第18話

席に、料理が運ばれてきた。まずは前菜とスープ。


「おいしそう」

店員が去ると、佐伯は声を小さくして話す。

「後ろ、3番目の席。歌手の沢地愛とイラストレーターのけんたろう」

金田は、窓に映る2人を確認した。しかし、テレビを見ない金田にはさっぱり分からなかった。

「いるんですね」

と、とりあえず答えてみる。

「結構見かけますよ。だから、スクープしようと追っかけているマスコミ関係者も多いんです。見てください、壁側のあの席の2人」

さりげなく指を指している席には、30代くらいの男が2人。

「ふつうのお客さんじゃないんですか?」

「背中の後ろに新聞紙があるでしょう? 料理がくるまで新聞を読んでたんですよ。ふつう、相手がいたら新聞なんて読みませんからね。こういうレストランでは特に」

「なるほどー。よく観察されてますね」

「この仕事をしていると、人の意外な一面を発見したりするんです。テレビでよく見る人のプライベートな顔っていうんですかね。キラキラした舞台で輝いている人って、雲の上の存在に思えてしまいますが、自分と同じ人間なんだよなーなんて」

「テレビでの印象とまったく違う人って、いましたか?」

「ほとんどがそうです。テレビの印象って怖いですね」

「芸能人の素顔って、私も興味あります」

「あっ、この店を紹介していた芸能人って、誰なんですか?」

「池綿裕太です」

「あー、イケメンですよね。えっと、河合華奈と結婚してるんでしたっけ?」

「たしか、婚約段階だったかと」

「だからか。この前、マスコミに池綿のことを聞かれたんですよ」

「どうして佐伯さんに?」

「私がこのフロアの担当だと知って、何か暴けるとでも思ったんじゃないですかね」

おそらくそのマスコミとは、南の知人のことである。

「でも、何にも知らないんですよ。知っていることは、こうして誰が誰と食事に来ているか、くらいです」

「例えば、池綿が河合以外の女性と食事に来ていたなら、それはスクープでしたよね」

「そうですね。さすがに池綿も、婚約者以外の女性を連れてオープンな場所で食事はしないでしょう」

「佐伯さんが見たときの池綿は、ひとりだったんですか?」

「河合さんといっしょでしたよ」

「なーんだ」

「あれ? なんで悔しい顔をするんですか?」

スクープを取り損ねた気持ちが出てしまった。

「もしかして、池綿狙ってます?」

「え」

話が変な方向にいっている。

「図星……?」

「いや」

「金田さんは本当に面白い人ですね。でも、金田さん、池綿についてはファンのままでいることをおすすめします。池綿と河合は、テレビの印象のまま。たまに、ふたりでこのホテルに泊まるくらい仲がいいですよ」

金田は、ホテルというワードに反応した。池綿も河合も東京都内でひとり暮らしなはずだ。

「ホテル? 家は都内なのに、泊まるんですか?」

「ええ、そういう有名人は多いですよ。自宅だと、何時から何時までってマスコミが書いちゃいますけど、ここだと、ビルに入ってしまえばバレないですからね」

「マスコミもビルに入れば、バレちゃうんじゃ?」

「宿泊先される有名人は、VIPカードというものを持っているんです。VIPにしか入れないエリアがあり、マスコミが追えないようになっています。有名になれば、人と会うこともリスクが付きものです。どんな人にもゆっくり休んでほしい、その想いが、このビルにはあるんです」

「そうなんですか」

「ええ」

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