ギャグ漫画時空の女の子を勇者として召還してしまった

かがみてん

第1話

「では、頼むぞアイザックよ」

「はい王様。必ずやこの世界を救うことのできる勇者を召還いたします。」


王の間にて詠唱を始める。


人類は今や魔王軍の侵攻で窮地に立たされていた。


それを救うとされるのが異世界からの勇者であり、その勇者を召還することが王国一の魔導士である俺の役目だ。


「出でよ勇者よ!人類を救いたまえ!」


詠唱を終え、魔法陣が展開し光り輝く。


ようやくだ。ようやく人類が反撃する時がきたのだ!


「あれーここどこー?」


そんな期待感の中魔法陣から現れたのは戦闘などというものと全く縁のなさそうな少女であった。


「・・・・」


やべえええええ 失敗したあああああ


まずい。まずい。まずい。まずい。


王様怒ってるよ。絶対怒ってるよ。なんとかこの少女を勇者ってことにしないと人類より先に俺が死ぬよ。


とりあえず少女に勇者って言おう。そうしよう。


「うっうん。えー異世界からの少女よ。ここは君のいた世界とは異なる世界だ。君は人類を救う勇者なのだ。」

「えー。リナ勇者っていきなり言われてもわかんないよー」

「わかんないもクソもない。君は勇者なの。そうだ!この世界にはスキルというものがあってね、恐らくそのスキルがめっちゃ強いと思うよ。うん、スキル見てみよスキル」

「スキルぅ?どうやってみるのそれー」

「ステータスオープンと言えばいいよ。さあ早く見ようさあ早く」


俺は彼女の、リナのステータス表示を急かした。


もしかするとこのような少女の見た目でも、ものすごいチートスキルの持ち主かもしれない。


何事も見かけで決めてはいけないからな。


「わかった!。すてーたすおーぷん!」

「どうだ?ステータスは見えたか?」

「なんか数字が並んでるよ。この右下にあるスキルってとこには何もないけど」


終わったああああ 絶対失敗したよ召還。もうやり直せねえしどうすんだよこれ。


「スキルが空欄ってほんとなのリナちゃん?念のためもう一回見てみようよ」

「何回見てもなにもかいてないよー。でもリナが勇者なんてワクワクしてきちゃったーリナがこの世界救っちゃうよー」


リナが一人で盛り上がっていたが、俺は楽観的ではいられなかった。

この世界ではステータスの値はスキルという魔法的能力と実際の身体的能力を合わせた値で決まる。

つまりスキルがないリナは見た目通りの華奢な女の子なのだ。

こんな少女が魔王を倒せるなんて到底思わない。


「リナが勇者だよー救っちゃうよー」


なおも一人で盛り上がっているリナであったが、王の表情は険しかった。


「・・・・アイザックよ。分かっておるな。お主のしたことがどういうことであるかを」

「はい。分かっております・・・・一度しか出来ない異世界からの勇者召還術を失敗いたしました。」

「そうだ。お主はこの国、いや人類の救いの道を閉ざしてしまったのだ。」


その声はとても哀愁をまとっていた。


人類の希望であった勇者。それがこのような形で打ち砕かれたのだ。周りにいる兵たちも肩を落とし、王の間に暗い空気が漂う。


俺が、俺がもっとしっかりしていれば。


そんなこと今更悔やんでもしかたなかった。


今はとりあえず、この少女に謝罪しよう。 我々の滅びの運命にこの少女も巻き込んでしまった。


「リナちゃん。本当にすまない。われわr」

「リナが勇者なんだよー」

「われわr」

「リナが救っちゃうよー」

「わr」

「勇者だよー」

「俺の話聞けやあああああああああ」

「ぐっはあああああ」


ドコォーン!!!


とんでもない爆発音と共にリナが吹っ飛んで壁に打ち付けられる。


??????


どういうことだ!?俺そんなに物理攻撃のステータスは高くないはずなのに


ハッとして振り返ると王も兵たちも唖然としている。


「ア、アイザックよ。お主己の失敗を異世界から来た少女に八つ当たりするとはどういうことだ。てか私も長く生きてきたがパンチで人が数十m飛んでいく所は初めて見たぞ。」

「ち、違うんです王様!。私はそんなつもりでは・・・・」

「もう許してはおけん。少女も可哀そうにもう生きてはおらんじゃろう。このものを殺人罪で捉えよ」


そう王が告げた瞬間、


「いたたたた。中々キレのあるツッコミでリナもびっくりしちゃったよー」


そう言いながらリナが瓦礫の中から這い出てきた。


なんなのこの子。俺はもうよく分からなくなっていた。


「リナ!すまなかった。大丈夫か?」

「うん!なんともないよ!というかリナの世界ではこのくらいはコミュニケーションとしてよくあるよ!ボケとツッコミだよ!」


人を数十m吹き飛ばすコミュニケーションってなんだよ。どんな修羅の世界から来たのこの少女。


だがしかし、この耐久力は目を見張るものがある。

やはりこの少女こそが勇者なのだ。

俺はそう確信した。


「王様!やはり彼女こそが勇者です。見ておられたでしょうあの耐久力!そして私自身がよくわからない程の威力のパンチがよくある世界で生きてきたということは恐らく魔物を倒す力も備わっていると思われます!」

「私は信じておったぞアイザック。ではお主と勇者で悪魔軍4天王と魔王を討伐してくるのだ。」

「え?私もですか?」

「そうだ。お主は王国一の魔力と王国一の武闘派だと確信したのでな」

「そうですねーあはははは」


俺の笑顔は恐らく引きつっていただろうな。


こうして俺と勇者は魔王討伐への旅に出かけた。




俺たちは、王国を出て魔王城のある北へと向かっていた。


「リナちゃん大丈夫?きつくなったらいつでも言ってね」


リナを気遣いながら山道を進む。


勇者といっても、リナは少女だ。体力などを考えるとやはり一日で移動出来る距離は限られる。


「大丈夫だよアイたん。私結構体力には自信あるんだから」

「アイたん?それは俺のことか?」

「そうだよーアイザックだからアイたん!いい呼び名でしょー」


いや音でいうとそれは女の子の呼び名で使われるんじゃないか?とも思ったが本人が気に入っているようなのであえて触れることはしなかった。


2人で魔王をたおすんだ。お互いの信頼こそが重要になる。


「それはそうとリナちゃん。王の間で俺が君に”ツッコミ”を入れただろ?」

「あれは中々鋭かったよ」

「あの”ツッコミ”なんだが・・・俺は魔法特化であって物理攻撃の類はそこまで強くないんだ。なのになぜあそこまでの威力が出たのかな?」

「うーんリナにもわかんない。でもリナのいた世界では、パンチで人は数十m飛ぶなんて珍しくもないし、なんなら宇宙まで飛ぶ時だってあったよ」

「宇宙?それはどのくらいの距離なんだ?」

「大体100kmくらいかなあ」


うん。もうとりあえず魔王を倒すことだけに集中しよう。


「よーし。じゃあ暇だし、しりとりしようよ。アイたん!」

「しりとりってなんだ?」

「言葉の最後から始まる文字を言い合う遊びだよー。言えなくなったら負けね。じゃあ最初はアイたんのんー」

「よし。負けんぞ。んから始まる言葉かー」


そんなことを言い合いながら山道を進む。


最近は暗い話ばかりだったのもあってか、リナとの会話はとても楽しかった。


何を言っているのかは半分以上分からなかったが・・・


そんなときだった。


リナとのおしゃべりで気が抜けていたのか。気づけばシルバーウルフの群れに俺たちは囲まれていた。


「リナちゃん。俺の後ろに隠れてて。このくらいの魔物は俺一人でなんとかなるから」

「うわーかわいい狼さんだー」

「リナちゃん!!!」


リナはシルバーウルフの群れに何を血迷ったか無防備に飛び出した。

シルバーウルフはその爪や歯でリナに襲い掛かる。

なんとかリナを助けだすために俺は必死で魔法を打ち続ける。


シルバーウルフはものの5秒で壊滅した。

しかしその5秒はリナが致命傷を負うには十分すぎる長さだった。


「リナ!大丈夫か!」


回復魔法を使い、リナを治療する。 だが回復が追い付かないほどにリナは深い傷を負っていた。


「クソッ。クソッ。止まれ。止まってくれ。」


回復魔法を使い続ける。だがリナの血は止まらない。


「アイたん聞いて」


今にも消えてしまいそうなか細い声でリナがつぶやく


「リナ!しゃべるな!」

「私が死んでも悲しまないで・・・次の話にとんで・・・」

「次の話?何言ってるんだ!とにかくもうしゃべるな!」

「アイたん・・・・お願い。次の話にと・・・・」

「リナ・・・・?リナ!」


そこでリナは息絶えた。

リナを抱きかかえたまま、俺はしばらく動けなかった。

人類の希望であるリナをここで失った絶望だけではなく、たった一人の少女すら守れない自分の無力さに打ちのめされた。


リナ・・・どういうことなんだよ・・・・次の話って・・・・。


でもリナがそれを望むなら俺は・・・跳ぶ。


次の話へ跳ぶ。


「跳べよおおおおおおっ」

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