第6話 うちと、あちきと、わーと、あたいの感動

「お帰り、クレア」


 パパだよ、覚えているよね?最近出番が減った……パパだよ。そして最近、クレアの名付けが多くて、パパよりジジって感じが強くなってきちゃった…………パパだよ。

 でもさ……全く、クレアにも困ったものだよね?名付けをするなって言っても次から次へと名付けをしちゃうんだからさ。婚約者もいるってのに、既に4人の子持ちなんて……パパは泣きたいよ。しくしく。


 でも、そんな事を、女王陛下に言える筈も無くて、どうしようか困ってるし、最近、城に入り浸ってて家に帰って来ない母さんが知ったら、怒られるのはパパなんだから、これ以上は本当に止めて欲しいと思ってるよ……。


 でも、パパの気持ちとしては、本当は早く孫の顔が見たいって思ってる。



-・-・-・-・-・-・-



 ワンタンとの会話の中で思い出しちまった大事な事……それは、麺だ。俺はラーメンスープにばっかり夢中になっていて、麺の事をすっかりサッパリ忘れていた。

 確か、俺の記憶が正しければ麺は小麦粉だったよな?小麦粉は小麦から作れるから、植物ならマシマシマシマッシに頼める……よな?

 小麦粉の中にナントカ力粉りきこってあった気がすっけど、そんなのは知らねぇから、気にしねぇ。



「お袋?どうしちまったんだ?」


「あ?あぁ、すまんすまん。ワンタンの説明だったよな?」


「それはもういいや。なんか、お袋忙しそうだし。ところで、体調はもう平気なのか?それなら、あたいが姉ちゃん達を呼んでくるよ!」


「あ、あぁ、宜しく頼……める訳あるかぁ!」


「ど、どうしたんだ、お袋?!急に大きな声を出して」


 俺は色んな事が一気に起きたせいで、いっぱいいっぱいになってた。だから見落としていたんだ。目の前にいる、ワンタンが全裸だって事をだ!

 多分、昨夜進化したんだろう。その前は牛だったから、服は着ていなくて当然だが、進化したら全裸は流石にマズい。


 それにしても、ワンタンは幼女のクセに胸がエラいデカい。豚骨トンコッツも幼女の時からそこそこあったが、それを遥かに超える発育の良さだ。

 まぁ、ワンタンは牛だから、ホルスタインって言われても問題は無ぇかもしんねぇって思えた程だ。だが、それならば尚更、全裸はマズい。


 ——だから俺は、二人を呼びに行こうとしたワンタンを止め、荷物の中から着られそうなモノを探す事にした。

 そうしたら、王都で豚骨トンコッツに買ってやった服が出て来た訳さ。



 背に腹は替えられ無ぇし、全裸のまま歩かせるなんて教育に良くないのは当たり前だから、取り敢えずそれを着せる事にした。

 他に白湯パイタンに買ってやった服もあったが、ワンタンの胸のサイズ的にはその服より、豚骨トンコッツに買ってやった服の方が適切だろうと思うのに時間は掛からなかった。

 ちなみに、マシマシマシマッシにも服を買ってやろうとしたんだが、蔓の邪魔になるって言われたからやめた。



 ——で、着せた訳だが、そりゃあ大人のサイズの服を幼女が着ればダボダボになんのは当たり前だ。当たり前過ぎるが、発育が良過ぎるとずり落ちないでちゃんと止まるのな……。

 流石に胸の先端が見えそうで見えない、絶妙なチラリズムを醸し出して……って、俺は何を言ってるんだ?俺に幼女趣味は無ぇって散々今まで言ってきたのが、信用されなくなっちまうだろうが……はぁ。




 まぁ、そんなこんなで服を着たワンタンが二人を呼びに行ってくれた訳だが、戻って来た豚骨トンコッツ白湯パイタンもなんか悲しそうな顔をしてた。

 まぁ、そうだよな……だって、豚骨トンコッツはおニューの服を妹に取られた訳なんだから。だが、白湯パイタン……お前はなんでだ?とか流石に聞けない。白湯パイタン……お前は鶏なのにハト胸だからだよな?


 でも、俺は、ちっちゃい胸の方が好きと胸を張って言えるぜ。いや、大っきいのも好きだけど……。よ、要するに、おっぱいは正義だ。うん、そうだ!そうしよう!そうすれば、大っきくても小っさくても誰も傷付か無ぇからな。

 だが、俺は幼女趣味じゃねぇ。いくら、大っきいおっぱいを持った幼女でも、俺の守備範囲には入らねぇ。犯罪ダメ絶対ってヤツだ!だってさ外見が幼女じゃなければ、お巡りに捕まらねぇだろうが、外見が幼女は一発でアウトだからな……って、俺は何を言ってるんだ?

 だんだん、頭が可怪しくなって来てる気しかしねぇ。



 まぁ、話しが大分……いや、かなりズレたが、本題が纏まった訳じゃ無ぇ。本題……それは、どうやってラーメンの麺を作るか……だったよな。


 前に見たテレビの企画でも麺については触れてた。要するに、小麦粉と塩と変な液体入れて、こねてこねて後は切るんだが、その液体が問題なんだ。

 えっと……なんだっけ?冠水だっけか?道路が水浸しになっちまうんだよな?いや、そぉじゃねぇ。

 それにそんな泥水入れた麺なんざ、喰いたくも無ぇ。じゃ、カンスイってなんだ?灌水?完遂?寒水?韓遂?いや、最後のは文約ぶんやくだっけか?裏切っちまうからナシだ。

 でも、そのよく分から無ぇ、カンスイってのがなきゃダメって事だよな?ちなみに、韓遂文約ってのが分からなければ調べてくれ。昔にいた武将かなんかだった筈だ。



 まぁ、悩んでも仕方が無ぇモンは仕方が無ぇ。だが、材料の確保だけはしておく必要がある。だから小麦はマシマシマシマッシに頼んでおいた。そして頼んだはいいが、どうやら問題もあった様子だった。

 まぁ、その点に関しては現時点ではどうしようも無ぇし、取り敢えず帰りの旅路を急ぐ事にした訳だ。




「お帰り、クレア。女王陛下はどうだった?粗相はしなかったかい?」


「それは大丈夫さ。それに女王サマから、ご褒美を貰ったぜ」


「ご褒美?一体何を貰って来たんだい?」


「切り身の報酬で、金貨1000枚だ。まぁ、俺には宝の持ち腐れだから、これはパパさんに渡しとくよ。家を建ててもらったしな」


「女王陛下は食欲に関しては太っ腹だからねぇ。でも、クレアがくれるって言うなら、パパはちゃんと貰っておくよ」


「でさ、パパさん……また、お願いがあるんだけど……いいかな?」


 俺達が王都から戻って来た後で、俺はその問題解決に乗り出す事にした。それは……マシマシマシマッシじゃ、小麦は作れても、小麦粉は作れねぇって事さ。

 そして更に、大量の小麦粉を作るには、大量の小麦を作る必要があって、大量の小麦を作るには、広い畑が必要って事になった。

 まぁ、当然っちゃ当然の流れだ。


 で、例によってパパさんへのお願いタイムってヤツが来たって訳さ。そりゃあ突拍子も無いお願いに、いつも通りパパさんは困惑するんだが、その困惑に対して勝負を掛ける方法は2種類ある。

 1つ目は可愛らしくおねだりってヤツで、この方法は他の誰にも見せられない、門外不出で企業秘密だから実演してる所を見せられねぇ。

 残念だったな。


 2つ目は公爵プリンセス家の威信に掛けてってヤツだ。だから、2つ目はお願いって言うよりは脅迫だが、まぁ、モノは言いようってヤツだな。

 とは言え、そんな事を言っちまったヤツが悪い。



 で、結局、パパさんは折れる。そりゃ、可愛いクレアの頼みだから折れてくれるさ。中身はおっさん山形次郎だけどな……くくく。

 ってな訳で、公爵プリンセス家が所有する広大な土地は畑になった。更に言えば、出来た小麦を粉にする粉挽き所も建ててもらった。

 まぁ、そう言う訳だから渡した金貨1000枚は失くなったかもしんねぇな?だから、おっさんには投資ってヤツだと思ってくれって俺は願う事にしたよ。まぁ、不動産投資には向いてねぇおっさんの事だから、言うなればこれはクレア投資ってヤツだな。

 一体、何に対しての投資だか分から無ぇから、怪しい以外の何物でもないとか、言わねぇでくれよ?




 こうして、一気にラーメン作りは飛躍していった。各所で大問題は解決してねぇし、その目処すら立って無ぇが、まだ猶予はある。

 猶予があるって事は、心に余裕が持てるって事だ。余裕がある事は素晴らしいと思うぜ。




 そして、そんなこんなのなんちゃらかんちゃらの、うんじゃねかんじゃねで、試作1号が完成した訳だ。ちなみに出汁は昆布と椎茸。

 残念ながら鰹出汁は間に合わなかった。鰹の切り身節を作るべく、茹でてから燻製にしたんだが……まぁ、出来上がったモノはいい感じだったんだけど、

 結果として改良に改良を重ねるべく、更に手を加えてたら時間が足りなかったのさ。試作1号には間に合わなかったってヤツだな。

 でも、追々鰹出汁も加えたスープが完成すると俺は感じてる。これぞまさしく、追いがつおってヤツだろ?



 そして次に、麺だ。マシマシマシマッシに作ってもらった小麦と、おっさんに作ってもらった粉挽き所が火を吹いて、小麦粉は直ぐに完成した。

 いや、火を吹くってのは、火事になった訳じゃねぇからな、勘違いすんなよ?


 んでもって、その出来た小麦粉に塩を入れてよく混ぜる。カンスイは結局分からなかったから材料は、あとそこに水を足しただけだが、なんとかなるだろって感じで、それをよくこねる。

 こうして出来た生地をよく伸ばして、細長く切っていけば麺は完成って訳さ。




 完成した麺を茹でて、温かい出汁スープの中に泳がせたら……なんとびっくり、うどんが完成した。

 かが……いや、うどん県民の朝の食卓を彩るうどん。出来上がったのは醤油を使わず色が透明に近いから、関東って言うよりは関西風のうどん……になるのか……な?

 えっと……俺はうどんを作ってたんだっけ?



 出来上がったモノに衝撃は受けたが、兎にも角にも実食。取り敢えず、毒味……じゃなくて、初うどんを食べてもらったのは、豚骨トンコッツ白湯パイタンマシマシマシマッシとワンタンの4名。

 要するに、これを作る為に頑張ってくれた最大の功労者達だ。ワンタンよりは、おっさんの方が功労者に入るかもしれねぇが、ダンジョン内の家に呼ぶのは流石に無理ってモンだから、仕方が無ぇ。初うどんはオアズケだ。



「まま、これ美味しい!」


「そうか?」


「ママ、本当に美味しいよ!」


「そ、そうか?」


「母さん、このモチモチとした食感、凄くいい」


「本当か?」


「お袋、あっさりとしてるスープの中にある旨みが、凄くこのモチモチと合ってていい」


「ほ、本当か?」


「「「「これが、ラーメンなんだねッ!」」」」


「いや、それは残念ながら、うどんだ」


 まぁ、これがテレビの中なら、ズコっとコケるシーンだよな?

 俺はテレビっ子だからな、それがお約束だと思ってたぜ。だが、目の前にいる4人はズッコケる事なく一心不乱に目を輝かせながら、うどんを食べてた。

 初めての食感に初めて感じる出汁の旨み。それを味わって味わって、味わい尽くそうとしてるのが俺には見えた。


 具の1つも薬味も無い、ただの素うどんだぜ?かけうどんって呼ぶのも憚られるそんな料理を「旨い」「美味い」と言って食べてくれるコイツら4人を見てたら、俺の目頭は急に熱くなっていた。

 でもさ、これって……うどんなんだよ……。俺が作りたかったラーメンはどこにいった……いや、どこで何を間違えたんだろうな?



 でも落ち込むなんて事を俺はしねぇから、取り敢えず食べて見る事にした。これが美味かったら、ラーメンって事にするのも、アリだと思ったのさ。

 それは、詐欺だって?いやいや、詐欺じゃねぇよ。だって、ラーメンが無い世界なんだから、初めて見た料理の名前が真実だろ?

 日本じゃ、うどんをラーメンって言ったら怒られるけど、ラーメンが無い世界なら、うどんだってラーメンになれる筈だ。

 ——なぁんて、屁理屈を捏ねる気は毛頭無ぇ。まぁ、麺はこねる事でコシが出るけど、屁理屈捏ねてもコシは出ねぇからな。

 俺、今さ上手い事言ったよな?褒めてくれてもいいんだぜ?山田くんに座布団持って来させてもいいんだぜ?

 まぁ、俺の知り合いに山田って苗字のヤツはいねぇけどな。



 盛大に話しがズレちまった……。


 で、食べた感想なんだが、日本人としては納得出来ない味だった。だってさ、俺は思い出させられていたからだ。

 日本人の心が宿る究極のラーメンスープを目指した筈なのに、このうどんつゆには日本人の心は宿っていても、究極って言うには何かが足りず、程遠い出来だったんだから……。



 でもま、コレがこの世界に来てから初めて食べた日本食だった訳で、その点に関しては感動だったね。久しく食べてなかった日本食の味だから、それも踏まえて尚更に目頭は熱くなっちまったよ。

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