第12話

目の前に顔中血まみれの妻が立って俺を怨めしそうに睨んでいた。


ドアを思いっきり閉めて、リビングへ逃げた。テレビを点けた。


自分を怨めしそうに見つめる目が頭から離れなかった。


こびり付いてしまった。


そんなばかなことがあるはずがない、罪の意識からくる幻だ、と自分に言い聞かせる。

ウィスキーをストレートで胃袋に流し込んだ。

暫くすると、電気がすべて消えた。

直ぐに懐中電灯を点けてあちこちを照らした。


恐怖に震えた。


二階を ギイッ、ギイッ、ギイッ と歩く音がする。


慌てて灯りを向けると、妻だ!血まみれの顔でこちらを怨めしそうに見ている。


そうしてゆっくり歩いている。


「うわっ~許してくれっ~」叫んだ。


泣き声が聞こえてきた。ゆっくりギイッ、ギイッと階段を下りて来る。


「止めろー!来るなー!」恐怖で汗がだらだら流れる。


身体の震えが止まらなくなった。


妻が一階に降り立って、自分を見ている。


血まみれの顔に怨めしそうな眼をして。


ソファからベランダの窓の方へ追詰められ、鍵を開けて真っ暗な庭へ裸足で逃げる。


それでも妻はゆっくり追ってくる。


庭木を背に動けなくなる。尻もちをついて震える。


妻は一歩、また一歩、ゆっくり近づいて来る。


そして目の前に立つ。


下目遣いで俺を睨んでいる。


血まみれの顔で泣いている。


ポタッと頬に何かが落ちた。反射的に手のひらで拭ってみると真っ赤な血だ。


「うわっ」と叫んだ。


血まみれの顔が近づいて来る。


そして真っ白い手が伸びて自分の首に触れる。


「ぎゃっ」 異常に冷たい手が俺の首にまつわりつく。


身体が硬直して動けない。


戦慄し「止めろ!俺が悪かった!許してくれっ!」かすれた声で叫ぶが、その手に力が入ってくる。


手が動かない。


殺される恐怖が全身を襲う。


顔から血を垂れ流す妻。

泣きながら、怨めしそうな目をして、首を絞めて来る。


苦しくて息が出来ない。


「うわー」渾身の力を込めて絶叫。意識が吹っ飛んだ。

 

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