第7話 すべてそなたの思うまま

(はい?蜜月?)


 初めて聞く単語に首を傾げるシルビア。アレンを見るとアメジストの目が濡れたようにきらきらと輝いていた。良く分からないがなんだかとても嬉しそうだ。


「よし、ではアレン、娘をくれぐれも頼んだぞ!期間は問わない!せいぜい可愛がってやってくれ」


「はい。では皆さま、失礼いたします」


 恭しく三人に向かって礼をすると、今度はアレンがシルビアを抱えたまま窓から飛び立った。


「シルビアー!頑張るのよー!」


「アレン!娘を頼むよー!」


「いやぁ、孫が生まれるのが楽しみだね!」


「そうね、あなた!」


「姫様ー!ガッツですぞー!」


 激しくテンションの上がった三人の声を遠くに聴きながらぐんぐんと離れていく城をぼーっと眺めるシルビア。なんという飛行速度!あれよあれよという間に、巨大な天空城は豆粒ほどの大きさになってしまった。


「へっ?えっ?アレン、ど、どこにいくのじゃ?」


 展開の速さについていけなかったシルビアは、はっと気が付きアレンに尋ねる。これからどこに連れて行かれるのだろう。


「姫様のお望み通り、この世の果てまでも参りましょう」


「はぇ……?」


 いやいや、温室育ちのシルビアにはこの世の果ては荷が重い。ようやく運命の番は見つかったので、できれば住み慣れた城で二人、のんびり過ごしたいのだが。そんなことを思っていると、アレンが耳元で甘く囁いてくる。


「ようやく願いが叶ったのです。一刻も早く姫様と番にならなくては」


 アレンの言葉に首をかしげる。確かに婚礼はまだだがそれは王族として儀礼的なもの。竜人族は確かお互いが番と認識さえすれば番うことができるものだと聞いたことがある。


「もうわらわたちは番になったのでは無いのか?」


 こてんと首を傾げるシルビアに愛おしそうに口付けを落とすアレン。


「やはり姫様は箱入りですね」


 当たり前のことを言うアレンにちょっぴりふくれてみせる。もちろんシルビアほどの箱入りはいない。なぜなら竜王のただ一人の姫として、徒人(ただびと)では決して立ち入ることのできない城のてっぺんで大切に大切に育てられていたのだから。


「当たり前じゃ。姫なのだから」


 そんなシルビアの様子を見てさらに笑みを深めるアレン。


「ええ。これからは分からないことは何でも私が教えて差し上げます」


 爽やかな笑顔を見せるアレンにまた胸がときめく。よく分からないけど取り敢えずアレンに任せておけば安心だ。


「頼もしいのう。蜜月とやらはアレンに全て任せるゆえ、頼んだぞ」


「ええ、全て私にお任せください」


 アメジストの瞳が甘やかに蕩けて思わずうっとりしてしまう。そうか、きっと結婚前に二人きりで旅行にいくのだな。そして愛を深めるということか。なかなか粋な風習ではないか。まあ、よく分からないがアレンがわかっているのなら大丈夫だろう。そう思ったシルビアはアレンにそっと身を寄せる。


 なんといっても両想い。これから思いきりラブラブできるかと思うと心も弾む。素敵な番との運命の恋!シルビアは甘い期待で胸がいっぱいになった。


 ───これからどんなことが待ち受けているかも知らずに……

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