこんなのってあんまりよ!」

 「お前達、止めるんだ♪ 先生は神様になって、空から見守るから♪」


 女神を責め立てる勇者達を宥める先生、だが勇者達は引き下がらない。


 「そんなの嫌だよ~っ! 僕はまたこの村で、先生とボール遊びがしたいから悪い魔王をやっつけたんだっ!」

 「私だって、ここに帰って先生のお嫁さんになる為に修行をがんばったんです!」

 「私だって、先生のお嫁さんになるの! 女神様、先生を天国に連れて行かないで!」

 「……お前達、俺だってまだ死にたくないよ! もっと! ずっと! お前達と一緒に生きていたいよっ!」


 教え子達の言葉に、先生も泣きながら本音を叫ぶ。


 「わかりました、提案があります。 まず、私の力では彼の死は止められません」


 女神が一旦語ってから言葉を区切る。


 「ですが、この場で母になる意志がある者がいれば直ちにこの英雄保育者ケイの身と魂を母となる者の身に移して赤子として転生させられる事はできます」

 「なら私がなります、実質ケイ先生の子を産むのと同じですから!」

 「ちょっと! メープル、それズルくない?」

 「ズルくないよ、私の子に生まれ変わった先生のお嫁さんにはあなたがなりなさいよ!」

 「そうね、それなら良いわ♪ あんたが義理のママって言うのが癪だけどね♪」

 「なら僕は、今度は先生のお兄ちゃんになって先生を守るよ♪ 先生が、僕とベアトリスを故郷の森を焼いて滅ぼした悪い盗賊達から助けてくれた時みたいに!」


 テディが過去を思い出し、微笑みながら呟く。


 「お、お前達は何を? いや、俺を助けてくれるのか? 何が何だかわからないが、俺は皆を信じる♪」


 教え子達の言葉に戸惑いつつも安堵した先生ことケイ、その場にいた皆が微笑んだ。


 「それでは、英雄保育者ケイよ♪ 魔王を倒し、世界を守った勇者達を育てた功績を認め新たな勇者の資質を持つ子への転生を授けます♪」


 女神がケイの頭に手をかざすと、ケイの体は光の玉となり聖女メープルの体内に吸い込まれて行った。


 「ありがとうございます女神様、私は頑張って先生の母になります♪」

 「メープル、先生のベッドで横になりなさいよ? あんたは、これから大事な体なんだから!」

 「そうだよメープル、僕らみんなで暮らしのお世話するね♪」

 「ベアトリス、テディ、ありがとう♪」

 「それでは勇者達よ、あなた値に祝福を♪」


 勇者達三人に、祝福の光の粒子を浴びせて女神は天へと消えて行った。


 こうして、勇者達を育て上げた私塾の教師の死と聖女の子への転生の情報は女神の力により村だけでなく世界中に伝わった。


 村の住人だけでなく、国王やテディ達が救った者達が村を訪れて支援を申し出た。


 「ご褒美なら、僕達をこの村でずっと好きに暮らさせて下さい♪ でも、本当に僕達の力が必要な位の悪者をやっつける時とかは報酬をくれれば依頼を受けて助けに行きます!」


 やって来た国王に姫の婿にと望まれた鉄球勇者テディは、それを断り村の駐在勇者として暮らす事を望み受け入れられた。


 勇者達の武力担当のテディは、村で暮らしつつも師の教えに従い自分達に救いを求める弱き者の声には応じる事にしていた。


 幼い精神年齢ながらも、故郷を滅ぼされた経験から他者の悪意や殺気や嘘などを文章や風聞程度の僅かな情報からでも見抜く力を身に付けたテディを騙したり罠に嵌められるものはおらず鉄球で粉砕されていった。


 「私の願いはこの村を、次代の英雄を育てる学園都市にしたいから私に自治領主の地位と資金を!」


 最強魔法使いベアトリスは、政治と経済的に村を守る方法を求めて自分が長となり村の学園都市化を望み受け入れられた。


 「先生が生まれ変わる時に抜き取って本に閉じ込めた英雄保育者の力、分割に成功したわ♪ これを各科目ごとに教師ゴーレムに組み込めば、私達みたいな目に遭う人もいなくなるし力の悪用も防げる♪」


 ケイの家とは別に新たに作られた石造りの城、ケイ・ローン勇者学園の校舎の実験室で大量の魔導書と灰色の石で出来た人型の人形ことゴーレム達を見ながらベアトリスは疲れた顔で笑った。


 ハーフエルフもエルフ同様に長寿であったが、ベアトリスは自分の寿命を魔力に変えて密かにこの偉業を成し遂げた。


 「これで私の寿命は後二百年、生まれ変わった先生と暮らす為に寿命を百年使っても先生の寿命と釣り合うしテディ達ともタイムラグなしで一緒に生まれ変われる♪」


 全ては愛する師と仲間達と生きて、共に生まれ変わり来世も楽しく暮らすた為。


 ベアトリス、女神から生命や転生に関する知識を得ての計算ずくによる行動であった。


 「私は、生まれ変わる先生の為に平穏に暮らしたい♪ 私はすでに列聖されているのでこの村を聖地認定して私の直轄教区にして宗教的に保護して下さい♪」


 聖女メープルは、国と自分が神官として所属する女神教の教団にそう要求して受け入れさせた。


 こうして三人の勇者達は、生まれ変わって来る師との暮らしの為に盤石な生活基盤を築いたのであった。


 「メープル、お疲れ様♪ エリクサーの差し入れだよ♪」

 「……メ、メープルッ! あんた、本当に聖女どころか聖母よっ!」

 「テディもベアトリスもありがとう♪ 見て、先生も帰って来たわ♪」

 「本当だ♪ お帰りなさい、先生♪ もうちょっと大きくなったら、一緒にボールで遊ぼうね♪ 今度は僕が、先生にパンケーキを焼くね♪」

 「……感じる、この魔力は先生だわ♪ 先生、今度は私がご本を読んであげる♪」

 「先生、今度はママとして宜しくね♪」


 少しの時が経ち、先生は元気な男の子の赤ちゃんとなって生まれ変わていた。


 教え子達は幼い姿で帰って来た先生を笑顔で見つめた。

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