NPCだよね……?

「ティア……ちゃん? って呼んでもいいかな?」

「いいよ〜」


 私……ティアをちゃん付けで呼ばれるなんて久しぶりだなぁ。上位プレイヤーはNPCが有名人として扱ってくれるから、ちゃん付けでなんて呼ばれることはまず無いんだよね。


「ティアちゃんは今日どうするの? 良かったら泊まっていかない? せめてものお礼に料理ぐらい作るわよ。材料は限られちゃうけどね」


 んー、やっぱりまだイベントが続いてるのかな……ここで泊まるのが正解なのか、泊まらないのかも正解なのか……どっちなんだろう。


「あ、あの! 私も、泊まってって欲しい……です」

「んー、じゃあ一日だけ泊まっていくね」

「や、やったぁ!」

「それじゃあ私は夕飯を作るから、二人で仲良くしててね」

「「はーい」」


 そう返事をしながらログアウト出来ないかを試すが、やっぱり出来ない。

 ……もう漏らしてるんじゃない? まぁ、人生諦めも大事だよね。ただ、運営、お前は許さん。乙女を辱めるとは、覚悟しろよ。マジで。


「ティアさんはなんであそこに居たんですか?」


 え、そんな事聞いてくるの? 普通に気がついたらいたんだけど、流石にそう言う訳にはいかないよね? んー。


「暇つぶしかな?」

「暇つぶし……ですか?」


 首を横にこくんと傾け、聞いてくる。何このNPC、ほんと可愛いんだけど。

 

「そうだよ」


 実際私はプロゲーマーとかじゃないし、間違ってはないと思う。


「そうなんですか。じゃあ、ティアさんが今日、暇で良かったです。ティアさんが来てくれなかったら、死んじゃってたかもなので」

「あはは〜」


 私が来なかったらイベントが発生しないんだよ? とは流石に言わない。


「あ、あの、それで、いきなりですけど、私、一人っ子で、その、昔から、お姉ちゃんが欲しいなって、思ってまして……お姉ちゃんって呼んじゃ……だめ……ですか?」


 上目遣い気味にそう言ってくるミュレ。

 答えはもちろん一つ。


「うん。いいよ。ティアお姉ちゃんって呼んでね。お姉ちゃんだから敬語じゃなくていいからね〜」

「うん! テ、ティアお姉、ちゃん」

「なに〜?」

「えへへ、呼んでみただけ、だよ」


 少し照れたように、それでいて嬉しそうに微笑む。

 このエリアに来てずっと思ってたけど、本当にNPCなのかな……正直な話、優勝者だけのエリアにこんなに力を入れる? いやいや、NPCじゃなかったらなんなの? って話じゃん。プレイヤー? ありえないでしょ。こんな大量のプレイヤーが、私一人を騙すためにここまでするとは思えない。

 じゃあ何? ログアウトは出来ない。GMコールも出来ない。フレンドとの繋がりも断たれてる。まるで……そう、まるで異世界に来たみたいに……いやいや、それこそありえないでしょ。ミュレ達はNPCで、このエリアでは私だけが、プレイヤーで、他のプレイヤーとの繋がりが断たれてるから、おかしな考えになっちゃってるだけ……だよ。

 

 NPCには自分がNPCという自覚がある。私は心には思うけど、口に出してそういうことを言ったら、萎えてしまうタイプなので、あまり直接NPCとは言わないんだけど、今回は特別だよ。だから私はミュレに聞いてみることにした。


「ねぇ……ミュレってさNPC……だよね?」

「えぬぴー?」

「――ッ」


 ミュレは心底不思議といったかんじで首を横に傾げる。

 私は思わず息を飲んだ。

 ありえない。NPCを知らない? じゃあ、ミュレは何? プレイヤー?


「じゃ、じゃあ、ミュレってプレイヤー……だよね」


 私はそうであって欲しいと願いながら、ミュレに尋ねる。


「えっと、ぷれいやーってのも知らない……です」


 申し訳なさそうに答えるけど、そんなのはどうでもいい。

 ミュレはNPCでも、プレイヤーでもない? だったら、ほんとにここは異世界で、この世界に生きる人間ってこと? あはは、え? 普段割と適当に生きてる私でも流石に混乱しちゃうぞ? だって、え? もし私が、ミュレを助けなかったら、ほんとに生きた人間が死んでたってこと? 意味、わかんないよ……


「ティアお姉ちゃん? 大丈夫?」

「う、うん。大丈夫だよ」


 落ち着くんだ私。ミュレを助けなかったらってのは、たらればの話でしかないじゃん。それにまだほんとにここが異世界って決まったわけじゃないし。ミュレの反応だって、バグの一つかも……だし。

 自分で言ってて流石にそのバグはないでしょって思ったけど、可能性は、一応ある。

 それに、別に私、ティアじゃない私に未練なんてないじゃん。親はクズだし、リアルには友達だっていなかったんだから。いきなりの事でびっくりはしたけど、もしここが異世界なら、楽しめば良いだけだじゃん。うん。そうだよ。

 強いて言うなら、フレンドに称号のこととか自慢できないのが未練かな? あはっ。


「うん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」

「ううん。大丈夫! もし、私にできることがあったら何でも言って。ティアお姉ちゃんのために頑張る!」

「ありがと」


 うん。ティアは最強だし、ミュレはいい子だし、前世より全然いいじゃん。

 あ、じゃあミュレのお母さんの名前も聞きたいな〜。NPCだと思ってたから名前とか聞かなかったけど、後で聞こっと。一応ミュレのお母さんにもNPCかどうか聞いた方がいいかな? んー、もういいや。あの表情とか見たら、あの人もこの世界に生きた人間なんだって分かるし。

 てか、そうだとしたら私年上の人相手に敬語とか使わないで話してたんだ。めっちゃ失礼じゃん。……でも、リアルの――今はここがリアルだと思うから、昔の私? かな。昔の私なら当然年上の人には敬語で話したりしてたけど、今の私は最強のティアだから、正直敬語とか使いたくない。私の……ティアとしてのプライドがそれを許さないんだよね。私今でも厨二病あんまり卒業出来てないからなぁ。

 んー、失礼になっちゃうけど、仕方ない。うん。仕方ないよ。ティアは最強なんだから大丈夫!

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