終末世界で君は笑う

☆猫より柴犬派☆

第1話 異世界転生

 意識が戻るとそこは真っ白で何もない空間だった。


「どこ、ここ。それに私は……」


 体を起こしあたりを見回してみるが何も見つからずどこまで歩いても白の世界が続いているだけだった。


 今まで経験したこともない出来事に動揺しながらも周囲を警戒して一歩また一歩と歩き続ける。


「こっちだよ」


 突然声変わりしていない少年のような声が聞こえ警戒を怠ることなく声のする方向に体を向ける。

 そこにはまだ小学校も卒業していないような小さな少年が手招きながら立っていた。


「君は誰……」

「うん?僕かい?僕はアルマ。君たちの世界で俗にいう神様にあたる存在だよ。よろしく、ビウ」


 私は少し距離を取るように後ろに下がった。


「ちょっと!それは酷くないかな⁉︎これでも僕は神様なんだよ‼︎」

「いや、自称神の少年がこんな得体も知れない場所にいて私に話しかけてくるってだけでも十分恐怖だと思うのですが。それに私の名前も知っているなんて不気味に思っても仕方がないと思います」

「いや、それはそうなんだけど。信じてほしい。それならどうして君がここにいるか教えてあげるからさ。信じてよ」


 私がここにいる理由を教えられたからといってこの少年が神だという証明にはならないと思うのだが話を聞かないことにはこれ以上何も進展しなさそうなので少年の話に耳を傾けることにする。


「そう。なんで君がここにいるかというと死んだから!これの一点に尽きる。というか君も自分が死んだときの記憶くらいあるでしょ」


 そうだ。確かに私は死んだ記憶がある。いや正確には死ぬ直前というべきか。鉄鋼に押しつぶされてそこで意識が途切れたのだ。そして気づいたらこんな場所にいた。


「それで僕はそんな死した魂を案内する役割を担っている神様で君のこれからのことを伝えにきたんだ」

「これからのこと……ということは死した先にまだ何かあるということですか?」

「そっ、普通なら死んだ後はより上位の世界に生まれ変わることになるんだよ。まぁその場合は僕みたいな案内人は来ないで勝手に魂を次の世界に送り込むんだけど君は別。君は18歳という若さで死んだ。だから上位の世界に行くための魂の耐久度が足りないんだ」


 何を言っているんだ。上位の世界だの魂の耐久度だの単語は知っていても言っている意味が全く理解できない。


「その、上位の世界というのは…」

「分かっているさ。今からそれについて説明しようと思う。君たちは自分がどう言った世界に住んでいたか覚えてる?」

「どう言った世界ですか……そうですね。争いがあったり平和だったりと国によって様々である世界でしょうか……」

「違う違う僕が言いたいことはそういうことじゃないんだ。君たちの言葉で言うと超弦理論にあたることだよ」

「なるほど多次元空間のことですか」


 縦横高さの値を持ついわゆる3次元で表される空間に過去現在未来を表す時間という概念が加わった4次元の世界、これが現在私たちの住む世界だと言われている。この次元は11次元まで存在すると考えられており私たちは残りの5次元から11次元を観測することはできないとされている。


「つまり上位の世界というのはその5次元から11次元までの世界のことを指すという認識でいいですか」

「そっそ。で、君たち人間の魂って死んだらより上位の世界に、死んだらより上位の世界にってな感じのことを繰り返して行って最後は11次元までそれが続いて行くことになるんだ」

「つまり私は今から5次元世界に転生させられるってことですか?」

「んー、まぁ普通ならそうなんだけどね…」


 なんだろうかまるで私が普通じゃないみたいな言い方。少しイラってくるな。まぁ私が普通じゃないのは間違っていないので仕方がないことだけど。


「ここで絡んでくるのが魂の耐久度ということですか」

「そういうこと。まず魂って2次元から11次元まで飛ばしていけないんだ。当然だろ。前後しかない世界にいきなり9方向に空間を増やすことなんて不可能だ。というか普通は次元を超えることすら不可能であって2次元から3次元に行くことすら無理。でもそれを僕たち神が手助けして無理やりその魂をその世界にあった形に適応させてる」


 正直言ってる意味を理解できる人なんてほとんどいないだろう。私も理解できない。とりあえず次元移動不可能なのに神様が無理やりそれを可能にさせてるって認識だけ持てればいいや。


「でも、その適応すら完璧でなくて魂の耐久度が低いと神の力に耐えきれず魂が破裂してこの世から完全に消滅してしまう。ならばどうやってそれをあげるかとなると魂をその世界に馴染ませること。まずそもそも僕たち神の力でも魂を完全に2次元から3次元に適応できるようにするというのは不可能だ。だからある程度その次元で対応できるようになったら送るってことを繰り返してるんだけどその魂のままでは次の次元に送れない。だから君たちの魂が時間とともにその空間に適応していくのを待つんだ」


 完全に適応できたらまた次の世界に行く、適応できたら次の世界にという繰り返し……そういうことなのか?


「そう。まぁ完全に適応できたからって必ず魂が破裂しないのかって言われるとそうでもないんだが魂が破裂する確率を極限まで減らせる。減らせるとはいえ成功率は20%くらいなんだけど」


 完全に魂をなじませて20パーセントって確率低すぎない?これ上の世界に行くほど過疎ってそうだけど大丈夫なの?


「だいたい80年生きたら魂がその世界に完全に馴染むと言われていて、次の次元に行ける確率が生まれるのが40年ほど生きてから。これでやっと成功率は2%ほどだ。ここまでいえば何が言いたいのか分かったんじゃないかな?」

「つまり18年しか生きていない私では100パーセント上位世界に適応できる魂にならないってことですか?」

「そういうこと。だから君にはまた同じ3次元世界で転生してもらう。でも寿命は22年だけだ。それ以上は生きれない運命にしておく。理由は簡単だよ。僕たち神のルールで40年を過ぎた魂は次の世界に送ることが決められている」


 少し待ってほしいそれならどうして40歳以上の人間が存在している?40で次の世界に送られるなら40歳以上の人間なんて存在しないはず。


「なんか君が考えてることわかるから先に教えといてあげるけど40超えたからって僕たちが殺すわけではないよ。40超えても生きてる人は寿命が来るまでそのまま放置する。つまり長生きすればするほど次の次元に行ける確率は上がるわけだ。でも君のように二度目のチャンスを与えられたものは例外。だってそうだろ。例えばだが39歳で死んだ人がいたとしよう。その人にはも一回人生を与えるが40歳の人はその場で神の魂適応手術を受けてもらいますなんて不平等じゃないか。39の人が例えば5年で死んだとしても少なくとも40で死んだ人に比べれば確率が高くなってしまう。これは誰が魂が壊れずに最後までたどりつけるかという争いなんだ。誰か個人だけ有利にするなんてあってはならない。だから39で死んだ人には1年だけ生きてもらうし、18で死んだ君は22年生きてもらうということだ」


 いや、それならそもそも争いだというならば40まで生きれなかった人はその場でゲームオーバーってことにしていいんじゃないだろうか。一回で40年生きた人と2回目の人生で40年生きた人が同じなんてどっからどう見ても不平等だと思うのだが。


「話聞いて思ったんですけど……」

「そっちの方が不公平だって?そりゃそうだろうさ。でも僕たち神だって決まり切っている結果を見るのは好きじゃないんだ。まずはこの世界についてなんだけど11次元まで行って死んだら何になると思う?」

「えっと、もしかして神になるとかですか?」

「ピンポーン!正解!正確には神の世界に対応した魂に作り変える手順をそこでも行うから絶対に神になれるわけではないんだけど」


 つまりこの生き残りをかけた争いというのは新たな神を選別するための儀式でもあるという事か。でもこれってさっきの私の質問となんの関係があるんだ。


「まぁ、それでなんだけど神になったらどうなると思う?」

「えっと……」

「答えは簡単で僕みたいにその神に割り当てられた仕事をただ単に黙々とこなすだけになるんだ。それ以外は何もしないしできない。そんな僕たちからしたらこの争いを君たちでいうスポーツ観戦みたいな感じで見ることが唯一の楽しみになってしまってね、だからそんな決まり切ったことなんて見たくないんだよ」


 これってもし最後まで生き残っても地獄だし、ここで魂が消滅して何も考えれなくなった方が幸せなんじゃ。自分が神になった後の姿を想像して体がブルリと震えた。


「まぁ、てな訳で君には後22年また新しい人生を謳歌してもらいます。ちなみに世界観は剣と魔法の世界だよ。化学はそれほど発展しておらず、人間以外にもエルフのような人型の生物もいる世界。常に危険と隣り合わせでスリル満点の世界だ!それではいってらっ……」

「ちょっと待って」

「うん?どうかしたの」

「これって私の記憶どうなるの?」

「うん?普通に消すけど、別に残したいなら残してもいいよ。今までもそんな人いくらでもいたしね。まあ、そんな人は大抵変人扱いされてるし、前世の記憶があるなんて言っても信じてもらえない奴が大半だけど。君たちの世界にも実際にそういう人は居たんだよ。君たちが気づいてないだけで」


 衝撃の事実だ。私たちの世界でも二度目の人生を送っていた人がいたなんて正直信じられなかった。


 いや、私も今からそうなるんだし事実なんだろう。


「あっ、そうだ魔法の使い方とか教えといてあげるよ。向こうの世界に行くと多分今までなかった感覚があると思うけどそれが魔力で君の想像力でいろいろな現象を起こせるように設定してあるからいろいろ想像を働かせてみてね」

「ありがとう。じゃぁ後1つだけ個人的に気になったことがあるから聞いていいかな?次の世界に行くのに関係のないことだけど」

「いいよー」

「じゃあ、虫みたいな短命な生物の魂ってどうなってるの?少なくとも絶対80年生きれないし生物として生まれた瞬間40年生きれないことが確定するけど」

「あぁ、そもそも人型生物以外は神が世界観を作り上げるために置いた造形にすぎないので魂なんかないよ」


 えっ


「はい。それじゃあいいでしょ。それじゃあさようなら」

「ちょ、まっ」


 そうして私の意識は改めて途切れた。

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