第3章

1話:復讐と蹂躙

 ハウザーの側に、アゼッタが降り立った。

 八魔将であるアゼッタの登場に、グレイとレイの表情が険しくなる。


「ハウザー、大丈夫ですか?」

「ああ。アゼッタもいるとなると、向こうは片付いたのか?」


 ハウザーの言う『向こう』とは、東部の海域から攻めてきた連合軍のことを指していた。

 当然、アゼッタも言葉の意味を理解している。


「連合軍はフェイドが一人で殲滅しました。私が出向く必要すらなかったですよ」


 改めてフェイドの強さの異常性を目の当たりにしたことで、魔王であるエリシアが協力を頼むのも納得がいった。

 敵だったことを考えると震えが止まらない。アゼッタは「敵じゃなくて良かった」と心の中で安堵した。

 アゼッタの言葉は勇者である二人の耳にも届いていた。


「まさか、イレーナが破れたのか?」

「あの女は計算高い冷酷な奴だ。そうしくじるとは思えない。あの言葉が本当だとしたら、どうして作戦が――まさか!」


 レイがフェイドを見る。


「二ヵ月ほど前に、街でお前を見たという報告を商人がしていたが、その時に計画が漏れていたか」

「そういうことだ」

「だがイレーナを倒したというのは嘘の可能性もある」

「レイの言う通りだ。ハッタリかもしれない」


 二人はフェイドがイレーナを倒したことを信じていないようだった。

 突然、フェイドの足元から影が広がっていき、そこから二人も見たことがある人物が現れた。


「イ、イレーナ、なのか……?」

「これは一体……」


 以前の面影はあるも全体的に黒く判断に欠ける。それでも持っている杖は彼女が持っていたのと同じであり本物だった。

 故に判断した。これは本物だと。


「だとしたらこれは死霊魔法か?」

「テメェ! あの時のように死んだ者をアンデットにして何が面白い!」


 グレイとレイがフェイドへと批判的な眼差しを向ける。

 人類では死んだ者をアンデットして蘇らせるのは法で禁じられており、それを犯した者には重い刑罰が待っていた。

 フェイドは二人の勘違いを鼻で笑い訂正する。


「何が可笑しい?」

「死霊魔法? アンデット?」

「これはそうじゃないのか? ドラゴンも同じくアンデットとして使役しているのだろう?」


 グレイはイライラしながらもそう説明する。


「違うな。見当違いもいいところだ。これは俺の軍勢だ」

「軍勢、だと?」

「そうさ。グレイ。俺の祝福ギフトが覚醒したのは知っているはずだ」

「忘れもしないさ。この手でゆっくりと殺そうと思って逃げられたからな」

「なら知っているだろう? 俺は死んだ者や魔物を闇の軍勢として配下に加えることくらい。アレから四年。俺は力を蓄え、配下を増やしてきた。これがその成果だ」


 そう言ってフェイドは足元の影を広げる。それは空間まで侵食して次々と漆黒の軍団が現れた。

 ドラゴンやワイバーン、兵士に魔物が続々と現れその数は数万にも及び、周囲を埋め尽くした。何よりも目を引いたのは、一際強大な魔力と気配を放っている漆黒のドラゴンだった。


「まさか、厄災のドラゴンすらも倒したと言うのか⁉」

「国を一夜で滅ぼした伝わる厄災の龍……」


 黒龍が咆哮を上げた。それは神威のごとくすべての者を畏怖させる。

 そしてフェイドから溢れる黒い魔力と殺気をコートのように纏い、口元を歪めて笑みを深めた。


「さあ、鏖殺を始めるとしよう」

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