異世界来たのでギルド職員なってみた〜フツメンは異世界でフツーに暮らします

東ノ山

第1話 就職

「失礼しますっ」


 重厚な木製扉を押して面接官の待つ会議室へ踏み入る。


 爆発しそうな心臓の鼓動を隠して自然体を装う。


 面接官は三人。

 左から支部長、ギルド長、人事担当者。


「ご着席ください」


 人事担当の女性の案内にしたがって、「失礼します」と一礼し椅子に腰を据える。


 よしっ。

 やってやるぞ。


―――――


 田中隆ことタナカは試験の一週間後、アスペン支部より届いた合格の一報に歓喜した。

 アスペン支部、ギルド新人職員採用試験の三次試験を見事突破したタナカは晴れて正式なギルド職員となることになった。


―――――


 やったぜ!!!

 やってやったぜ!!!!


 初出勤の朝、ギルドより貸与された制服に着替えながらタナカは内心ウハウハであった。


 思えばここまで来るまで大変な道のりだった。


 休み時間に寝てたら周りが騒がしく、起こされてみれば森の中。

 詰みともとれる状況だったが、ヲタク達が活躍してくれたお陰でどうにか街までたどり着けた。

 今思えば、魔物と対敵することもなくスムーズに街までたどり着けたのは漫画とかでよく見た『主人公補正』とやらなのではないかと思う。


 あのハプニング事件からもう一年か・・・。


 皆、元気にしてるだろうか。


 友人伝いに耳に入ってくるそれぞれの現在をふと思い出す。


 何を勘違いしたのか無謀な夢を見たヲタク達と一部の陽キャはアスペンの冒険者になったようだ。

 まだ誰も死んでないみたいだけど、いつ死んでもおかしくないとか・・・まぁ冒険者だしそんなもんだろう。

 女子の中にも冒険者なったのもいたみたいだけど、大半は住民ギルドの生活保護を受けながら日銭稼ぎらしい。

 こっちは生活には困っているとかではないらしいし、きっと元気なはず。

 俺の友人が多く属するヲタクでも陽キャでもないフツメン軍団。 

 彼らは異世界に来てもフツーに朝起きて仕事して飯食って風呂入って寝るという生活をしている。


 そして、俺は一年間宿屋に閉じこもって勉強と宿屋のバイトに勤しんでいた。

 

 その努力がつい三週間前に実を結んだというわけだ。


 流石に就職したのだボロ宿とはおさらばして、ギルドが管理している職員向けの賃貸物件を借りることにした。

 

 しかも家具備え付きで、全ての『魔石対応』なのだ。

 

 ボロ屋での生活で魔石の有り難みをよく理解していたし、ここに来たときはめちゃくちゃ感動した。


 一人暮らしには勿体なく、広い気もするがバルコニーと庭付きの物件に住むことができるのだ。

 

 上着の胸ポケットに職員証を挟み、テーブルの上の鞄を肩にかけて玄関へ向かう。

 腰ほどの高さがある靴棚の上においた木箱の中にある財布を取り出しスラックスのポケットに仕舞い玄関の扉を開く。


「いい天気だ」


 あぁ、なんて素晴らしいんだろうか。

 これで一生安泰だ。

 

 さぁ、異世界ライフの幕開けだ。


――――――


 

 アスペンのギルド支部が年一回の募集をかけ、16ー20歳までが受験することができる新人職員の志願者はおよそ500人。

 厳しすぎる書類選考、難しすぎる筆記試験、圧迫感がすごい面接試験の三段階の超難関試験突破し最終合格を勝ち取れるのは受験者全体で30人程。


 試験を突破した者には国内最高基準の給与が保証され、各種手当も充実している。


 王族や貴族でも冒険者でもない一般人であれば誰もが欲しがる最高の地位。


 それが『ギルド職員』なのだ。

 

 

 

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