第3話 貴族に転生したものの

 目の前が真っ暗になってしばらくした後、中年の女性の声が聞こえた。

「旦那様、おめでとうございます! お世継ぎがお生まれになりました!」

 ゆっくりと目を開けるとぼやけていたがそこには金髪の中年の女性がいた。

 とりあえず何か言ってみようとして、

「けほっ、けほっ、ゴホッ」

 しゃべろうとすると何かが口の中に詰まって咳き込んでしまう。

 するとすぐに今度は若い男性の声で、

「おお! おおお‼ 初めての子供が男の子とはよくやったぞソフィ! これで我がオリオン家も安泰だな!」

(俺のことだよな?実は横にもう一人いる的な展開じゃないよな?とすると俺の姓はオリオンか……。

 てかなんで日本語しゃべってるんだよ!)

 そんな俺の心情をよそにこれまた若い女性の声が聞こえた。

「ええ、あなた。これで私も貴族の女としての務めを果たせましたわ。」

「うむ! だが、まだまだ子供を産んでもらわなければならんのだから、ゆっくり休んで体調を崩さない様に気を付けるのだぞ」

「あなた……」

(……いや、ラブラブなのはわかったから俺を放置してイチャイチャするのはやめてもらっていいっすか……)

 そうこうしてる間にも産湯につけ体を洗うなどが終わり、

「あの、旦那様、そろそろ」

 と、産婆さんが急かす。

「おお! そうであったな。この子の名を付けてやらねば。もちろん既に決めておいてあるぞ!」

 そこで男は一拍溜め、

「レインだ!レイン・デュク・ド・オリオンだ‼」

 そう高らかに宣言した。

(レインか……、悪くはないな、呼びやすいし)


「では次の儀式に移る! おい、魔眼石を持って来い!」

 と言って、お付きのものから何か球状の黒い物体を受け取る。

「ハッ! こちらに!」

(きたーーー‼俺の知らない異世界アイテム! てか魔眼石って、名前がマガマガしいな……。

 おい、大丈夫なんだろうな! いやだぞ、突然「か、体の内側から何かが湧いてくる、くっ! グ、グワァァアアアア」なんて展開)

 俺の心配をよそに誰かがこちらに歩いてくる音がする。

「よし! よこしなさい! ではこれより伝統の魔眼の儀を執り行う‼」

 そう若い男性(おそらく父親)は宣言した。

(いやいやいや、魔眼の儀ってあんた! こえーよ!神様! 神様ーー! ヘルプ! ヘルプミーー‼ 死ななければいいという問題じゃありませんよーー‼)

 俺の魂からの叫びもむなしく、男の手が俺の右手を掴みゆっくりと動かし、何かひやりとしたものを触らせる。

(ヒ、ヒイィィィィ‼)

 転生直後のまさかの事態に心の中で悲鳴を上げる。

「では!ステータスオープン‼」

 恐怖していた俺をよそにそういった。

(ス、ステータスオープンかよ! 驚かせやがって! てかせめて鑑定石とかにしておけよ‼ なんでよりにもよって魔眼石なんだよ!)

と、突然俺の目の前に光り輝く文字列がはっきりと浮かんだ。


{レイン・デュク・ド・オリオン/Lv.1}

{男性/AB/6533/7/8}

{人族/オリオン公爵家}

{HP 26}

{MP 123}

{STR 21}

{VIT 12}

{AGI18(+36)}

{魔法}

{スキル}

 レア4 MP上昇率大

 レア5 神速

 レア6 我が矛は最弱なり、我が盾は最強なり

 レア7 魔力全吸収

 レア7 無詠唱

 レア9 魔導王

 レア10 神眼

 エクストラ 言語理解


(((……)))

 痛いくらいに全員が固まってしまっていた。

 かくいう俺も全く動けずにいた。

(とりあえずいくつか突っ込みたいことと聞きたいことがある……。

 まずお前‼ 我が矛は最弱なり、我が盾は最強なり! なんでお前だけ文章なんだよ‼ 意味わかんねーよ!

 あと魔法の箇所が空欄なんですけど‼ えっ? 才能なしって事? 違うよね?覚えた魔法がそこに記入されるんだよね?じゃないとスキルが半分くらい無駄になっちゃうのですけども!)

 俺の心の声が聞こえたのか父親が最初に呟いた。

「な、なんということだ……」と、明らかに落胆や悲壮を込めてそう言った。

「ああ、なんということなの……」と次に母親がそう呟いた。

(え? え? いやいや、2人で納得してないで説明してくださいよ‼

 やばいのこれ? どうなんですか?)

 俺の願いが通じたのか父らしき人はこう呟いた。


  ミスクリエイト

「神の過失――」


「あなた‼」

「す、すまん……」

(……泣きたい)

 会話から察した。

 おそらく俺には魔法の才能がないのだろう。

 MPが多くても何の役にも立たないということなのだろう。

(マジか! マジっすか神様⁉)

 さすがに俺も打ちひしがれていた。

「そ、そうだな。公爵家の長男に必要なのはスキルや魔法の才能ではない。

 あるに越したことはないが、それがないからと言って問題になるわけではないからな。

 すまなかったなソフィー」

「いえ私も少し声を張り上げすぎてしまったわ。ごめんなさい」

「うむ、では後は頼むぞ、マリアナ。

 それとここにいる皆に命ずる! このことについての一切の口外を禁ず!

 破らば重罪に処すゆえくれぐれも気を付けるように!」

「「「ハッ‼」」」

 そう言い残し父らしき人とそのお供は去って行った。


 父が去った後、母は溜まっていたものを吐き出すようにこう言った。

「フウゥ〜〜〜……。

 まさかこの様な事になるとは思いもよりませんでしたわ」

(うん、俺もまさか魔法が使える星に転生して魔法が使えないとは思いもよらなかったよ……)

「はい、私も同感です」

「今の世では、公爵としての才能、貴族としての器よりも武力や知能の方が優先されやすいのは厳然たる事実ですわ。

 次男が生まれたとき、またそれ以降に男の子が生まれた時、この子よりも才能にあふれていたらどうしましょう……」

「奥様、おそれながらそれは今考えるべきではないでしょう。不安がレイン様に悟られてしまいます」

「ええ、そうね。

 そういえば、レインは全く泣かないわね、どうしたのかしら?ま、まさか病気とか!」

 今更だが、長男が生まれたことやスキルがおかしかったことからつい失念していたが生まれたばかりの赤ん坊が泣かないのはおかしい。

「いえ、魔眼石で確認致しましたので病気の心配はないでしょう。

 そういう子もいるのかもしれません」

 助産師にしても初めてのことではあるが心配事は体に悪いためそう言った。

「そ、そうよね。そういう子もいるわよね」

「はい」

「ハアァ、安心したら少し眠くなってきちゃったわ。後はもう任せても大丈夫かしら?」

「はい。後は任せてお眠りになってください」

「ありがとう、マリアナ、おやすみ」

「お休みなさいませ、奥様」

(俺も興奮したからなんか眠くなってきたな……。明日からはどうせ暇だろうしスキルについて考えるのは明日からにしよう……)

 そう思い、意識を手放した。

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