06 一人は孤独です!


 ううん……。


 これはこれは、どういうことでしょうか……。


 わたし、エメ・フラヴィニーは教室で頭を抱えています。


 とても由々しき事態が発生しているのです……!


 (ちなみに席順はランダムで一番後ろの窓際になりました、これはハッピー)


「だ、誰もわたしに話しかけてくれない……」


 そうなのです。


 時間はまだHRが始まる前の朝。


 2日目だから人間関係が構築されるのにはまだ時間が掛かるとお思いでしょう?


 わたしもそう思ってました。でも甘かったです。


 ここはあくまで魔法士のエリートを育成する学園。


 集う生徒たちは必然的に、知性だけではなく、魔法だけではなく、コミュニケーション能力までも兼ね備えちゃっているんです……!!


 周りにはとっくにコミュニティが形成されちゃってまして、皆思い思いに談笑しちゃってます。


「まずい、まずい……マズすぎます!このままじゃわたし、一人ぼっちになってしまいます!」


 誰も話しを聞いてくれないので机に向かって喋ってます。


 それくらいテンパってます。


 でもそんなことをしても事態は好転しません。


 気を取り直して、わたしは周囲の状況把握に努めます。


 この学園の教室は前方にある黒板に対し、半円を描くようU字型に生徒のテーブルが並べられ、階段状に上がっていきます。


 つまり左最後尾のわたしからは、ちょっとした視線移動だけで状況が把握しやすいんですねっ!


「……あ、シャル」


 右前方には女子と数人でお話に花を咲かせているシャルの姿。


 彼女はサバサバした性格をしているので女子人気が高いと聞いたことがあります。


 持ち前の性格ですぐに溶け込んでいるようですね。


 なので本当はわたしあの輪に入りたいんですが……。


 ――ギリッ!!


「こ、こわっ……」


 シャルと目が合うと思い切り睨まれました。


 “こっちに来ないでよ”


 とメッセージが手に取るように分かるのは双子の姉妹だからでしょうか。


「……いえ、あんな鋭い視線を向けられて分からない人なんていませんよね」


 諦めて違う方へ。


 今度は右後方に赤髪のリアさんの姿。


 その周りには男の子が集まっているようですが……。


「貴方、そんなことも出来なくてこの学園にいらっしゃるの?」


「そ、そうなんです……」


「センスのなさに驚きましたわ。赤子から出直した方がよろしいんじゃなくて?」


「すっ、すみません!……ぐへへ」


 ……な、なんでしょう。


 ズバズバとリアさんが辛辣なことを言っているのに、男の子みんなが喜んでいるように見えるのは気のせいでしょうか……?


 リアさんはその妖艶な魅力からなのか、次席という実力からなのか、男の子人気が高いようです。


 リアさんには魔法使えるようにならないと、ちょっと近寄りがたいですね……。


 切り替えましょう、遠くばかりを見ていても仕方ありません。


 仲良くなるにはまず近場から。


 わたしは真正面に目を移します。


「ううっ……!!」


「おぐっ……!!」


 昨日のセシルさんとの誤解劇に居合わせた男の子二人がいました。


 わたしの視線に気づいてフリーズしています。


「えっと、あの、普通にして下さい……」


「ふ、ふふっ、普通……!?」


「ぼぼぼ、僕達、ふつうです。ただの一般人です。へっ、変な事なんてしてませんから安心してくださいっ」


 ――ああ、ダメです。


 わたしの話を聞いている様で完全に聞いてません。


 何か良からぬ悪夢に囚われています。


「な、なら隣の子に……」


 前は諦めて横に視線を移す、と……。


「っ!?」


 ――ビクッ!!


 と、息を呑みながら体を震わせたのは青髪ボブのセシルさんです。


 なんと同じクラスだったのですね。


 しかも、ここで朗報です。


 彼女もわたしと同じで一人でいるのです。


 これは仲良くなるチャンスでは……?


「セシルさん、今お一人ですか?」


「み、見れば分かる……」


「なるほど、それならちょっとわたしと」


「一人の私を狙って、どうする気……?」


 いえ、そんな物騒なことをするつもりはないんですが……。


「こ、今度は教室で脅してるぞ……」


「どこまでも苦しめようっていうのか、末恐ろしいヤツだっ」


 ……前方から筒抜けな会話する男の子。


 隣にはビクビク震えるセシルさん。


 ち、近場はちょっとハードル高そう、です……。


 なら中央部はと視線を移せば、女の子たちが集まっています。


 あんな集団に飛び込めるわけもありませんし⋯⋯。


「八歩塞がりです……」


――ビクンっ!!


 え、なぜかわたしの独り言に呼応するかのように震えた音が……。


「私を八方塞がりにする……?」


 隣にはまた誤解してビクビク震えるセシルさん。


 あー……。

 

 わたしは独り言すら許されないのでしょうか。


        ◇◇◇


 いくつかの授業を終えて、次は魔法実技の時間です。


 第一演習室へと移動になります。


 昨日の魔法適性検査を行った第三演習室よりは広いこと以外には、取り立てて変化はありません。


 ヘルマン先生が黒いローブを着ながら登場します。


 魔法士オーラが一気に醸し出されています。


「それじゃみんな、魔法の練習するよ」


 ヘルマン先生は生徒の皆さんを入口の端に集め、その反対の一番奥に火の灯ったロウソクを立てていました。


「はい。じゃあそこから魔法でこのロウソクを消して」


『 えっ!?』


 みなさん一同に驚いた声を上げます。


 それもそのはずで、入口から奥までの距離がざっと50メートルはありそうです。


 その距離をあんな小さなロウソクの火だけを消せというのです。


「見ての通り、ここまで魔法を到達させるのに相応な魔力、それと小さな的に当てるコントロールが要求されるよね。それを養う練習だよ」


 先生はなんでもない事のようにサラりと言ってのけます。


「い、いきなり結構ハードル高くないか?」


「最初はてっきり魔法のおさらいからやるもんかと……」


 わ、わたしもです……。


 最初の方では魔法の手ほどきを受けれると期待していたのですが……。


「ん?ここはアルマン魔法学園だよ?必要ない所はどんどん省く。君たちは優秀なんだ、他所と同じようにする必要がどこにある?」


 お、おお……。


 淡々とした物言いですが、期待してくれているのが分かります。


 自然とやる気を鼓舞させられます。


「あ、じゃあ我こそはという人からどうぞー」


 今回は自主性に任せるパターン!


 だ、誰がトップバッターを務めるんでしょうか……。


 もちろん、わたしではありません。


 どうしたものかと悩んでいる最中ですので。


「それじゃあ、この私から早々に終わらせて頂きましょう」


 優雅に躍り出たのはリアさんでした。


「目立ちたがり」


 シャルの棘のある小言……。


 は、どうやらリアさん本人には聞こえてないようです……。


「こんなもの簡単でしてよ――フレイム!!」


 ――ゴオオオオッ!


 リアさんの炎魔法は物の見事にロウソクを焼き尽くしていました。


「あんなので騒ぐんじゃないわよ――アクア!!」


 ――プシューッ!


 シャルの水魔法がロウソクの火を鎮火させます。


「……疾風ゲイル


 ――スパッ


 セシルさんの風魔法でロウソクを切ってしまいました。


 そこでわたしは閃きました!


「次わたし行きます!」


 皆の視線が急に突き刺さりました。


「あ、あいつ魔法使えないんじゃ……?」


「いや、でも昨日はリア様を止めてたし」


「あれはマグレだって」


 なにかあらぬ憶測を生んでいますが……気にしません。


 今、わたしが集約できる魔力の全てを腕に込めます。


 魔力の奔流、その力を解放させます。


「――疾風ゲイル!!」


 わたしは腕を振り抜きます。


 ――ブンッ!!


 強風でロウソクの火が消えます。


「ま、まじかよっ」


「あれ、ラピスは魔法が使えないはずじゃ」


「フリだったていうのか……?」


 ふ、ふふっ……どうやら上手く行ったようです。


「おい、エメ・フラヴィニー」


「はいっ!?」


 なぜかわたしだけ名指しでヘルマン先生に呼ばれました。


「俺、魔法で消せって言ったのね」


「で、ですから魔法を……」


「いや、今のは鬼早いだけの正拳突きだから。異常な風圧なだけだから」


 バレちゃってました!!


「魔術で身体機能を極限に上げたんだろうが……魔法で腕の振り抜きするヤツなんていないから。このあと補習ね」


 あ、ならいいですっ!


 魔法を個別に教われるのなら問題ありません!


「また貴女は魔術だけで奇怪なことをしてらっしゃるのね……」


「アレで誤魔化そうとか、ないわ」


「……あれで私を殴る気なんだ」


 背後にいるステラホルダーさんたちの思い思いの言葉が胸に刺さりました。

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