第32話 幼馴染は激情に燃える

※今回だけカレン視点です。


 最近、私の健太に栗原が慣れ慣れしいので、分からせてやろうと思った。

 健太の家まで押しかけると聞いたので、おばさんに家へ入れてもらって昔みたいに健太を待ってたのに。

 まさか、あんなに多くの女を連れて来るなんて!

 しかもなぜか栗原の姉までいて、キモイ会社の専務だとか言い出したんだ。

 コイツが、まんまと私を嵌めて追い出しやがった。

 すげームカついた!

 最悪最低だった。

 私は怒りの持って行き場がないまま、姫川や栗原を調子にのらせないため、学校には通っていた。


「いいでしょーコレ!」


 帰り際、下駄箱前にいた由紀子とメグに自慢する。


「おお、なついバッグだー!」

「それ昔、流行ったねー。私は売っちゃったけど」


 特別にお気にのトートバッグを見せたのに、こいつらは時代遅れのように言いやがった。


「あんたらには、これの良さが分かんないんだね」


 思ってたの違った反応にイライラしながら、さっさと靴を履いて学校をあとにする。


 これは健太に買ってもらったバッグ。

 大きめのトートバッグで、誰もが知ってる有名なブランド品。

 ほかの奴らには意味が分かんなくても、健太ならこのバッグを絶対に覚えてるはず。

 そして思い出させるんだ。

 私に夢中だった気持ちを!


 家の最寄り駅で降りて、健太を待つ。


 まさか、私があいつを待つようになるなんて思わなかった。

 でも仕方ないじゃない。

 健太の家を追い出されたあの日から、あいつは私との距離を置くようになったんだから。

 クラスじゃ普通に話しても、登下校で会うと離れようとするし。

 つっこんだ話をしたくても、できやしない。

 今日はあいつ、委員会があって遅くなるハズだから、先に駅で待ってればきっと来る。

 私が健太のことを一番把握してるんだから。


 ふと、健太のことばかり考えてるのに気づく。

 するとなんだか無性に腹が立った。


 なんであいつに振り回されなきゃならないの?

 振り回すのは私の方でしょ。

 いつの間にかあんなに女ばかり連れてさ!

 まあ、健太がモテるのは悪い気がしないけど。

 だって、モテる幼馴染みは周りに自慢できるから。


「健太ー!」

「あ、カレン……」


 またそんな困った顔をする!

 健太をこんな風に変えたのは絶対にあの女!

 あの女が私に従順だった健太をおかしくした。

 健太が私と距離を置くのは、あの女がいるから!

 姫川菜乃!!

 あのクソ女さえいなければ!


「健太ー! たまには家まで送りなさいよー!」

「……」


「別に何もしないしー! ただ一緒に帰るだけよ!」

「まあ、それなら」


 私はトートバッグを健太のいる右手に持って歩く。

 でも、こいつは全然気づかない。


 もしや、私のために買ったこのバッグ、覚えてないのかしら。

 いや、気づいてないだけかも。


 バッグの持ち手が大きいので、ワザと腕を通して右肩にかける。

 健太はトートバッグをちらりと見たが、すぐに前を向いた。


「なんで無反応なのよー!」

「何が?」


「バッグよ、バッグ!」

「ああ、バッグだな」


「何よ、その反応ー! 健太が買ってくれたヤツだよ? 忘れちゃったのー?」

「覚えてるよ。中学のころ、絶対買えって散々言われて、その年のお年玉全部使わされたヤツだ。挙句プレゼントしたら、本当はもっと高いやつが欲しかったって悪態つかれたな」


「えー? 私、そんなこと言ったっけ??」


 まったく覚えてないことを言われて、困惑しているうちに自分の家へ着いた。

 健太は「じゃ」と手を上げると、さっさと家へ帰って行った。


 何アイツ、何アイツ、何アイツ!!

 私が言いたいのは、あんたがバッグをプレゼントするくらい、私を好きなんだってことなの!

 健太はそんなことまで忘れちゃったの⁉

 違う、絶対覚えてる!

 私が忘れてる会話まで覚えてるんだ。

 てことは健太の中で何かが変わった?

 ふざけんな!

 全部、姫川菜乃のせいだ!

 あの女さえ……姫川菜乃さえいなければッ!


「あの女ぁぁああああ!!!!」


 玄関の扉を勢いよく開けると階段を駆け上がる。

 自分の部屋へ入ってカギを閉めた。

 

 バッグを逆さにして、中身を机の上にぶちまける。

 空になったバッグを部屋の壁に叩きつけた。

 壁に当たって大きな音がしたあと、床に落ちた。

 それを力いっぱい踏みつける。


「こんな物、こんな物、こんな物ッ!! 健太のバカ! アホ、ゴミ、カスッ!! はあはあはあ……」


 怒りに任せて大暴れしたので、しばらく肩で息をしたけど、すっきりしたので少し落ち着く。

 床に落ちたカバンを拾い、押し入れへ投げ入れた。


 絶対、姫川に復讐してやる!

 そして健太の目を覚まさせなきゃ!

 そうだ!

 確か、あかりがオタクっぽい配信する芸能事務所に所属してるって言ってたな。


 急いで机の携帯電話を手に取る。


「あ、あたし、カレンでーす。久しぶりー。ねぇ、あかりちゃんー、芸能事務所でオタク相手に儲けてるって言ってたよねー? ちょっと助けてもらえると助かりまーす。うん、そう、配信のヤツ」


 ビンゴ!

 オタク寄りでキモい先輩だから疎遠だったけど、たぶんこいつ使えるわ!

 所属事務所もカワイイなんちゃらで、あの女と同じとかウケるしー。

 姫川よりは人気ありそうじゃない!?


「いやね、姫川と栗原がウザくてさー。何とかしたいから先輩に助けて欲しいなーって」


 あかりの奴がちょっとはメジャーで顔が利けばいいんだけど。

 一応調べとくか。

 えーと、あかりは瀬戸内オレンジだったっけ?

 おお、姫川より登録者多そう!

 よし、こいつを利用して姫川に登録者数で勝負を吹っかけてやろう。


「あ、うん。ちゃんと諭吉でお礼するしー。えとじゃあ5枚で」


 まあ諭吉はオヤジ相手にデートすれば増えるし。

 今は姫川菜乃を潰すことが先決だわ。

 あとは、健太にも私の方が上位者だって思い出させる必要があるわね。

 まあ、私のチックタックは万アカだから、健太には楽勝だけど。


 でも、あかりの奴、オタクのくせにかなり自信ありげだなー。

 ギャル系Vtuberだっけ?

 何なのそれ?

 需要あるとかマジ不思議。


「え? 栗原が邪魔? あかりちゃんより人気あるの? へー、あいつオタク界でメジャーなんだ! 大丈夫、へーき、へーき。当日は栗原だけ別の場所へ呼びつけて、適当に放置プレイかましとくしー」


 思いついた計画があまりに天才的で、私は自分の発想に身震いした。

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