空からイケメンが降って来たんです。本当です。

新巻へもん

第1話

 大通りへと足早に向かう路上の暗がりで、男女が熱い抱擁を交わしている。

 ああ、クソが。

 こちとら、そういう行為はご無沙汰なんだよ。

 大学時代から付き合っていた元カレと別れてもう何年だ? もう顔もほとんど思い出せない。

 仕事が忙しくて会えないでいたら、あのスカタン、あっと言う間に別の女に乗り換えやがった。

「もーっとイイ男捕まえて幸せになるもんね」

 飲み屋で親友のアケミに強がりを言ったもののまだ実現はしていない。

 まあ、会社と自宅の往復しかしていないと出会いがないんだなこれが。当たり前か。

 うちの会社の男は上澄みは売約済みで、独身組はめっちゃ微妙。不健康な青白い顔で彷徨っている姿は、むしろゾンビ映画のエキストラの方が似合っている。

 まあ、かくいう私の今日の姿は見れたもんじゃないが、ゆっくり休養をとってリカバリすれば、まだまだイケているはずだ。

 タクシーを呼び止めて乗り込む。

 運転手さんが売り出し中の俳優の卵なんてことはなく、疲れた表情のお爺ちゃんだった。

 バックミラーに映る目には気の毒にという感情が透けて見える。

 まあな。化粧もしてないわ、髪の毛はヘアゴムで留めただけ、四十八時間以上風呂にも入っていないんだから仕方ない。

 ショーツだけはコンビニで買って履き替えたが、ブラはずっとつけっぱなしだ。

 それもこれもすべてはあのクソPMが悪い。もちろん、クライアントの言いなりの営業はもっと悪いが。

 リリース予定時期が視野に入ってくる時期に、今さらUIと画面デザインを全面的に改めるとか正気の沙汰じゃなかった。

 大通りで車を止めてもらって降りる。

 入り組んだアパートまでの細い道のりを説明するのも面倒くさい。一方通行だらけで凄く遠回りにもなるし。

 タクシーが走り去るとさびれた国道には私一人だけになった。

 車も走っていなければ、通りを歩く人もいない。世界で私一人だけになった気分だ。寂しいような嬉しいような。

 横断歩道を渡り始めた。

 あー、魔剤の飲み過ぎとカフェインタブレットの取りすぎで胃がムカムカする。なんか動悸もするし、背中も痛い。

 はあ、まだ二十八なのに。

 ふと見上げれば薄明るい夜空が広がっていた。

 東京の外れとはいえ星はほとんど見ることができない……はずだった。

 やけに大きな赤いものが見える。一等星よりも明るく赤く輝くそれは気のせいか凄く近く感じられた。

 流れ星か。何かお願いしよう。三回言えばいいんだっけ。

「イケメンが欲しい。イケメンが欲しい。イケメンが欲しい」

 深夜の路上で煩悩まみれの願いを唱えた私は大きな衝撃と共に意識を失った。


 ***


 新巻へもんでございます。

 謎の怪電波を受信して勢いで書き上げた作品ですが、お楽しみいただければと存じます。

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