天使事変

ミステリー兎

始まり

 オレ、世良熾音せらしおんがまだ産まれていない20年前のこと。東京23区のシンボルタワー上空に翼の生えた人型生命体が観測された。ソレがいったい何なのかを調べる間もなく、東京は眩い閃光とともに一瞬にして火の渦に包まれた。我々は奇跡的にソレの声を拾っていた。ソレは人の言葉を使い、次のように語った。



『現世の言葉で名乗ろう。私は天使、平和のための使者だ』



 それから20年――。


 今でもこの出来事は「第一次天使事変」と呼称し、昨日のようにニュース報道されている。それはそうだろう……何万という数の人間が亡くなったんだ。歴史的建造物から家族が暮らす集合マンションまで……全てが奪われた。

 

 え? 何で第一次って? それは天使関係の事変がこれ1つじゃないからだ。「第二次天使事変」、オレが産まれた年から起こり始めた超常現象。


 復興が始まった東京駅。突然奇声をあげながら拳でレンガ造りの壁を破壊している若い男性がいると通報を受けた警察は現場で目を疑ったという。その男性は腕や足、眼が4本ずつあるバケモノのような見た目。恐れおののいた当時の警察官は武力を行使し、現場を収めたという。これが始まりだ――。


『あれは人間じゃなかった……。それに何度も言うが噓じゃない、アレの遺体を確認した時だ……。背中のあたりから白い小さな翼が生えていたんだ』


 こういう当時の実体験から歴史を学ぼう的な番組をやるのは構わないが、ゴールデンタイムに放送しないでくれと毎回思う。ご飯の時間くらいは楽しくありたいじゃないか。


 バケモノが現れては報道して、実体験を語る。犯罪者がバケモノに変わっただけだとネット民は話すが、オレはみんなの危機感が薄れている気がすると思う……。



 ここまでが昔と今の日本の話。要するにだな……。天使と名乗る者が現れて、東京は破壊された。そして、今日までの復興する中で狂暴化、異形化、通称天使化する人間も現れるようになった。ソレラには天使の羽のようなものが確認されている。これだけは覚えていてほしい。

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