泣く子は餅を一個多く貰える


「紹介しよう。以前お前の部下に殺されそうになった妻のマリアだ」


「アキラの妻のアキラカナ・マリアです。領主さまにお初にお目にかかりましたこと、大変光栄にございます」


あの裁判の日から1週間後、依然トルン領主のブラニツキと決めた婚姻の具体的な話し合いの為に城にやってきた俺は、あってそうそうブラニツキに皮肉交じりのパワハラを開始していく。


「あっあぁ……その件については申し訳ない。既に異端審問官とあなたを不当に拘束した衛士の首は揃えてある。すぐに持ってこよう」


そういいながら召使に指示を出そうとするブラニツキに俺は待ったをかける。


「おい、妊婦の精神衛生を考えろ。俺のマリアにそういうグロいのは見せないでくれ。あとで俺だけで見聞する。それとマリアはあの拘束のせいで肩を痛め、心にも深い傷を負った。俺の首を刎ねたことへの賠償は済んだが、これに関してまだだ。10万ペニーで手を打ってやる」


俺の高圧的な態度にブラニツキは額から汗を滲ませながら、少しだけ眉間にしわを寄せる。まぁもっともこれはカマかけてるだけだけどね。流石に肩を痛めだけで2億円の賠償金は無理だろうさ。だから上げてから下げて、普通より少しだけいい条件で釣ろうという算段よ。


「それは……」


「俺はこの町の商人や豪農に数多くの軍馬を貸している。物流と情報の迅速化によって外から人と物と金が集まり、町の経済は活性化している。俺はその功績の第一人者のはずだ。既にこの街の経済は私なくては成り立たないだろう。考えてみろ。今この瞬間、この街で軍馬が突然に居なくなればどうなるかを。他の村や町の商人は軍馬を使っている。向こうの輸送コストとタイムラグは限りなく少なく、この街の商人は輸送コストが上がった分だけ競争が不利に働く。そうなればそこから税を取るお前にも――」


「わっ…分かった…!!10万ペニーだな、払おう」


おっと?ここから下げようとしたのに、まさか払うとは。

だが恨みを買い過ぎるのもよくない。どうするか。


「そうか?まぁ…ブラニツキ殿とは今後とも仲良くしていきたい。もし財政が苦しいのなら少しだけ譲歩もしよう。もっともその代わりの謝礼を貰えると嬉しいが」


「いや……たぶん大丈夫だ。おいお前、今年の帳簿を持ってこい!すぐにだ!」


ブラニツキの命令に召使はすぐさま応接室の扉から飛び出していった。

そういやぁ…このオッサンには今回結婚する子を除いて、娘があと三人いるんだよね。年齢は17、16,14と全員成人している。そのうち一番年長はここから北西のビドゴシュチの領主の長男に嫁いでる。まさか今回の婚姻で平民、それもタタール人が親戚になるとは向こうもびっくりするだろうな。

でもあと二人……欲しいな。全部同じ色だから三色丼っていうか、三姉妹丼だけど。

……ほしいよぉ。俺みたいな平民、それも元異教徒の蛮族とか馬鹿にしてる貴族の甘ったれ娘をめちゃくちゃに犯して、子を孕ませる。ガチでチンチンイライラしてくるわ。


俺がそんな妄想をしながら、シミ一つないきれいな天井をボケっと見つめていると、羊皮紙の束を持った召使が部屋に入ってきた。

ブラニツキはその羊皮紙の束を召使からもらうと、そこに記載された数字の羅列を眺める。


「去年は豊作だったから30万ペニーの黒字……冬から先月までの税収は50万ペニー……支出は人件費と生活費で45万か……だが金庫には200万ペニーある……」


ブラニツキは帳簿とにらめっこしながらブツブツをしゃっべいる。

なんか今200万ペニーとかって聞こえなかった?お前ら貴族ってそんな金ため込んでんの?マジキモじゃん。ガチの上級国民やんけ……。10万ペニーで踊り狂ってた感動を返して……ほんとに…切実に。


まぁでもこいつがこんな金持ちなのはこのトルンの町を支配してるからだと思うけどね。他の領地じゃこう上手くは行かないと思う。だって陸路による交易を見るなら、この街は南北に長いクラクフ公国の南にある公都と、北部最大の人口を誇る商業都市であるビドゴシュチの中継地点だ。それに街のすぐ近くを流れるビスワ川を150km、船で東南に上っていけば、1週間ほどでこの王国内最大の都市にして、マゾフィシュ公国の公都でもあるワルシャワにたどり着く。

さらにさらに、川を北に下っていけば、バルト海にでる。その入り江の近くには西から来た帝国騎士団が領有する城と港があって、バルト海貿易の要所だ。

そんな交易上最高の立地だから公国北部の商人の多くはビドゴシュチを始め、その衛星都市であるトルンに集まる。しかも川沿いを支配しているから農業の収穫も他の領地より多い。そりゃそんだけ金溜まりますわ……やべぇ…なんかこの街も欲しくなってきちゃった♡アキラ君タタール人だからって欲張り過ぎ♡

もっとも普通の馬車じゃ一日に10kmほどしか進めないし、船だって用意するには金がかかるし整備するのもそう。それに多くの人夫が必要だから正直参入障壁は高かった。そう、これまではね。


今は高価な馬を買わずに安く、早く、食事もいらない軍馬のおかげで移動日数が短縮した。軍馬一頭だけでも3両の荷台ぐらいなら平気で牽ける。もっともそうなると最高時速は40km/hほどになるけど。それでもここからクラクフまで片道7時間でいけるし、ワルシャワまでなら往復で半日もかからない。これだったら金のかかる船を使う必要もない。


だからこれまで馬にかかった経費や人件費が大幅に減ったことで利益も増えて、同時に参入障壁も低くなったから、ここ周辺は商人の競争が激しくなってる。


いちようこの公国の仮想敵であろう、他の公国の商人には軍馬は貸してないから、

ワルシャワの商人たちが没落するのも時間の問題だろう。


そんなことを考えていると、向こうの確認も済んだらしい。


「長いこと帳簿を睨みつけてたが決まったか?」


「あぁ…奥様への賠償金、10万ペニーはしっかりと払おう」


「ならこの契約書にサインを」


「うむ」


懐から取り出した羊皮紙に俺とブラニツキはサインしていく。そして話は婚姻へと移り、俺が駄々をこねたせいで多少は難航したが、これも無事に話はまとまった。


婚姻の内容として一か月後にこの城で俺とオルガ・クレメンスの結婚式が開かれることなり、結婚式から半年後に俺の住む村に、侍女としてオルガの姉妹である16歳のモニカと14歳のエミリアと共に嫁ぐことになった。

ブラニツキとしては二人を侍女にして送り出したくはなかったと思う。

俺の思惑にだって気づいてるだろうし、血族の女性は政略の道具としても取っときたいだろうしね。でも侍女分の化粧台は放棄したらなんとかOK出してくれた。

ただオリガには5万ルピーの化粧台もとい、俺への賄賂が贈られることが決まった。


あと俺は前回の反省から、これから公都に行こうと思ってる。

だからブラニツキにはついでにクラクフ公爵への推薦状も書かせた。


こうして俺は新たなビジネスチャンスと共に、15万ルピーをアイテムボックスに収納してマリアと共に帰宅した。


え?マリアの賠償金はどうなるのかって?俺のものだよ?この時代は十字教の教えも関係してか、財産の所有権は男性にあるからね。ていうか厳密には女性そのものが男性の所有物らしい。ちなみに話はそれるけど、実は魔法使いがこの大陸に少ないのはこれが原因だったりもする。つまるところ男性しか魔法使いになれないの。十字教での「魔法」は神が最初の人類アダムに与えた「特権」っていうことらしい。だから本来は「女性は魔法を使えない」という世界観だ。それなのに魔法を使える女性が居たら、それは悪魔サタンと契約し身を売った魔女だとして火あぶりにあう。

つまるところ自分より優れた女性が、自分たち男の地位を脅かすのが怖いのだ。

確かに俺は女性を性欲発散と繁殖道具として見てる部分はあるよ?

でも流石にこれはちょっと内心引いてる。最悪おれが火あぶりにあうから、口や態度には絶対出さないけど。

俺がフェミニズムだったら発狂してこの国滅ぼすレベルだよ。

まぁそれでも、男女間の格差より身分格差の方が本当にひどいから、多少はね?

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