気が付いてくれない

 私とえっと、なんだっけ。デカい大男が訓練場に行く。後ろには野次馬がいっぱいだ。ただ、野次馬は私に同情的なんだよね。なら止めろよ、と思わなくもない。


「あいつ、性格を除けばほんとに強いんだよな……」

「あぁ、あいつなら、子供でもほんとに殺すだろうな……」

「俺たちに力があればな……」


 と、まぁ、話を盗みぎく限り、あいつはここら辺じゃほんとに強いらしい。

 そして、訓練場に着くと、大男は戦斧を構える。


「お前もさっさと武器を用意しろ」

「私は素手でいいよ。武器使ったら殺しちゃいそうだし」

「お、おい、あいつ、マジで怒ってるぞ」

「て言うか誰かギルマスを呼びに言ってないのかよ!?」

「そ、そうだった。お、俺ギルマスを呼んでくる!」

「もういい。行くぞ。クソガキがァァァァァ」


 雄叫び? 叫びながら? 大男が戦斧を振りかざしながら走ってくる。

 私は刀を持っているような感じで腰に刀を抜くように手をかざす。


「無刀連斬」


 刀スキルを全て取ると獲得出来るスキルだ。刀スキルを極めし者しか使えないスキルなのに、刀無しでしか使えない、よく分からないスキル。

 

 そして、大男は倒れる。かなり手加減したし、流石に死んではないよね?

 

「は? え、何……が」

「なんで、は? 転んだ……のか?」

「いや、でも起き上がる気配がないぞ」

「あの子、ギラルが倒れる前に何か言ってたよな」

「じゃあ、あの子が倒したってことか!?」


 えー、めちゃくちゃカッコつけたのに誰も私の方見てなかったから気が付かれてないんだけど。はぁ、まぁいいや。

 私は大男の腰に着いている、袋を取る。

 やっぱり、これにお金が入ってたね。金貨3枚だけでいいか。そう言う話だったし。


「無事か……って、どうなってるんだ? これは」

「だれ?」

「あぁ、俺はここのギルドのギルドマスターだ」


 40代ぐらいの男がそう名乗る。確かにこいつよりは強そうだね。レベル……300はありそうだね。

 てかほんとになんの用だろ。


「なんでギルドマスターがここに? 冒険者同士の戦いって自己責任なんでしょ?」

「あぁ、それはそうだ。だが、子供が無謀な戦いをしようとしているとだけ俺は聞かされてな」

「ふーん、じゃあ、行くね」

「待て待て」

「ん? まだ何かあるの?」

「あるに決まってるだろ。お前の冒険者ランクを上げる」

「……えー、まだなんの依頼も受けてないんだけど」

「Dランク冒険者を倒せる実力者をFランクにしておく訳にはいかない。同じDランクに上げさせてもらう」


 んー、まぁいいか……ただ、Cランクに上がる時はかっこいい上がり方がいいな。あんな変なやつを倒してランクが上がるのはかっこよくないよ。


【うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ】


 うわっ、え? 何、うるさ!


「凄いな! お前!」

「あぁ、スカッとしたぜ!」

「て言うかCランクでもいいだろ! ギルマス!」

「あぁ、俺たちにはどうやってあいつを倒したのか、全然分からなかったもんな!」

「いや、流石の俺も、何も依頼を受けてないやつをCランクには上げられないぞ。と言うかそんなに凄かったのか?」


 なんか盛り上がってるなぁ。お金稼ぎたいから早く依頼……あ、あいつから金貨3枚貰ったじゃん。帰ろ。


「気配遮断」


 冒険者にもなれたし。Dランクに上げてもらうのはまた今度でいいや。この話を忘れてるならそれはそれでいいし。


「あ、そう言えば私帰る家ないや」


 んー、即席ハウスがあるけど、それを置く土地がないや。

 やっぱり宿か。宿の場所聞いとけば良かったぁ……私ってほんとに学習しないな。あっ、でも今はお金があるんだし、よし、適当な屋台か出店で何かを買って聞こう。


 どれにしようかなぁ? 全部美味しそうなんだよね。あ、あそこの串焼きのソースの匂いやばい。あそこにしよ。


「おじさん。一本頂戴」

「あいよ、一本銅貨3枚だよ」

「はいこれね。後いい宿の場所を教えてくれない?」

「それならあっちの方へ歩いていったら、熊の肉焼き亭ってのがあるぞ」

「ありがと!」

「おう」


 んぅ〜、この串焼き美味しい〜。何の肉だろ? この世界は魔物がドロップアイテムを落として消滅したりしないから、魔物の肉だったりするのかな? もう何本か買っとけば良かったかなぁ。

 インベントリがあるから買っとけば良かったぁ……ゲームの仕様のままだろうから、インベントリの中は時間とかも止まってると思うんだよね。


「あ、ここだ」


 熊の肉焼き亭、熊の肉でも焼いてるのかな?


 私は扉を開け、中に入る。


「熊?」

「誰が熊だ。俺は人間だ」


 なんかもじゃもじゃの熊……みたいな人間(?)がいた。


「人間なの?」

「そう言ってるだろ。それで、お嬢ちゃんは泊まりにきた客ってことでいいのか?」

「うん。あってるよ」

「朝と夜の飯付きで、一泊銀貨1枚だ」

「じゃあ、取り敢えずこれで」

「金貨1枚で10日だな、それ以上泊まる気なら、追加で出してくれればいい」

「ちなみになんだけど、熊のお肉が出るの?」

「いや、オークか、牛の肉だな」


 やっぱり魔物の肉も食べれるんだ。


「じゃあなんで熊の肉焼き亭なの?」

「……俺の見た目が熊みたいだからだ」

「自分で認めてるんじゃん」

「うるせー、ほら、これが鍵だ。上の一番奥の部屋だぞ」

「おっけ〜」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る