第13話 スターズ No.3
<ご注意!:本話には非常に残虐な描写が含まれています。心温まる要素は皆無です。苦手な方は、「『スターズ No.3』エリオット・バーザムは悪い奴」とだけご承知おき頂き、本話はスキップされることを推奨します。>
「ここでいいぜ」
夕日の名残が微かに残る頃、暗く寂れた路地の口に似合わない高級車が停まった。
白いスラックスが高級車の開いたドアから伸び、男が1人、薄暗い路地に降り立つ。
2mを越える長身、厚い胸筋と不敵な笑みが野性味を感じさせる壮年の大男だ。
ポマードで栗色の髪を後ろに撫でつけ、黒いシャツのボタンは3つ目まで開いていて、己の筋肉を見せつけている。
「明日は10時から会議がありますので、それまでにお帰り下さい」
「わかったわかった」
車内の付き人に背を向けて手を振るや、地を蹴る、じゃりっ、という音と共に大男の姿が消える。
アスファルトにわずかな亀裂を残して地面を蹴った大男の姿は、もう4階建てのビルの頂上に居た。
夜間、この速度で動く彼を、認識できる人間はごくごく僅かだ。
彼の行いを阻める者は、もっと僅かだ。
手慣れた様子で、屋上から貧しい者たちが集まって暮らす夜の町を見渡す。
彼の鋭敏な視覚にとっては、この程度の暗さならば昼間と変わらない。
今でこそ騎士爵を賜っているが、大男は元々貧民街の出だ。
かつて周りの悪ガキどもと暴れてた頃と、彼の印象はあまり変わらない。
「いい餌がいねえかなっと。・・・お、アレとかどうだ?」
買い物袋と画材らしきものが入った鞄を抱えて足早に家路につく、若い女性の姿が大男の目に留まった。
◆◆◆
どうしてこうなったんだろう?
わたしが何か悪いことをしたんだろうか?
分かることは、もう私は絵筆を握れない。
大好きだった絵はもう描けない。
だって私にはもう両手が無いから。
足も変な方に曲がってる。
さんざん犯されてあそこもお尻も痺れてる。
さっきまで体中が痛くて辛くて悲しかったけど、だんだんなにも感じなくなってきた。
寒い。
悔しい。
悲しい。
どうしてわたしなの?
視界の端の写真立ての家族と彼の笑顔が滲む。
ああ、父さん、母さん、ロイ・・・。
◆◆◆
「ありゃ、もう死んじまったか」
大男は、虚ろな目で涙を流す女だったものからずるり、と自身を引き抜き、ファスナーを引き上げる。
部屋のベッドへ若い女だったものを放り投げ、口にくわえていた『骨付き肉』を手に取り、嚙みちぎって咀嚼し、飲み込む。
あちこちが赤黒く染まっている白いスラックスが目に入り、わずかに顔をしかめる。
「あー、次から白はやめとくか。まあ、どっちみちメシの後はもう着れないが」
別にコレを食べないと死ぬとかいうわけではない。
体に悪いものの方が美味い。
昔は我慢していて、今はあまり我慢しなくてよくなった。
ただそれだけのことだ、と彼は考えている。
「温かいうちにもう少しいっとくか」
2口、3口と続けて味わった後、ぽい、と食べ残しを放り投げ、ノブのねじ切れたドアをくぐって男は言った。
「おかわりはどこだあ? 次はもう少し脂がのった女がいいなあ」
ぺろりと口元の血を舐める。
『スターズ No.3』"ワーウルフ"エリオット・バーザムは、食人鬼であった。
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