7 激昂、決闘
「お前、誰だ?」
テントの影で怪しい動きをする不審者。
俺はそっと近づいて話しかける。
「……!」
俺に突然声をかけられて、ひるんだ不審者。
さっと足を引っかけて転ばせる。
親父のスパルタのおかげで体術は得意なのだ。
そいつはドタッと重たい音とともに、地面に倒れた。
すぐにそいつの関節をロックして身動きを封じる。
「泥棒か?この土地は歌劇団が借りてるんだ。不法侵入だぞ」
もがくそいつを更に抑えつける。
力が強い。男のようだ。
「ぐっ!クソッ、離せ!」
「……!……ビョードル……」
そいつは俺の兄だった。
ビョードルは攻撃力増強のギフトを使える。
すぐに逃げるかも知れない。
「ビョードルなら、もっと締めても問題ないな」
「エーベルハルド!てめぇっ」
ぐぐっと力を込めると、金属が地面にぶつかる音がした。
「お前っ、剣まで持ってるじゃないか!?
見習い騎士の
「うるせぇ」
ビョードルは、俺の拘束から逃れようと必死だ。
俺も必死になって押さえつける。
互いに息を切らして膠着状態を維持している。
「誰かと一緒なら良かったのに……。
お前のせいで、俺は夕飯食いっぱぐれ確定だ」
「そんなこと知るか!早く離せ!」
「うるさい!警備員に引き渡してからだ」
すぐに警備員が来るはずなんだが、来る気配がまったくない。
「へっ!あんな弱い奴らが、さっさと回復するわけないだろう?」
「ビョードル!お前、警備員を襲ったのか!?」
本当に救いようがない奴だ。
しかし本当にそうだとしたら、このままではマズい。
どうしようかと考え始めたとき、女の子の声が聞こえた。
「どうしてこんなところに、エミリのぬいぐるみが?」
突然聞こえたその声に、ビョードルが赤く輝いた。
「げっ!ギフトを発動しやがった!」
ビョードルが攻撃力増強のギフトを発動させ、簡単に俺をひっくり返す。
俺は可能な限り素早く体勢を戻して、ビョードルを追いかけた。
「ビョードル!止まれー!」
ビョードルの先には……。
ぬいぐるみを抱えたヨハンナがいた。
「ヨハンナ!逃げろ!」
身内とはいえ、忍び込んでいる時点でビョードルは危険人物だ。
驚きのあまりフリーズしたヨハンナに、ビョードルはまっすぐ向かっていく。
「見つけたぞ!クソ女!俺が口説いてるのに振りやがって!」
ビョードルが叫びながら剣を抜いた。
「……ひっ」
ヨハンナは恐怖で声も出せない。
「丸腰の人間に剣を向けるな!」
追いつかないと判断した俺は、足もとの石をおもいっきりビョードルへと投げる。
うまいことビョードルの背中に命中した。
「いてぇ!」
ビョードルの動きが止まっているスキに、走りながら手に持った石やその辺の小道具を投げまくる。
そして俺は走った勢いのままビョードルに飛び蹴りをして、剣を奪おうとした。
ビョードルも剣だけは取られまいと必死になる。
取っ組み合いのなか、呆然としているヨハンナを思い出した。
「ヨハンナ!走れ!」
ヨハンナを逃がそうとするが、足が震えて動けないみたいだ。
走ろうとしてへたり込んでしまった。
騎士や冒険者ならともかく、普通に暮らしてる女の子が剣を向けられるなんて確実にない。
ヨハンナの反応は当然だろう。
「隠れろ!俺が守ってやるから早く隠れろ!!」
ビョードルをにらみつけながら、ヨハンナに指示をだす。
「へっ!騎士でもないくせに騎士気取りか?」
「そういうお前は騎士のくせにゴロツキ気取りか?」
「うるせえ!」
ビョードルはギフトを発動させて俺を吹き飛ばす。
「うぐっ」
受け身をとる俺に向けて、ビョードルは剣を振りまわす。
やみくもに振るわれる剣をかわしながら、ヨハンナからビョードルを遠ざける。
「エーベルハルド、邪魔するならお前から倒す!」
「己のために剣を振り回すなんて、親父の教えを忘れたのか!」
「うるせぇ!勝てばいいんだ!勝てば!」
ビョードルの剣がまた赤く光る。
「バカだな。ギフト連発だなんて、反動がキツイぞ!」
「知るか!俺の邪魔をしたバツだ!死んで償え!」
ビョードル、償うって言葉を知ってたのか……。
バカから出るには、賢すぎる単語に思わず笑ってしまった。
“うるせえ!”しか知らないと思ってた。
「笑うなぁぁぁ!」
バカにされたビョードルのボルテージが上がる。
そこらにかけてある道具やテントが、ビョードルの剣でボロボロだ。
「クソっ!このバカを止めないとケガ人がでる!」
とっさにそこらのホウキをにぎる。
掃除道具はいつもどこかに立てかけてあるのだ。
剣よりリーチが短いが、無いよりマシ。
「はっ!ザコにはザコ武器がお似合いだなぁ」
俺をバカにしながら、ブンブンと剣を振りまわすビョードル。
「相変わらず、力まかせに振りまわすだけのバカだな」
俺は間合いをとる。
ホウキの柄をビョードルに向けて構えた。
一対一ならこの方法が一番だ。
「うるせぇザコがぁぁあ!」
「スキだらけだ」
剣の構えから槍の構えへ、瞬時に持ち方を変える。
相手の剣先を薙ぐと、流れのまま懐へと入りこんだ。
そうして、みぞおち目掛けて一突き!
「うぉぇぇぇえ!」
胃に直撃したようで、ビョードルはのたうち回りながらゲロを吐いた。
「どんなにギフトが強くても、使い手が精進しないと意味がないんだよ」
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