第4話 俺の独白

「うーん……これは干物だな」


 俺の名は山形次郎。こんな名前だが、山形県産まれじゃねぇ。だって当然だよな?香川県産まれだから香川さんとか見た事ねぇし、東京産まれの東京さんとかも会った事無ぇもん。だからただの苗字ってヤツで俺は山形出身じゃねぇからな、ちゃんと覚えといてくれよ?

 そして次に名前が「次郎」だが長男だ。いや、兄弟がいる訳でも無ぇ。ただの一人っ子ってヤツだな。

 だからな……一人っ子だった俺は子供の頃から兄弟に憧れてたモンさ。俺が豚骨トンコッツ達に仲良くして欲しいって願うのは、それがあるからかもな。



-・-・-・-・-・-・-



「あ、あのさ……これが、セーフハウスなのか?どっちかって言うと、政府ハウスが正解じゃねぇか?」


 俺は絶句していた。ダンジョンの中に家を作ってくれとは確かに言った。だが、出来上がった家を見た途端、俺は流石に言葉を失ったぜ。


 その家は地上三階建て。いや、ダンジョンの30階が地下だから、正確には地下30階の地上三階建て……になるのか?そしたら、地下27階……とか、野暮なツッコミはいらねぇからな。

 とは言っても、そのまま地下27階までぶち抜いてる訳じゃねぇ。



 地下30階の課長部屋の前に少しばかり開けた場所があったから、そこに家を作ってもらった訳なんだが、そこは天井まで結構な高さがあった。

 だからといって、そこに三階建ての家を作るなんて想像出来るか?いや、可怪しいだろ!


 ま、まぁ、俺はそんなに広い家が欲しい訳ではねぇんだよ。それに公爵プリンセス家の威信ってのがコレなら、「やっちゃえ、おっさん」とは思っていたが、「やっちまったな、おっさん」と思わざるを得ねぇ。

 ——それにコレ、いくら掛けたんだよ……。一時的な拠点にそんなに金掛けるとか、頭が湧いてるとしか思えねぇってのが本心だった。


 だが、とりま内見はしてみた。




 家はダンジョン内に建てられているから、窓は無ぇ。まぁ、景色なんて楽しめる場所じゃねぇから当然だし、その方がモンスターから侵入される恐れが無くなるって事だろう。

 所謂、セキュリティ面もバッチリって奴だが、家の玄関はオートロックじゃねぇから、そこら辺のセキュリティは確実にしないとダメだな。

 まぁ、モンスターが玄関開けられるかは知らねぇけど。



 一階部分には、キッチンや風呂の他に、俺が注文した乾燥室がちゃんとあった。この家の目玉は乾燥室だから、それは俺が考えた理想通りの部屋になってたから、その点は「やったな、おっさん」だ。


 乾燥室は俺が好きだったサウナを元に考えたんだ。えっ?俺がサウナ好きだって知らなかったか?前に言わなかったっけか?まぁいいや、そんな事より、このサウナ式乾燥室の画期的な点はな、熱風を送る事じゃねぇ。

 だって、切り身に熱風送ったら切り身が焼き魚になっちまうだろ?だから、薪を燃やした熱でファンを回して、それで風を起こす形にしたんだ。——って説明しても伝わりにくいよな?だから、その点は頭の中の想像力で補うか、そーゆーモンだって事でスルーしてくれ。

 要するに、風を送って乾燥させる乾燥室だって事だ。まぁ、蓋を外せば熱を乾燥室内に取り込めるから、熱でも乾燥させる事も出来るって寸法なんだが、説明すんのが難しいから、想像力でなんとか察してくれ。

 余計なチャチャとか本当に要らねぇからな、頼むよ。



 ちなみに……どうせなら皆でこの家に住もうと考えてたんだが、マシマシマシマッシはダンジョンに入るのが本当に嫌なんだとさ。なんか、モンスターに攻撃されると溶けるとか言ってたから、無理強いさせない方向で調整した。

 調整した結果、マシマシマシマッシ公爵プリンセス家でお留守番って事になった。本人もちゃんと納得してくれたから、それは良かったと思う。

 でもさ幼女一人でお留守番なんて心配の種でしかないよな?まぁ、種から産まれた植物人間だけどさ……。

 でもただのお留守番じゃ詰まんねぇだろうと思ったから、お役目を申し付けておいた。その1つ目が御庭番だ。



 実は畑を作ったんだ。そこに野菜から採集した種を蒔いたから、地上では今、野菜を作ってる。マシマシマシマッシはその畑の番をしてもらう事にしたのさ。

 んでもって御畑番じゃカッコが付かねぇから、御庭番って訳だ。



 そして2つ目のお役目が、このダンジョン内の家にある仕掛けだ。

 要するにこの家には、マシマシマシマッシの協力があってこそ成立する仕掛けがあるって事だ。




 マシマシマシマッシは植物人間だから足を地面に根付かせる事が出来るらしい。

 そうする事で、蔓を地面の中に送る事が出来るって言ってた。そしてその蔓を使って色々な事が出来るんだとさ。



 その1つが蛇口だ。マシマシマシマッシは魔術適性ってのを持っていて、その適性のお陰で水属性の魔術ってのが使えるらしい。

 要するに、蛇口ってのはその水魔術を蔓を経由して送ってもらうって事だ。そう言う訳だから蛇口ってのが一番しっくり来るだろ?

 でも、蛇じゃなくて蔓だから、蔓口だな。まぁ、それだと意味分かんねぇけど。



 でもそうなると、マシマシマシマッシのご飯の心配が出て来るだろ?でもそれは心配ご無用だぜ。

 マシマシマシマッシは地面に足を根付かせると、大地からクドだかケドだかを持って来れるから、俺を食べなくても大丈夫らしい。

 だけど、それだと俺が欲しい植物は手に入ら無ぇから、その時は俺の寝てる部屋に蔓を伸ばして食べるとかって言ってた。



 そしてその蔓口だが、魔術を送るだけじゃなくて、野菜とかも含めて色々な物も送れるらしい。なんか、便利な道具が出て来るポケットみてぇだよな?まぁ、名付けるなら子供向け番組の青狸にちなんで「三次元蔓」になるだろうけどな。

 ——やっぱり意味分かんねぇな。



 でも実際、お留守番してても根付いてねぇと何も出来無ぇってマシマシマシマッシは嘆いてたから、俺の部屋にいても鉢植えになっていても、何も出来無ぇ事に変わりは無い。なんせ部屋の中には地面が無ぇからな。

 だから、畑の真ん前に床の無い小屋を立ててもらった。その中でマシマシマシマッシは御庭番をしながら、ダンジョンの家に色々な物を送ってくれる手筈になったって訳だ。




 ちなみに、蔓口は風呂場にも設置してある。拠って風呂にもちゃんと水を張れる。でも流石に水風呂じゃ身体が温まらねぇって思うだろ?だから風呂に入るとしたら、お湯を沸かす必要がある訳だ。

 だが、その点は豚骨トンコッツのお宝が火を吹くからお湯の心配も無ぇ。


 で、その風呂なんだが、かなりデけぇ。ちょっとした銭湯くらいの広さだ。

 いや、この家に住むのは現状で三人だけなんだが、かなりサイズ感を間違えたんだろ?としか言えねぇよ。



 そしてこの家の二階と三階は全て部屋だ。トイレは各階にあるみてぇだが、下水なんかはある訳も無ぇから、出したモンがどこに行くかは考えちゃいけねぇし、感じるモンでもねぇ。

 それは永遠に闇の中に仕舞っておいてくれや。




 とまぁ、部屋だけで20くらいはありそうだが、豚骨トンコッツ白湯パイタンも自分の部屋は要らねぇって言ってたから、実質全て空き部屋になるのは決まったようなモンだ。

 これが不動産投資ってヤツなら大損だよな?そうしたらやっぱり、おっさんは投資家にはなれねぇって証明されたようなモンだぜ。え?そんな話し今までにした事なかったっけ?


 ところで年頃の娘なら親に対して隠し事の1つや2つはあるモンだろうから、自分の部屋を持ちたがると思ってたんだが……。

 まぁ、その前にコイツらは中身が幼女だったって事を忘れてたぜ。見た目に騙されるってのは、この事を言うんだな。



 とまぁ、そんなこんなで内見は無事に終わった。デカ過ぎる家に三人で住むのはどうも気が引けるが、作り直せって言っても時間が掛かるから止めておいた。それに作り直せば作り直すだけ、金も掛かるしな。

 俺はそんなに浪費家じゃねぇ。質素倹約ってヤツだ。



 で、俺達のダンジョン攻略の足掛かりになる筈のこの家だが、住めば都って言うが、やっぱり都だった。


 まぁ、俺は公爵プリンセス家の部屋にいた時から好き勝手やってたけど、流石に喘いでる声とかが部屋の外に漏れないように小さめにしてたつもりだ。

 だが、この家の中じゃそんな心配は要らねぇ。


 だから、俺の好奇心が、豚骨トンコッツ白湯パイタンの可愛らしい喘ぎ声を聞きたくなったって言ったら、俺が幼女趣味じゃねぇって今まで散々言ってた事が嘘になるから言わない。



 だけどまぁ、その分も俺は気持ち良くなったら、音量制限しないで声を張り上げるようになった。そうなるともう、完全に快楽に溺れてる感じしかしねぇが、気持ち良いのはいい事だと思うし、女になってからその気持ち良さに溺れてる自負はあるから、否定はしねぇ。

 あれ?これって、堕落って言うんだっけか?


 でもまぁ、そんな俺の変化に拠って、二人も気持ち良さに対して興味が湧いたようだ。

 これって性への目覚めってヤツかな?


 おっと、話しがズレちまった。



 ちなみに、俺が二人に食われてコド切れを起こしても、マシマシマシマッシがなんとかしてくれる……らしい。

 マシマシマシマッシは大地からサドだかシドだかを吸い上げているから、俺がスド切れで失神したら俺と粘膜摂取をシて、俺にセドを分け与える事が出来るんだとさ。


 まぁ、粘膜摂取ってのはアレだから、まだ実際に試した事は無ぇが、その場合は処女じゃなくなっちまうのかが、心配っちゃ心配だったりもする。

 それはまだ、現状では婚約者がいるからってのもあるが、処女を辞める時って血が出るくらい痛いって聞いた気がするからなんだ……。

 えっとなんだっけ?墓の傷みだっけか?墓が傷んでたら流石に直さないとマズいよな?

 って、そうじゃねぇな……うん。分かってる。でも流石に俺はMじゃねぇから、痛いのは勘弁なんだよな。


 俺が日本人だった頃に、処女と付き合った事は無ぇから本当かどうかは知らねぇけど、都市伝説ってヤツとは違うんだろ?



 まぁ、そんなこんなで下世話な話しも終わりだ。

 で、こっからは出汁を取る為に試行錯誤する話し……は詰まらねぇから、どうしような?




 俺達は30階の家をベースに更に深くまで行く事にした。二人だけだと、野菜炒め弁当の効果でも35階はキツかったらしい。

 だから、俺も付いて行く事にしたのさ。包丁ハブがあれば、楽勝だしな。


 で、野菜炒め弁当と包丁ハブ両方を兼ね備えた二人は、いやぁ強かった。結局、ダンジョンに移り住んでから、3日と経たない内に45階まで行く事が出来た。

 40階と45階で新たなお宝もゲット出来たし、それの効果で二人だけでも38階までは行けるようになったらしい。ちなみに俺がゲットしたお宝については触れない方が身の為だからな?一応忠告はしとくぜ。



 でもまぁそのお陰で、かつおの切り身は毎日手に入るようになったのさ。これで鰹の切り身節を作る為の研究が捗るってモンさ。

 ちなみに、さばの切り身節は、鰹が完成してから……って考えてたんだが、鰹の切り身だけだと乾燥室のスペースが余るから、一緒に放り込んでおいた。




「うーん……これは干物だな。俺が求めているのはこれじゃねぇ」


 乾燥室を稼働させて、出来上がったのは干物だった。そもそも鰹節の作り方なんて知らねぇから、仕方ねぇとしか言えねぇよな?



 で……まぁ、干物が出来たから取り敢えず焼いて食べてみた。

 うん、普通の干物だ。塩っ気は無いが、無いなら足せばいいし、干物を産まれて初めて食べた二人の反応も上々だった。


 で……次に出来た干物を煮てみた。

 干物を煮るって事が俺としては初めての経験だったんだが、やってみた訳さ。まぁ、そしたら切り身は普通に食えた。

 干物を焼いた時よりふっくらしてる感じで食べやすいって言えば食べやすい。

 だが、その為に干物を作った訳じゃねぇから、肝心の出汁が取れたか飲んでみた訳だが……。


 これはヤベぇな。

 出汁どころか完全に魚臭さしか無かった。要するに干物じゃ駄目だったって事だ。

 俺の調理技術の問題だろって?いやいや、それは言わねぇでくれよ……。悲しくなっちまうからさ……。

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