第2話 幼なじみ

 それからしばらくして玄関から来客を知らせる音が鳴った。


 「美夢が出るぅ」


 美夢が玄関に走って行く。食器を流しに持って行きリビングに戻ると、にいちゃ、花音ねえちゃが来たよと教えてくれた。


 「いつも来なくて良いって言ってるのに」


 そう言いつつ軽く溜息をつく。


 「もう、泰叶ったら。花音ちゃんがせっかく来てくれたんだから、そんな事言ったら駄目だよ」


 「だってさ、母ちゃん。七瀬が迎えに来て一緒に行くせいで学校で噂されて」


 そんな事を愚痴っていると玄関の方から、たっくん、早く行かないと遅刻しちゃうよと七瀬の声がした。


 「とにかく、花音ちゃん待たせたら悪いし、早く行ってあげて。いってらっしゃい」


 「わかったよ、行ってきます」


 鞄を持って玄関に向かい、美夢の頭を軽く撫でてから七瀬と高校に向かう。


 「ねえ、たっくんはもう進路決めたの?」


 駅に着き、電車を待っている時にそんな事を聞かれる。


 「いや、とりあえず、父ちゃんは俺の好きなようにしていいって言ってるし、進学しないでフリーターしながら音楽活動を続ける予定。俺の場合、動画の収益でまあまあ稼げてるしね」


 「そうなんだ、たっくんらしいね。今日も路上ライブ、するんでしょ。私、観に行くからね」


 七瀬が楽しそうに微笑む。


 「別に来なくて良いって。七瀬は進学するんでしょ。ちゃんと勉強した方が良いよ」


 俺の言葉に七瀬は、恥ずかしがらなくて良いよ。私がたっくんの路上ライブ、観に行ったら話題に上がるんだからと言った。


 七瀬とは小学生の頃からの幼なじみで、高校生に上がった頃にスカウトされて読者モデルをやっている。まあまあ人気があるらしく、七瀬が路上ライブに来た時はネットニュースが賑わっていた。


 「別に恥ずかしがってないよ。本当に来なくて良いよ。俺は大丈夫だから」


 「でも行くもん」


 七瀬とそんなやりとりをしていると電車が来てそれに乗り込む。


 「あ、さっくん。花音、おはよ」


 「おはよ、佐野ちゃん、颯真そうま


 二人に挨拶をして何となく颯真の隣に立つ。


 「七瀬と仲が良いよな。本当に付き合ってないのか」


 電車に揺られながら颯真がそんな事を聞いてきて、もう、結城くん。そんな事聞いちゃ駄目だよ。恥ずかしいでしょと七瀬が反応する。


 「いや、だってさ。お前ら、幼なじみでいつも一緒に居るんだろ。それなら」


 「やめてって。七瀬とはそんなんじゃないから。それに、一緒に居すぎて友達以上には見えないし」


 はっきりと言葉にすると七瀬が、そうだよ。私もたっくんの事、好きだけどそんなんじゃないもんと話を合わせた。


 「まったく、うちの男どもは。女心を何だと思ってるの。無意識にそう言う発言禁止だよ?」


 「うう、陽葵ひまり、ありがとう」


 七瀬が泣き真似をして佐野ちゃんが慰めるように頭を撫でる。


 「次は、駅。次は、駅。お降りの方はお忘れ物のないよう、ご注意下さい」


 高校の最寄り駅に着き、電車を降りる。四人で高校に向かい校庭に入ると佐野ちゃんが、あ、つむちゃん、圭くんおはよと走って行ってしまった。


ー続くー

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