もう探さないと諦めて
いつもの下校。
魔術師学科の教室を出て、
とてもとても大切なひととき。
けれど、今日は事情が違った……。
学術試験の結果。
でも、手応えが無いこともなかった。なのに――。
85人中17番……。
いつも5番以内にいたのに……。
「ちょっと今回は遊び過ぎたねー」
並んで歩くソラ君が言う。
(キミ、それでも3番だよ……?)
怒りと悔しさと妬みと不甲斐なさと……。
感情が渦を巻いてお腹の底から湧きあがってくるけれど、彼には見せたくない。
見せるなんてみっともないし、見せたらきっと……嫌われるから。
今も別に好かれているわけじゃない。そんなことは分かっている。
けれど、今の関係性を壊したくなかった。願いは叶わないのだから、せめて――。
「どうしたの?」
黙りこくっていた私の異様さに気付いてか、ソラ君が気遣うような声を掛けてきた。
同情なんか……、同情なんかされたくないっ!
「――っ! ごめん!」
「あ、ちょっと! オークルオードさん⁉」
いたたまれなくなって、衝動的に私は駆け出した。
「あ! オークルオードちゃーーーん! なのです!」
最悪なタイミングだった。
前方に見えるのは
圧倒的な身体能力を持つ彼女に追いかけられたら、振り切ることなんてできない!
やれるとしたら――!
「もう私に構わないで! 檸檬硝子のことも、もういいの!」
「オークルオードちゃん……」
走りながら精一杯の声をリコットちゃんにぶつけると、案の定動きが止まった。
心の脆い彼女はキツい言葉を浴びせれば
眉を下げ、大きく振っていた腕が枯れた野草のようにうなだれるリコットちゃんの横をすり抜けていく。
そのまま息の続く限り走り続けた。
飛んだほうが早いのだけれど、飛び立つまでに時間がかかるから走るしか無かった。
「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」
両手を両膝につき、乱れた呼吸を整えながら背後を見る。
追ってくる姿は見えなかった。
なんとか住宅街までやってきた。
路地が入り組み坂の多いこの辺りなら簡単には追いつけないだろう。
(私……ひどいことした……。せっかくできた友達に、ひどい言い方した……)
どうにか
ひとしきり泣いてから両親の元へ赴き、学術試験の結果を報告した。
案の定お説教が始まったが、そこで私が涙を流すことは無かった。
それから――。
私はまた、両親の用意したレールの上だけを進む生活に戻った。
おばあちゃんに逢いに行くのも、二人と過ごすのも止めて、ひたすら机に向かっていた。
教室でもソラ君と目を合わせることはせず、顔も上げずにひたすら書物に向き合った。
けれど、心の中に浮かんでくるのはおばあちゃんのことと、ふたりの顔。
勉強に身が入るはずなかった。
◇
そんな生活がひと月ほど経とうとした頃のある夜……。
コンコンコン。
二階にある私の部屋の窓を叩く音がした。
「……?」
空耳かと疑い、上げた顔を再び書物に戻す。
こんこんこん。
まただ。
はっきり聞こえた。
泥棒が留守かどうかの確認だろうか……?
音を立てないようそっと立つ。
傍らに置いていた魔法発動用の杖を手に取り、
窓の上から――逆さまで“にへらっ”とだらしない笑みを浮かべた、見覚えのある顔がそこにあった。
「リ……リコットちゃん……!」
「どうしたのっ⁉ い、いえ、それより、ど、どうやってここに……っ?」
窓越しの私の声が届いたのか、リコットちゃんは背後を指さす。
そこには箒に横乗りする空色の
逆さまの顔にぶつからないように、片側だけ窓を開ける。
「早く撤収しないとっ! 家の者に見つかったら騒ぎになります!」
「分かったのです! 檸檬硝子が自生しているところが!」
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