第13話 昼と夜の間は夕方と朝

 マギヤとトロイノイがデートと称して、個室で休憩している。

 モンス島において、十五歳以上のカップルというのは、お金等さえあれば、堂々と休憩と宿泊があるホテルの類に行けるものである。


「当日自分で言うのがしんどくなるかもしれないと思って、昨日寝る前までの時点で犯した罪を、ノートに書いておきました」

 ベッドに座っているトロイノイがマギヤから渡されたノートを読み始める。


 一リットルのパック入り飲み物をあと少しだけ残して冷蔵庫に入れる、みたいな、みみっちい罪は一切なく、

 両親が死ぬ前いた家の近所の飼い犬の首を氷魔法でねて刎ねた首を母に見せたとか、

 ヴィーシニャに謝った夕飯のあと、ヴィーシニャのことを考えてイラついて、憂さ晴らしに鳥を百羽射殺そうと思ったら十羽しかいなかったので十羽殺して凍らせてバラバラにし犬に食わせたとかの動物への残虐行為や、

 前に聞いたウリッツァへの睡眠姦や強姦、ヴィーシニャへのスライム姦や時姦などの強制性交等、

 幼少期の試合で現フィー班副班長への過剰攻撃や聖女護衛に伴う過剰攻撃などの暴行・傷害など、

 人を死なせる罪と金銭絡みの罪と社会的法益に対する罪を除いたまあまあ重めの罪が、最初数ページに、かなり書き込まれていた。


 それらに一通り目を通したトロイノイが床に正座するマギヤに、ねえ、と声をかけるとマギヤは、ふぃい! と高音を上げた後、若干前屈みで「……な、なんでしょうかトロイノイ、まだノートが途中の様ですけど」とトロイノイが声をかけた理由を聞く。

「え? あ、ほんとだ。ごめん、ちゃんと読み終えたらまた呼ぶわ」


 トロイノイがノートに続きがあることを失念したほど、初手が重かった。

 改めて次のページをめくる。

 皆が使う施設の出入り口周辺に少しだけ通行の邪魔になるようなプランターとかを置きまくる、みたいな、ちゃっちい罪は相変わらず無い。

 その次のページからは、罪状というより罪を犯した時の心情が書き連ねられていた。

 それを読もうとしたところ、マギヤが「……少し、席を外しても? すぐ戻るので」と言うので、トロイノイはマギヤの顔をチラと見て「ん、いってらっしゃい」と送り出す。


 ……ウリッツァ関係の罪の心情は比較的冷静に書けてたり、幼少期の罪は若干震えが見られたり、また別の罪は眠気に屈しそうになって改めてちゃんと書いたりと、字の情緒というかなんというかが様々あった。

 なかでも、ヴィーシニャ関係の罪を犯した心情については、独自にページを設けており、それを見たときの第一印象からして、情緒が荒れまくりであった。

 棒人間などの簡単な図から、将来それで食っていけそうなクオリティーのエロ漫画やエロイラストまで。たった一文から中編官能小説まで。

 第一印象はずばり、カオスである。


 眠気に屈しそうな文字ないし線は一切なく、終始焦るような生き急ぐような、でも迷いがほとんどない字や線で満ちている。

 そう、マギヤは迷うことなく、腕を引っ張られ全裸立ちバッグでズコバコされて理性のないメスの顔を晒すヴィーシニャを描き、「わたしは間男に犯されて喜ぶ雌豚ですぅ♡」と言わせているのである。やばい奴である。

 こんな、失礼を承知で言えば、頭悪そうなエロイラストは、これと、

もう一つ全裸かつM字開脚のヴィーシニャが、指で開かせた淫部から白いものをあふれさせて「マギヤでいっぱい……♡ しゅごい……♡」と言わせてる二つのみ。

 マギヤがもっと描いてるのは、両手首拘束かつ両腕を万歳させてパンツしかはかせてないヴィーシニャを乗馬鞭のようなものでビシバシしてるシーンとか、

苦しそうな涙目のヴィーシニャの頭を押さえ込み、どこかから生えてる太いモノを咥えさせ、口から液があふれてるシーンとか、

殺されても構わないとでも言いたげな微笑みを浮かべるヴィーシニャの万歳拘束の全裸体をキャンバスに傷や体液の描き分け練習――頭や胸部や首から血は流させてない――みたいな鬼畜な絵や漫画等。

 さらに各絵等の横や空きスペースに、画線法――正の字とか書いて数を数える奴――が少なくとも五画以上書かれてある。

 画数の多いツートップは「マギヤでいっぱい……♡ しゅごい……♡」と傷等の描き分け練習の奴である。

 トロイノイは手に持ってるノートを震わせながら、戻ってきたマギヤに「……マギヤ。絵とかの横の正の字とかって、なんの数?」と聞く。

 マギヤは「えっと……その……そ、それで……自慰行為をした数……です」と若干照れなどからか体をうずうずさせながら答えた。

 トロイノイはそれを聞いて、ノートを持ったまま、目を開けたままベッドに後ろに倒れた。

 マギヤが倒れたトロイノイにかけよって「大丈夫ですかトロイノイ」などと肩を軽く叩きながら呼びかけるのは、感じてはいるが認識とそれに対する反応ができてない。

 首の脈を確認されたり目に光を当てられたりしてるのも、感じてはいるが認識とそれに対する反応ができてない。

 マギヤが例のノートを手に取って眺めたり自分の鞄にしまったり、アラームやコールの設定したり、トロイノイをちゃんとベッドに寝かせたり――その後さりげなくトロイノイのまぶたを閉じさせたり、トロイノイの眉間にキスしたり、トロイノイを抱き枕がわりにしたり――してるのも、以下略。



 いくらか時間が経ち、トロイノイは耳元で「トロイノイ、起きてるなら返事して――――?」というマギヤの声を聞いた。

 トロイノイは、んー、と返事をする。

 それに対し、なぜかマギヤは、もう一度聞きますね、と少し離れて言った後、こんな問いを投げかける。

「襲ってほしいなら一回、嫌なら二回んー、と言ってください。その回数を貴方の返事と受け取ります」

「んーんー! やめんかこら!」

 やめんかこらの勢いで目を開けたトロイノイは、一瞬明かりに目が眩みつつも、すぐ自分の状況ないし目の前のマギヤに気付く。

 あの絵らに比べれば軽いM状に開かれた自分の脚、その脚の間に軽く正座してるマギヤの笑顔と「おはようございますトロイノイ」という挨拶。

「マギヤ……あんたの辞書に悔い改めるって文字、無いの?」

「ちゃんとダメと確認し、したことを誤魔化さず貴方の前にいられるのは、進歩だと愚考しますが」

「……あたしが無反応とか、質問ちゃんと聞こえてないとかで、返事一回だったらやる気だった?」

「無反応なら脈拍などを確認しますけど、返事一回だった場合は…………気を付けます」

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