第5話 最強のヤンデレ

ああ、見れば見るほどカッコいい……

 まさかあのアレンがこれほどの男に育っていたとは夢にも思わなかった。


 何しろあの頃のアレンときたら生っ白くてプクプク太っていて子ブタのようだったのだ。そのくせやたら鋭敏で何度挑戦しても絶対に勝てなかったから、忌まわしい思い出として心の片隅に封印していた。


 しかし、男子三日会わざれば刮目してみよとは良く言ったもの……これまでのアレンを見なかった日々のなんと勿体ないことかっ!シルビアがうっとりアレンを眺める姿を見て爺のボルテージも最高潮に高まっていく。


「さぁさぁ、そうと決まれば早速婚礼の準備ですな!竜王陛下も王妃様も大喜びなさいますぞ!あ、お前たちはもう下がって良いぞ」


 その他の婚約者候補たちをシッシッと追い払うと両陛下のもとに文字通り光の速さで飛んでいく爺。爺は相変わらず騒がしい。だが今まで散々気を揉ませたことを思うとそんな慌てぶりも微笑ましい。


 (爺にはぜひ我が子の面倒もみてもらいたいものだ)


 うんうんと一人頷いているシルビアをひたすら蕩けるような視線で見つめるアレン。


 ちなみにさっきからずーっと翼で包み込まれるように隠され、お姫様抱っこされたままだ。


「えーと、アレン、そろそろ下ろしてはくれぬか?いつまでも抱いておるとそちも疲れるであろう?」


「いえ、姫様は羽根のように軽いので重さなど感じません」


 キラキラとした笑顔で言い切られるとなんだか断りづらい。心なしか先程よりもシルビアを抱く手に力が入っているのも気になる。


「えっと、でもその、ほら、あの者たちも見ておるしな!」


 そういってシルビアがその他大勢の婚約者候補たちに目をやると、アレンの目がスッと細まった。


「ゴンザレス殿のお言葉が聞こえなかったようだな?とっとと出ていけと言わなかったか?」


 (いやいや、爺はそこまで殺意を漲らせて言ったわけでは……)


 アレンから立ち上る竜王色の覇気にその場にいた全員が一斉に窓から飛び降りた。さすが勇者、動きが速い。が、中には慌て過ぎて一人そのまま墜落した者もいる。


「あ、えー、そなたたち、ご苦労であったな。そちたちも似合いの番を見つけ、達者で暮らすのじゃぞー!」


 突然の覇気に怯えつつ、飛び立っていく勇者たちになんとか声をかけるとますます強く抱き締められた。


「え、ちょ、アレン、く、くるし……」


「……あのような者たちに姫が直接お言葉などかけなくても良いのです」


「え、でもほら、あやつらもわらわのために無理を言って集まってもらった勇者たちであるゆえな……」


「あのような吹けば飛ぶような軟弱な者達など、姫様が気になさる程のものではありません」


 (うん。正直先程の覇気で分かった。竜人族は己の強さを覇気で表す。あの覇気の大きさは間違いなく竜王クラスのもの。もしかしたら父上でも勝てぬのでは……)


 失敗して無様に城の下に落下した男も、窓の下を見つめるアレンを見るや慌てて飛び立っていく。さっきから隠そうともしない殺意に温室育ちのシルビアは正直ガクブルだ。


 

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