【プロット】 異端のボディガード・カドデ

高見南純平

プロット

 喫茶店


 そこに1人の男性がやってくる。40代ぐらい。くたびれたスーツ姿。手には大きめの茶封筒を持っている。


 女性の渋いマスターに、奥の席を案内される。

 扉で他の席とは区切られている


 そこから、20代半ばぐらいの男がやってくる。

 よれよれのシャツを着ている。

 でこを出しており、陽気な態度で男を、個室に入れる。


「ここ、喫茶店なのに個室あるからいいんだよね。

 ほら、俺ってフリーのボディガードじゃん? 

 だから、大手の会社と違ってオフィス自体がないのよ。

 っま、ここ気に入ってるからいいんだけどさ」


「思った以上に若いですね。

 もう少し、年上の方かと思ってました」


「あれ、もしかして俺の腕疑ってる?」


「いや、そういうわけじゃ。噂は伺っていますから。

 異端のボディガード、と」


「そっか。

 あんたはさ、理想的なSPとかBGって何だと思う?」


「それは、危機を察知し、対象に危険が及ぶ前に対処すること、ですよね。ボディガードはただ護衛対象を守るだけじゃない」


「さっすが。

 だけど、俺はそのセオリーから外れてる。

 索敵とか、プロファイリングとか苦手中の苦手でさ。

 だから、事が起きたとしたら、あんたは絶対に危険な目に合うけど、絶対に傷つくことはない

 それでも良いなら、依頼を受けるよ」



 自身を持って、若い男はそう宣言する。


「はい。多少の危険は覚悟の上ですから」


「おっけー。改めてよろしくね、俺は神田山かどやまカドデだ」


「はい。私は、秋田亮柔あきたりょうじゅうと申します」


 2人は握手を交わして、本題に入る。


「んで、秋田さん、依頼ってのはなによ?」


 秋田は茶封筒から、女性の写真が載っている紙を取り出す。


 秋田は自分が警察官だということを知らせる。門出は既に知っている。


 そしてこの女性は、自分が昔逮捕した人物だということも教える。


 彼女の名前は、浅利明美《あさりめいみ》


 昔犯した犯罪は殺人未遂。

 自分に暴行を加えた男を殺そうとしたのだ。


 しかし、それを秋田が止めた。


 そして、浅利は実刑を喰らう。


 さらに、彼女を暴行した男も実刑を喰らった。が、その中で死亡してしまう。歳がそれなりにいっているので、突然の心臓発作。事件性はない。


 そして、彼女は最近、刑務所から出てきたのだ。


「ん? なんか事件は解決しているように思えるけど」


「実は、彼女に命を狙われていまして」


 警察官は、捕まえた犯人から恨みを買うことは日常茶飯事だという。

 問題なのは、浅利明美が、特殊な力を持っているということ。


「おそらく、神田山さんと同じ力を持っていると思われます」


「でもさ、自分を苦しめたそのおやじは死んだんだろ?

 一番復讐したい相手がいなくなったのに、なんで今更あんたを狙ってるんだ?」


「ちゃんと話せていないので分かりませんが、復讐の矛先を見失ったことで、余計に膨れ上がってしまったのかもしれません。

 そしてその怒りが、復讐を止めた私に向かったのかも」


「なるほどね。

 依頼はもちろん受けるんだけどさ、1つ聞いていいかな?

 なんで、大手じゃなくて俺に依頼してきたの?」


「それは……」


 秋田は、自分の気持ちを正直に話す。

 なぜ、大手護衛会社ではなく、フリーの神田山に頼んだのかを。


 それを聞いた門出はニコッと笑う。


「気に入った。なら、俺が適任かもね。

 色々と融通が利くしさ。

 んじゃあ、今後のことを話していこうか」


 こうして、秋田亮柔を護衛する任務が開始した。



 高速道路を車で走っている。

 運転手は秋田。

 自前の車。

 実は、秋田の家は、さっきまでいた喫茶店から少し遠い。


 助手席には、あくびをしているカドデがいる。


 車中で、すこし雑談。


 秋田には家族はいない。

 独身


 なので、狙われるとしたら確実に、自分だという


 会話が途切れた時、ガドデはフロントガラスを覗く。


 そして、上空から何かが接近してくることに気がつく。


「秋田さん、ブレーキ!」


 咄嗟に叫ぶと、秋田は急ブレーキする。

 すぐ後ろには車は走っていなかったので、衝突はされない。


 そして、車に向かってきているのは、車と同じくらいの大きさの大剣だった。


 秋田は目を閉じて、死を覚悟するが、彼の安全はすぐに確保された。


 なぜなら、車の目の前に巨大な門のような扉が出現したからだ。


「【開かずの扉】

 言ったでしょ?

 危険な目には合うけど、危害は加えさせないって」


 カドデは手のひらを前にかざしながら、秋田を安心させるようにそういった。


 西洋チックな鉄の門に、大剣がぶつかっていた。

 しかし、突き刺さることはなく、そのまま地面に落ちて行った。

 すると、すぐにその大剣は消滅していく。


 秋田はこうなることは予想はしていたが、それでも驚いている。


 カドデは車から降りると、【開かずの扉】を消滅させる。


 空を見上げると、そこには再び大剣が


 しかし、先ほどと違い浮遊しており、ゆっくりとこちらに近づいていくる。


 そこには、浅利明実が乗っていた。大剣をスケボーのようにしていたのだ。


 そして、高速道路に降り立つ


「お前も私の復讐を邪魔するのかぁ!」


 整っていない長髪を揺らしながら、浅利明実は激怒している。


 目が完全にいっている。


「それが仕事なんでね。

 あんたの【生命武器】、なかなか物騒だね」


 生命武器とは

 人間の体内から作り出される特殊な物質であり、自由に操れる。特殊な能力を持った武器も多い。


 発現には、それを扱う確かな意思と覚悟が必要。


 ゆえに、誰もが持っている能力ではない。


「あの時、あいつの息の根を止めていたら、私の心はもっと晴れやかだったはずだ。

 それを邪魔した、秋田ぁ! お前が憎い!

 だから私はあいつに復讐する。

 そう決心した時、この燃え上がる炎が生まれたぁ!」


 浅利明実は、新たな大剣を生み出す。

 それは火炎に包まれていた。


 それを浅利は、車に向かって投げつける。


 手は使っておらず、念堂力のように動かしている。


「【神隠しの扉】」


 すると、今度は和風な木造の扉が出現。

 それが開かれると、中は白い靄に包まれている。

 そして、秋田の乗った車を吸い込んでいく。

 そのあと、扉が閉じられると、扉は消滅する。


 なので、炎の剣は車ではなく地面に突き刺さる。


「秋田をどこへやったぁ!」


「さぁ? 俺もよく分かんないんだよね」


 怒った浅利は何度も炎の剣を出現させては投げつける。


 それをカドデは【開かずの扉】を出現させて、完全防御。


 らちが明かないと判断した浅利は、スマホを取り出す。


 スマホは、銀行の振込画面になっていた。

 そして、お金を入金する。


 すると、すぐに新たな敵が出現する。


 今度は、細長い鍵に乗って現れた。


 長い前髪を片方垂らした、派手な男だった。


「お前、殺し屋か?」


「ピンポーン。私、ずっとあなたと戦って見たかったんです。

 だって、私たちは相反する存在だから」


 男は鍵を投げつける。


 それを【開かずの扉】で防ぐ。


 が、ぶつかった瞬間に、扉が消滅していく。


「!? 思った以上にめんどい相手だね」


「私は開けるものであり、壊す者でもあります。

 名をキーザ 生命武器は【アケゴマ】です」


 キーザは、英語のキーからもじったもの

 アケゴマは、「開けごま」からきている


「ふざけた、名前だねぇ。

 普通に日本人でしょ、あんた」


「お仕事ネームです」


 2人の会話に浅利明実が割り込む


「おい、殺し屋。秋田はどうすれば、またここへ呼び戻せる?」


「時間経過。あるいは、生命武器の使用者がお陀仏になれば、解除されるでしょうね」


 それを聞いた浅利明実が再び攻撃を再開。


 また【開かずの扉】で対応するが、大剣がぶつかるまえに、キーザの鍵が突き刺さる。

 扉は消滅して、大剣がすり抜けていく。


 カドデは慌てて避けていく。


「避けるのなんて久々」


 身体能力が高いようで、アクロバティックに避けていく。


 防戦一方になるカドデ。


「あれあれ、異端のボディガードもこの程度ですか?

 私の楽しみは、強者の力をさらなる力でねじ伏せること。

 この程度では、全く心が高ぶらないんですよぉ」


 少し怒りを露わにしているキーザは、大量の鍵を自身の周りに出現させる。

 それに合わせて、浅利も剣を量産。


 絶体絶命。


 そこで、カドデは、扉を出現させる。

 少し大きめで、両開きのドア


「いまさら、そんな扉意味ないですよ!」


 2人は、一斉に武器を投げつける。


「【門出の扉】」


 扉は開かれ、そこをカドデが通り過ぎる。


 すると、カドデはスーツ姿に。


 そして、やってきた鍵を一本つかみ取る。


 鍵の消滅効果があるのは、先っぽのみと判断。


 柄の部分を掴み、自分の武器とする。


 そしてそれを使って、他の鍵と大剣を薙ぎ払っていく。


 人知を超えた身体能力。

 これが、新しくなったカドデの力だった。


「見してあげるよ。

 強者の力っていうのを

 【開かずの扉・五閉門ごへいもん】!」


 カドデは、浅利に向かって手をかざす。

 すると、彼女を囲むように、5個の扉が出現。地面と合わせて箱のようになる。


「無駄ですよぉ!」


 五閉門に向かってキーを投げようとする。


 が、その前に、カドデが攻撃をしかける。


「【理想の扉・天地無用】


 いたって普通の扉がカドデの前に1つ

 そして、キーザの上下左右に5,6個出現


 そして、強化されたカドデは凄まじいスピードで、鍵を握りしめたまま走っていく。


 扉を抜けると、カドデの姿はその場から消えて、キーザの後ろにある扉から出現

 そして、鍵でキーザを殴打。


 そのまま別の扉に入っていく。

 すると、今度はまた別の扉から。


 そして攻撃して、また移動。


 これを何度も繰り返していく。


 乱反射する光のように、縦横無尽にかけめぐる。


「は、はやすぎる」


 キーザは遠距離型

 近接はまるで歯が立たない。


「あんたは遊び半分で戦ってるかもしれないけど、こっちは人の命がかかった戦いなんだ。

 背負ってるもんが大きいほど、強くなることもあるんだよ!

 ボディガードだから、っね!」


 最後に思いっきり頬に鍵を叩きつけると、そのままキーザを地面へと叩きつけた。

(キーザはずっと、鍵に乗って浮遊していた)


 浅利明実は行動不能で、キーザは気絶。


 スーツ姿から戻ると、再び【神隠しの扉】を出現


 車に乗ったままの秋田が戻ってくる。


 彼は車から降りると、カドデに近寄る。


「あの、浅利は?」


 カドデは五閉門を指さす。


 浅利明実は暴れまわっており、扉を殴る音が響いている。


「くそ、くそ! ここから出せ!」


「あんたみたいなきっかんぼう、出すわけには……」


 カドデがそういうと、秋田が扉へと近づいて行く。


「それが、依頼人の願いなら……」


 カドデは五閉門を消滅させた。


 すると、浅利が出てきて、秋田と対面。


「な、なぜ」


 浅利は驚いていた。

 秋田が近付いてくることに。


「話がしたかったんだ。キミと。

 あれから一度も、ちゃんと言葉を交わしていなかったから」


「わ、私を説得でもする気か!

 無駄だ。

 この炎は、消えやしない」


 もう一度、炎の剣をなげつける。

 カドデが扉で守る。


「あんたさぁ、ずっとこの刑事のこと考えてたんだろ?

 でも、それはこの人も同じだよ」



「はぁ? なぜ秋田が私の事を」



「俺さ、依頼受ける前に聞いたんだ」


 時間は喫茶店の個室での会話にさかのぼる。


「あんたさぁ、なんで俺なんかに依頼しに?」


「民家の企業だと、あの子と会わせてくれないから、と思ったからです。

 護衛対象と危険人物を引き合わせることは絶対にしないでしょう。

 私は少しでも彼女に寄り添いたいんです。

 刑事は捕まえて終わり。

 ……ではないと思っているので」



 そして時間は、さっきのところまで戻る。


「秋田さんは、あんたを救おうとしている。

 殺されるかもしれないのを覚悟してね」


「救う? 私はそんなこと望んじゃない。

 ただ、この手で殺したいだけだ!」


「なぁ、この人は本当に復讐するべき相手なのか?

 復讐を邪魔した相手?

 それとも、殺人を犯す前に止めてくれた恩人?

 どう捉えるかは、あんた次第だけどさ」


 浅利は一旦口を閉じ、秋田を見つめる。


「わ、私は……

 こいつを……」


 すると、出現させた炎の剣が消滅し始める。


「復讐心は毒なんだ。

 今までも、それに蝕まれた人たちを多く見てきた。

 君は今までそれと戦ってきたんだ」


 秋田は歩いていく。


 浅利はその場で立ったままで、攻撃しようとはしていなかった。

 葛藤しながら、秋田の話を聞き始める。



「だから、私は君の助けになりたい。

 きっと、1人で悩むよりは、ずっと楽だから」


 秋田は歩いていく、浅利の手を掴んだ。


 その時、浅利は思い出す。


 殺害しようとしたとき、寸前のタイミングでナイフを持った浅利を秋田が止めた。

 その時感じた、もどかしさと怒り。


 そして、それと同時に感じた手のぬくもりを。


「あ、あ……

 お人よしすぎだ」


「それが、刑事だから」


 浅利は目に涙を浮かばせる。

 そして、秋田の手をギュッと握り返した。


 こうして、事件は幕を下りる。

 すぐにパトカーの音が聞こえてくる。



 数日後


 喫茶店の個室で、カドデと秋田が喋っている。


 秋田はお礼を言っている。


「んで、彼女はどうなったの?」


「器物破損に、また殺人未遂、他にも色々と重なると思います」


「そっか。生命武器は派手だからさ、その分罪が重くなっちゃうんだよね。殺意剥き出しだったってことも、照明されちゃうし」


「仕方ないんでしょうけど……。

 あそこまで彼女が思い詰めていたことに私は気がつけませんでした。

 だから今度は、出来るだけ一緒に悩みもがき苦しもうと思うんです。

 辛い旅にはなると思いますけど」


「俺は応援してるよ。今度は、2人でこのお店に来れるといいね。

 ここのコーヒー、美味しいでしょ?」


「っはい。そう思います」


 コーヒーを飲み干した秋田は、個室を出ようとする。


「では、私はこれで」


「そっか。じゃあ、また今度」


 秋田は個室を出ていき、喫茶店の出入り口へと向かっていく。


 すると、カドデは立ち上がって、その場で見送る。


 秋田はマスターに軽く会釈をすると、扉の前に立つ。


 外の天気はよく、日差しが窓ガラスから入ってくる。


 そして、秋田は扉を開けると、光の中へと旅立っていった。


 その背中を見つめながら、カドデは彼を見送った。



 おわり

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