世界"最強"レベル100の冒険者~世界最高レベル100に到達した冒険者フレイルは毎日頑張って生きている~

愚者の金

一章 レベル100の男

第1話 レベル100 その1

『覚醒を確認しました』


 目が覚めるとそこは白い床の上で周りに人は一人もいなくて、機械音だけが聞こえてきた。

(ここはどこだろう?)


『これより転生ボーナス設定を開始します』


(転生ボーナス?なんだそれ?)


『最初にジョブを選んでください』


 目の前の空間に突然ディスプレイが現れる。左右を見渡してもこの画面だけは位置を変えずについてくる。

 指でスワイプすると文字列が自由に動くし、操作はスマホと同じだと思う。


(ジョブ?剣士、弓使い・・・農民なんてのもあるな。この中から好きな物を選べって事か?一応、高校時代はアーチェリーをやってたし、弓使いにするか)


『ジョブの設定を完了します。この選択はやり直せませんがよろしいですか?よろしければ1をやり直す場合は0を押してください』


 目の前にIと0のボタンが現れる。

(そこはYesとNoとかじゃないんだ、昔の家伝についてるスイッチかなにかかな?)

 やり直せないと言われて少し悩んだけど、結局他を選んでも特に差が無いような気がしたのでIを押す。


『選択されました。ジョブを"弓使い"に設定します。次に転生ボーナスを設定してください』


 音声が終わると目の前のジョブ選択画面が一度真っ白になった後、画面の1/2位のサイズの円が表示されるとその中をローディング画面の様にグルグル回り出した。

 体感で1分位経つと、目の前のディスプレイに転生ボーナスと書かれたタイトルと膨大な量の転生ボーナスのリストが表示される。


(こんなに表示させようとしたら、時間かかるわな。というか、この画面見づらいな。もうちょいUIでなんとかできる部分があっただろ)


 と思いつつも、転生ボーナスのリストを眺めていくが、選択肢が多すぎて選べない。


(とりあえず、何が必要か考えていくか。弓使いが選べるって事はそれ相応の戦いみたいなことがあるんだと考えると、戦いに有利そうなボーナスが欲しいな。)


 そう思って眺めていくと、スキル隠蔽EXと言う文字を見つける。

(たしかに、弓使いのイメージと行ったら山の中で隠れて相手の死角から急所に一発ってイメージだもんな。しかも、それにEXが付いていたら強そうだ)


 スキル隠蔽EXの文字を押すが、何も反応しない。


(あれ?何でだ?さっきはこれで選択できていたのに)


 よく見るとジョブ設定画面に比べて画面のデザインが古くさい気がする。よく見ると、画面の上に-ボタンがあった。試しに押してみると画面が下のタブに収まった。

 その下には”5桁までの転生ボーナスコードを入力してください”という文字と数字入力欄と0~9の文字盤が現れる。


(こっちのUIは更新してないのかよ!!)


 とりあえず、選択の仕方がわかったのでタブから、さっき閉じた転生ボーナスリストを開くと、隠蔽EXの横に5桁の数字が書いてある事に気付く。ふと、最初の方の画面を見直すと3桁のもある。

(最初は3桁だったのを必要に応じて増やしていったけど、最終的にはデータ量が多すぎてUIの更新ができないというようなところか?)

 選択の仕方がわかったところで、隠蔽EXの転生ボーナスコードを入力する。


『転生ボーナスの設定を完了します。この選択はやり直せませんがよろしいですか?よろしければ1をやり直す場合は0を押してください』


 さっきと同じだったので、あまり迷わずにIを押す。



 結局、こんな問答が何回かあった後、キャラクターの作成が終わった。

 あの後、選んだのは転生ボーナス2(照準を選んだ。遠くを狙うときにはこういうのも合った方が良いのかなと思う)・種族(エルフにした。弓使ってそうだなと思ったから)・転生時の年齢(5才にした。歩けない頃とかは退屈だろうから)・初期ステータス(パワーとスピードとスタミナに多めに降っておいた)を選ばされた。一々変化するUIに思ったよりも手こずり多少疲れた物の、最後のステータスを選んだところで、やっと終わりのようだった。


『設定されたステータスを表示します。なお、この画面が閉じられると特定のスキル以外で閲覧することはできません。また、この画面が閉じられると同時に転生処理を開始します』


 少し疲れたので一休みしようと思ったけど、画面以外に何もない空間ではなんか気が休まらなかったので、少し寝っ転がっただけで、立ち上がって画面上の x ボタンを押すと、すぐに視界が暗転した。


* * *


 あれから10年が経った。はじめこそ見知らぬ土地で価値観に戸惑ったものの、今では立派に異世界人だ。自分がよその世界から来たことは誰にも言っていないし、誰にも言わないつもりだ。

 それから、自分はエルフに生まれたが、両親は人間だった。こういう異なる種族が生まれてくることは人間にはたまにあるらしい。一説によると古代の時代には人間以外の種族が多く存在して、人間は奴隷のように扱われていたらしく、その際に入った異種族の血が先祖返りして現れていることらしい。

 本物のエルフなら数百年生きるらしいが僕ら先祖返りは普通の人間と同じくらいの寿命らしい。本物の異種族達は世界のどこかでひっそりと暮らしているから、町中で見る異種族は結局みんな先祖返りらしく、今では特に差別などはない。(昔は悪魔の血と呼ばれて山に捨てていたらしいが)

 ただ、エルフの血は見た目の違い以外にも各種族固有のボーナスがついてるようで、エルフの場合は森の中にいる精霊と話ができたりする。(僕も家の近くの森で何人か仲の良い精霊がいて、友達が森の中ではぐれたときとかに探すのを手伝ってもらうことがある)

 このボーナスのせいでかつて悪魔の血と呼んで山に捨てた先祖返りが復讐に駆られて生まれた村を焼くなんて事もあったらしいが、今はないので生きやすい社会になった物だと思う。

 それに、先祖返りはボーナス以外にも特殊な能力を持った人が多いために多くの界隈で優遇されるらしい。その中でも、特に厚遇してくれるのが冒険者ギルドだ。

 先祖返りは10才~15才のどこか一年以上で好きな王立学院(場所は選べる)に通わせてもらってから、15才から冒険者として働くことができる。しかも、通常青銅級から始めるランクを鉄級から始められる。これは、王立学院時代に冒険者ギルド登録者用のカリキュラムをこなすことで冒険者としての基礎が身についたと判断されるからだ。

 しかも、冒険者として働く義務は指定の銀級クエストの達成までで、それ以降は自由にできるらしい。これは、国の施策で非常時に最低限戦力となるように指導するためらしく、多くの先祖返りは冒険者を辞めた人でも各地で時折住んでる村の周囲の魔獣の駆除をしてお金をもらっている人もいるらしい。

 まぁ、全部王立学院時代に授業でやったり、本で読んだことの受け売りだけど。


 まぁ、そんなこともあって15才で成人になった(この世界では成人が15才らしい)ことで、僕も王都の冒険者ギルドで冒険者登録をして最初のクエストをに向かっている。

「たしか、今日受けたクエストははぐれオオカミの退治か」

 一応、冒険者実習の一環で冒険者ギルドから派遣された冒険者に連れられて、魔獣討伐に参加したことはある。(ほとんど冒険者が倒して、僕らは一人ずつ一体の魔獣としか戦ってないけど)

 一人でやるのは初めてだけど、王都の門を出てからは隠蔽EXを使ってるので、死角から襲われることはないだろう。


 しばらく歩くと、オオカミが一匹でいるのを見つけた。あれが、はぐれオオカミだろう。群れでいるオオカミは国によって居場所が大体把握されているが、はぐれオオカミはそういう群れからはじき出された個体だ。彼らは群れで動かないせいで突如として街道に現れて行商人や旅人に危害を加えることがある。それを防ぐために群れからあぶれたはぐれオオカミを狩るのは大事な仕事の一つだ。


 オオカミの背後に回り、僕は背中の矢筒から矢を取り出すと静かに弓につがえて引き絞る。忘れずにスキル照準も起動する。

 アーチェリーの時は気付いていなかったけど、獲物は動くし普通の弓には照準器なんてついてないのだ。それに気付くまではどうやって弓を使ったら良いのだろうと悩んでいたが、スキル照準は取っといて良かった。10m先の相手でも今の弓と動く獲物ではスキルなしでは中々当たる物でも無い。

 スキル照準の効果で矢の起動が表示される。弓の引き手が緩むと照準は下に下がるので、しっかりと腕をキープしたまま、照準を合わせて―


(今だっ!!)


 スッと引き手を矢から離すと矢は視界に描かれていた軌道の通りに飛んでいく。軌道通りの矢は音もなくオオカミの胴体に突き刺さる。


「やった!!」


 つい声を出してしまったのでオオカミに気付かれたが、そのオオカミも一歩踏み出したところでその場でバタリと倒れた。


 オオカミが倒れたことで、ホッと一息つく。

「つい大声で喜んじゃったのは不味かったなぁ、今度から気をつけよう」

 口では反省を口にしてるものの、口角は上がり脚はすこしスキップみたいになっていて浮かれていることが丸わかりだが、今回はなんとかなったので次から気をつけよう位に思っている。


「たしか、倒したオオカミは手早く解体して、必要部位だけ持って帰るんだっけ...って、ナイフがない」

 そこで、初めてナイフを忘れたことに気付いた。

 これまでの生活でナイフを使う機会はなかったが、冒険者になると動物の解体や非常時の護身用の武器、サバイバル用などいろんな用途があるので、絶対に買っておくようにと冒険者ギルドの登録時に言われて、買ってはいたのだが初めてのクエストへの緊張から宿に忘れてきたようだった。


「どうしよう。たしか、クエスト達成を証明するのに必要な部位はオオカミの毛皮だったはずだけど。」

 しばらく、獲物を前に右往左往するも良いアイデアが思いつくはずもなく、とりあえずと矢を抜いたところで、鏃でならなんとか切れないか?と気付いた。


「たしか、最初に血抜き...は毛皮だけだからしなくて良いんだっけ?」


 オオカミの肉は臭みが強い割に固く、痩せて肉が少ないために食べることは稀であり、毛皮を外套用使う程度である。このクエストのメインははぐれオオカミの駆除であり、オオカミを何かに使いたいわけでは無いのだ。


「えっと、最初に切れ込みを入れて...って矢だと持ちづらいなぁ」

 なんとか必死に切れ込みを入れるが、鏃は本来着る用途ではないので中々刃がが進まない。


 しばらく経っても、オオカミの毛皮ははげていない。すでに日が傾いてきていて、夜になるとオオカミの群れや魔獣の動きも活発になってくる。その焦りが更に毛皮を剥ぐ作業を遅れさせる。


「これを手放せば、帰れるけどこの成果が無くなるのは...」

 オオカミの毛皮なんてさほど大金にはならないが、折角狩った対象を置いて帰ろうという気にもなれない。かといって一匹と行ってもオオカミの巨体を持ち上げて走って帰れるほど15才のエルフの少年の体は大きくない。

 オオカミを置いて帰るしかないのはわかっている物のどうしても、未練が断ちきれない。そんななか少年は作業を進めている間に日は暮れ手元のオオカミも見えなくなってしまった。

 周囲には途中で傷つけた血管から流れた血や誤って自分で切ってしまった自分の血が流れている。このまま夜になれば、これが魔獣を引きつけてしまうのは間違いないだろう。


「さすがに、もう帰るしかないか...」


 少年がさすがに諦めを見せたその時、少年の周りの草を踏みしめて歩いてくる音がする。それも一つや二つではない。数十の足音が聞こえる。のそりのそりと音を出さないように向かってきているが、耳の良いエルフの少年には幸か不幸かその音が聞こえてしまった。

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