二通目

 この文章を書く前に一つの決断をしました。タバコをまた吸い始めたのです。

 だから何だと思うかもしれませんが、ひとまず聞いて下さい。

 喫煙は緩慢な自殺だと言います。これは『さよならを教えて』というエロゲーに出てくる言葉でもあるのですが、私はこの言葉がとても気に入っているのです。

 生きるとは死ぬまでの過程である、と言ったのは誰だったかは憶えていませんが、タバコの匂いに私は死の匂い感じます。それがとても心地よいのです。

 こんな事を書くと余計な心配をかけてしまうかもしれませんが、「死にたい」と思っているわけではありません。当然、生きているのですから死にたいと思う瞬間がないわけではないのですが、言葉を変えればタナトスに惹かれているのです。

 フロイトの用語で、生の本能に対する、無機物の不変性に帰ろうとする死への衝動。もっと言うのなら、何物にもならなくなる事への憧れが私にはあるのです。

 死は終わりであるとよく言います。しかし、寺山修司は『生が終わって死が始まるのではない。生が終われば死もまた終わってしまうのだ。』と言いました。生と死は分かつ事のできない両面なのです。死への甘美な誘惑に浸っている時、その瞬間は確かな生を生きているのです。

 のっぴきならない話で申し訳ありません。勝手に同好の士だと思いこんな話を書きました。


 紫煙に満たされた部屋の中で。敬具

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