理想郷~ここで暮らせるって、マジですか?~

 移動中に、私はアベルから話を聞く。


「ふむ、ガルガンティア宰相がな……」


 襲撃は、ガルガンティアの指示によるものらしい。


 

(執念深っ……)

(怖っ!)


 なんで、命を狙われにゃならんのだ。

 ぐぬぬぬ、ちゃんと望み通りに円満に追放されてやったというのに!


 なんでもこの盗賊団は、食うに困って私達を襲撃したらしい。 庶民の間では、長年続く戦争により食べ物が慢性的に不足しており、魔王城での贅沢な暮らしには不満がたまっていたとのこと。



(怖っ……!)


 革命を企てるレジスタンスの話を聞き、私はゾッとした。戦いが始まったとき、矢面にたたされるのはきっと私のような四天王である。



「あ、すいませんカリン様。四天王様の前で、このような不平不満を……」

「構わぬ、我にも責任はあるからな。四天王として、魔王城に務める者として謝罪しよう」


 深々と頭を下げる。

 先制して謝罪しておけば、これ以上の追求はしづらいものだ。


「ガルガンティアの行動は、さすがに許されるものではないからな。奴をそのままにしておくことは出来ないな」


 更にアベルの言葉には、全力で同意しておく。

 恨みの矛先を、さり気なく自分以外に押し付けておくのだ。

 


「魔王城も、昔からこうではなかったんです……」


 カミーユも、口惜しそうにそう言った。


 彼女が語ったのは、幼き魔王・リズベットについて。


 彼女は、小心者ながら国を良くしようと頑張っていたし、市民たちの声にも耳を傾けていた。しかし、いかんせん魔王城の中に味方が少なすぎたのだ。それは彼女の弱々しい態度であったり、経験の浅さが招いた事態だった。


「リズベットは良い奴だぞ? たしかに、押しに弱いところはあるけどな……」

「それが魔王としては、致命的だったんですよね」


 カミーユと私は、そう頷き合う。


 ガルガンティアが、みるみるうちに勢力を拡大し、気がつけばリズは彼の操り人形と揶揄される事態になっていた。

 リズはリズなりに頑張っている。しかし、国内の腐敗は進むばかり。ガルガンティアが権力を手にしてからは、戦争により領地を拡大し、食べ物の徴収を行い国に大混乱が訪れている。



(ガルガンティアのせいで、国に不満が溜まってる、かあ……)


 私は他人事のように聞き流そうとして――ふと危機感を覚える。国の中心人物たる四天王――恨まれるには十分なのでは? と。


 一応、恨みの矛先はガルガンティアに向けておいた。

 まだまだ、足りない。だって……、


(盗賊団に裏切られたらワンパンされる自信があるぞ!?)


 その憎しみが、万が一にも私に向いたら一大事だ。


 私の望みは、隠居して辺境でのんびり暮らすことだ。

 平穏な暮らしを送るため、私は全力でゴブリン山賊団に媚びておくことにする。



「私は奴とは違う。私の理想は、みんなが個性を発揮して、みんなで輝き、全員が手を差し伸べあって生きる世界だ」

「カリン様?」


 たわ言と言われても構わない。

 だけども、これは譲れぬ夢なのだ。


「弱者も強者もない。権力者に媚びる必要もない。あぶれた者が居れば、私が手を伸ばそう。だから夢の実現のため――どうか諸君らの力を貸して欲しい」


 ――みんなで輝く

 カリンにとっての理想は、毎日のぐ~たらライフだ。

 辺境で隠居する。私はなにもせず、ぬくぬくと生きていく。


 その理想の実現のためには、個々の能力を最大限に引き出しす必要がある。

 だから保証するのだ。

 ここでは、誰もが最大限の力を発揮してよいと。なにか起きても(たぶん誰かが)手を差し伸べてくれるし、思う存分チャレンジして欲しいと。



「カリン様!」

「あぶれた者――そうか、そうだよな……!」


 カミーユが、じとーっとした目で私を見る。

 こいつは私の本性を知っているが、空気を読んだのか何も言わずにいてくれた。


「我々ゴブリン山賊団は、カリン様に一生の忠誠を誓います!」

「カリン様、万歳! カリン様、万歳! カリン様、万歳!」


 ふむふむ、とりあえずは大丈夫かな。

 これから1ヶ月は、念のため、毎日、媚びておくことにしよう。



 そうして私は、30人の頼れる部下を手に入れたのだった。



***


 そうして数日移動してたどり着いたのは、すっかり寂れた山村だった。

 悪く言えばボロボロの家屋も、良く言えば古民家といった趣があって良いものだ。


 空気もゆったりと流れている。

 殺伐とした魔王城に比べれば空気が美味しいし、何より空気の美味しさを味わえる心の余裕がある。

 はっきり言ってしまえば最高の村だった。



「こ、これは――」

「このような場所にカリン様を住まわせる訳には……!」


 一方、ゴブリン山賊団の面々は、なにやらヒソヒソと声をかわしていたが、


「素晴らしい場所じゃないか!」


 歓喜の声を上げて村に飛び込む私を見て、カミーユがため息をつく。

 ……いかん、ついはしゃいでしまったな。



「カリン様、少々お待ちを」

「うむ」


 カミーユが使者として走っていき、やがて私たちは1つの建物に案内された。


 この人数の滞在費を稼ぐのは骨だ。

 どうしよう――なんて思っていたが、私たちはなんと住居を用意してもらえることになった。



 ここの奴らは、天使か? 天使なのか?

 テンションが上がりっぱなしの私の元に、村長と思わしきおばちゃんがやってきた。


「すまないねえ。何もない村で――ここまで寂れてるとは予想外だろう?」

「そこが良いんじゃないか!」


 あかん、力説してしまった。


 というか何もない村、を肯定しちゃ駄目だろう私。

 あたふたと慌てる私を見て、



「凶暴すぎて追放されたっていう四天王にしては――随分とおおらかなんですねえ」


 なんてほんわかした笑みを浮かべるのだった。



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