第13話 王族領カレニア

 ランベルクを出てから半日足らずで、王都とランベルクのそれぞれに隣接する都市カレニアへと辿り着いた。


 カレニアにはノースランド王家の親戚にあたる立ち位置のノブス公爵家が統治し、王家のお膝元という立場で絶大な権力を持っているという噂がある。そしてこの公爵家も例に漏れず、王家と同等に近しい魔力量と属性魔法の資質を持っている。


「やっと着いたね、アル。」


「馬車が思ったより速くて、さらに悪路を行くからライアスは大変そうだったね。私はこの通りゴーストのようなものだから、全く影響はないけどね。ハッハッハ。」


 アルは僕のゴーストのような状態になってから、幾分か陽気になった気がする。ただ、時折り不安な、というよりは考え込んでる様子を見せるのが最近気になってしまうが、当人はなんでもないと言い張るので僕は気にしないようにしている。


「キャサリンはどこにいるんだろう。」


 前回は嵐のように去って行ってしまい、待ち合わせ場所を指定されなかったので、カレニアへと着いたはいいが、どこから探せば良いか迷ってしまっている。


「とりあえず、まずはギルドに行ってみたらいいんじゃないかな。依頼実績を引き継ぐ手続きもしなきゃいけないし。」


 そう、キャサリンが以前教えてくれた各領のギルドで依頼実績をまとめた紙を発行してもらい、これから行くギルドへ提出することで実績の引き継ぎができるというものだ。ちなみにこの制度はC級以上からしか伝えられていない制度であるが、制度の適用はC級以上の他の冒険者に教えてもらった人達もされる。

 その大体がD級であるが、要はある程度の実力がある冒険者に制度を使ってもらい、E級やF級が無茶な依頼を受けたりしない、危険防止のための制度ともなっている。


 これによりランクアップするのに、1つのギルドで置いている依頼では数や期間に偏りがあるため、他の領のギルドからも同時に依頼を受けれたりするなどメリットが多く、有効的な手段となっているのだ。


 強いてデメリットを上げるとするならば、依頼の受け方や数により引き継ぎが複雑化してしまうと、時間がかかるという点である。こればかりは仕方のない仕様となっていて、ギルド側も努力しているが、冒険者の裁量にもよるため人によってまちまちとなっている。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「えっと、ランベルクからの依頼実績の引き継ぎをお願いしたいんですけど。」


「かしこまりました。それでは、お名前と書類の提出、冒険者証の提示をお願いします。」


「これが依頼実績引継書で、こっちが冒険者証、あと名前はライアスです。」


「ライアス様ですね、それでは承りました。それと、貴方にはこのまま応接室の方へお願いします。」


 僕は受付嬢に言われるがまま、応接室へと向かった。


「こんなとこにわざわざ呼び立ててすまんな。突然で悪いんだが、お前さんの名前で指名依頼があるんだが、受けてくれないか?」


 そう言ってきたのは、カレニア領ギルドのギルド長、ザバーサだった。

 見た目はかなりランベルクギルドの幹部であるザハークに似ており、血の繋がった兄弟で、ザバーサのが兄らしい。


 僕はとりあえず依頼の内容を聞くことにした。


「依頼主はお前さんも知っている人物だと思うが、今ここでは明かせねぇ。そしてこのカレニア領で、その依頼主を助けてやってほしい。」


 ザバーサの言う依頼主とは十中八九キャサリンのことだろう。

 随分と壮大な話しな気がするが、約束を果たすためザバーサに言われた住所へと向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 指定された住所へ着くと、荘厳というには言い過ぎだが、かなり大きく豪華な家、いや、屋敷があった。


「いらっしゃいませ、ライアス様。お待ちしておりました。早急にお嬢様のところへご案内させていただきます。」


 そう言われ、僕はメイドの方について行った。


「やっと着いたのね!かなり待たされたわ!」


 応接室へと案内され、入った途端にキャサリンが言った。この前は、防具に身を纏っている姿だったが、今回はいかにもお嬢様らしい装いで現れた。


「ご、ごめんなさいっ。」


 キャサリンの見た目しか変わらないのだが、あまりにも変わりすぎて、つい畏まってしまった。


「そんなに畏まらなくていいわよ。それよりも、依頼を受けてくれるってことでいいのよね?」


「うん。でもまだ内容を知らなくて。」


「そう、それじゃあロン説明をお願いするわ。」


「かしこまりました。」


 そう言うと、ロンは説明を始めた。


 事の始まりは、王族領カレニアを実質支配しているノブス公爵家の嫡男であるウェール=ノブスがキャサリンに求婚してきたことだ。


 キャサリンは本名をキャサリン=ドミナントと言い、家は伯爵家である。

 ノースランドにおいて貴族階層は、王族>公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵となっている為、ウェールの申し出は本来とても喜ばれることなのだ。


 しかしウェールは、いや、正確にはノブス公爵家全体があまり良い噂を聞くことがなく、利用価値があるものは重宝するが、無いものや平民にはとても冷たいという一族なのだ。


 それに対して、キャサリンのドミナント家は代々平民のために尽力し、カレニア領の善良な部分とも言える一族である。それに加えて、キャサリンは冒険者として得た報酬を恵まれない人々のために使うということもあり、民衆から絶大な人気を誇っていた。


 ウェール達はキャサリンの見た目と、そこに目をつけ、今回の件に至るのだ。

 ドミナント家としては、地位の高い家柄ゆえに無碍にすると、王家にまで刃向かったと見なされるため受けざるを得ない状況と言えるのだ。


 大事な愛娘を守りたい、カレニア領を良くしたいという思いを持つキャサリンの父ロベルト=ドミナントは、闘技大会で優勝した者と結婚させるという苦肉の策として提案したのだった。


 ノブス公爵家は、優勝した暁にはドミナント家からの資金援助と政治面での協力を条件にその提案を飲んだのだ。つまり、勝ったらほとんど対価なしに隷属するような形に近くなるということだ。


 加えて、ウェールは王都でも王族に続き、上位に入る実力者だ。腐っても王族に近しいということなのだ。膨大な魔力量と洗練された属性魔法を4も持つという。


「僕が大会で優勝しなきゃいけないってこと?!」


「アナタだけじゃないわ。アタシ自身も出るわよ。それにロンや他にもギルドに内密にお願いはしてあるわ。ただ、ウェールは慎重に慎重を重ねて対応する必要があるの。アナタには大会に出てもらう以外にも役割があるわ。」


 キャサリン曰く、ウェールには別動隊なるものが存在し、本人の力量だけでも厄介なのに、裏工作をしてくる可能性があるらしい。

 そのため、僕には正体を隠すために仮面をつけて出て欲しいとのことだった。


「ウェールの実力を考えればやれるだけのことをやらないと、お嬢様や私たちが真っ向勝負でも勝てるか分からないのです。一応ギルドが他の支部から強者を送ってはくれるそうですが、、、。」


 そう言うロンの顔には不安の色が窺えた。


「ライアス、私としてもこの話はなんとか解決した方が良いと思う。それに、王族と関連しているということは、魔族の関与も気になる所だ。私もできる限りの協力をするよ。」


 アルにとっても因縁のある話だ。アルが生きていた時からきな臭い一族だったが、アルの死後権力が増したことも気になるそうだった。


「そういうことなら、僕も全力を持って協力する!」


「ちなみにあと10日後が当日よ。」


「え?!10日?!!」


「そうよ。ただし、上手くいけば報酬は弾むわ。上手くいけばだけど、、、。でも、気負い過ぎなくていいわ、何かあれば離脱して頂戴。それぐらい危険な奴だから––––」


 そう言って、キャサリンは自室へと戻っていった。

 僕らも大会に備えて、修行をすることにした。

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