伝説の大聖女は300年後に目覚めた世界で途方にくれている

しましまにゃんこ

第1話 伝説の大聖女、目覚める!

 ♢♢♢


「では次の方。こちらの冒険者ギルドは初めてですね。お名前をフルネームでお願いします」


「アニーシャ・ダダンです……」


 ロイドは、目の前に座る少女の姿をチラリと確認した。


 流れるような銀髪に吸い込まれるような水色の瞳。この王都でも見たことのないような美少女だ。


 かつて勇者と共に魔王を倒した『伝説の大聖女アニーシャ』も、銀髪に水色の瞳を持つ美しい少女だったとか。この少女も、髪の色や瞳の色から聖女にちなんだ名前を付けられたのだろう。


「リリシア教会の聖女さまと同じお名前ですね」


 何気なく口にした言葉に、少女はパァ~と顔を輝かせた。


「そう、そうなんです!私、聖女なんです!」


「……ああ。はい。そうですね。聖女様と同じ名前ですね」


「あ、いえ、そうではなくて、私がその聖女本人なんですけど……」


 ロイドは軽く溜め息を付いた。長くこの仕事をしていると、たまにこういう手合いが現れる。伝説の聖女の生まれ変わりとか、古の勇者の末裔とか。


 大方は詐欺師だ。だが、中には自分こそが本物だと信じている者もいる。目の前の少女は明らかに後者に見えた。


 本気だかどっかおかしいのかは知らんが、相手をする時間が無駄であることだけは確かだ。何しろこの時期はここ、冒険者ギルドの最盛期。腐る程モンスターが涌き出る時期に、頭のおかしい少女の相手までしてやる暇はない。


「その手のお話でしたら、三番街のドレイク先生が担当です。はい、次の方~」


 有名なヤブ医者を紹介してとっととお引き取り願おうとしたロイドだったが、少女は慌ててすがり付いてきた。


「あ、あの!私にお仕事を紹介して下さいっ!お金がなくて目覚めてからもう3日も何も食べてなくて……」


「……はぁ。ギルドカードはお持ちですか」


 頭のおかしい少女でも、冒険者として仕事を探しているとしたら無下にはできない。何しろ人手不足。猫の手も借りたいほど忙しいのだ。腐る程必要な薬草を摘んでくるくらいなら、この少女にも勤まるだろう。


 ――――でなければ、こんな容姿の少女が行き着く先はろくなものではない。


 ロイドの言葉に少女はほっとした顔でギルドカードを差し出した。


「あ、あの、かなり古いものなので今でも有効かどうか……」


 少女がおずおずと差し出したギルドカードを受けとるが、見た目はそれ程古いものとも思えない。読み取り用の魔法具にかざすと、難なく本人のステータスを読み取ることができた。


「ええっと。アニーシャ・ダダンさん……年齢は……317歳……は?」


 

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