第25話 選抜大会予選【3】
本日三度目の試合開始宣言の下、Cブロックの人達が一斉に声を上げる。
そして始まる試合は、予想だにしない展開を迎えていた。
「……ぐっ」
始まってわずか数秒、リンシアは満身創痍となっていた。
いや、正確にはとある男を除いた全てのCブロック参加者がと言うべきだろう。
────それは宣言直後の事だった。
「ヒャッァァハァァァァ!!!オラオラオラァ!!!」
両手に爆発の魔術を展開し、それを四方八方へと投擲する。
それは着弾した瞬間に爆発し、周囲の参加者は為す術なく吹っ飛ばされるか無数の傷を与えていた。
「オラァ!全員吹っ飛べぇ!!!」
己の身すら巻き込みかねない爆風を巻き起こしながら、舞台上は土煙でいっぱいとなる。
煙が消えるそこには50人近くいた参加者がわずか10人となっていた。
とはいえ、残った人も怪我が酷かったりして状況は悲惨であった。
その男の名はガゼル。
炎を操る爆発の魔術を得意とする男だった。
開始早々今までと同じように広範囲の魔術を展開、その結果がこれである。
「くっ……なんて威力」
リンシアは満身創痍の身でありながら、何とか立ちあがりガゼルと相対した。
「おお、そこの女やるじゃねぇか! 俺様の爆発を受けてまだ立てるなんてよぉ!」
爆発魔術は火属性の魔術だ。
火力に特化した属性ということもあってかなりの被害をもたらした。
対してリンシアは水属性である、火との相性は良くも悪くもないと言ったところだ。
リンシアは普通に戦っても、もはや勝ち目は無いことを悟ると水魔術を展開していく。
『
舞台めいっぱいに魔術を広げ、ギリギリまで展開し終えると舞台の中心に向かって吸い込まれる渦潮が発生した。
「この魔術は私以外を全て中心に寄せるわ」
「へっ! 集めてどうしろってんだよ」
そう言いながらガゼルは渦潮に巻き込まれながらも魔術を展開する。
『
手のひらに出現させた火球はみるみるうちに小さくなり、小指の先程の大きさになるとその小さい範囲に魔力が収束を始めた。
「まずい!!」
レントが声を荒らげて立ち上がるが、この場において外部からの干渉は出来ない。
周りの人達はただ見ていることしか出来ないのだ。
レントの見立て通り、あの魔術は舞台上どころかこの会場ごと爆破できるレベルのものであった。
しかし、レントが分かっているならリンシアも分かっている。
魔術の練度はまだまだ彼女に劣るのだ。
そうしてガゼルは何とか完成させると発動させるために地面に落とした。
皆が予想してたであろう大爆発。
それが地面に触れた瞬間にこの場所は跡形もなくなる位の魔力はこもっていた。
──────シュボッ……
しかし、その結果と言えば何とも残念な結果だった。
手から離れて少ししたらその火球は水に触れたかのように萎み消えたのだ。
「無駄。この魔術発動中は火の魔術は不発になる」
「チィッ」
『渦水旋環』は渦潮の発生により足場の不安定を与える魔術だ。渦潮の方向は自由に操作可能で、中心に集めることだけでなく周囲に散らすことも出来る。
そして、最大の特徴は魔術展開中は火属性の魔術の発動が困難になるのだ。
必ず不発にできる訳ではなく、発動に必要な魔力がかなり上がることになる。
「ただの火球レベルならまだしも、そんな魔力の塊なんか人の身で使えるものじゃなくなる」
「くっ」
一気に形勢逆転に見えるが、リンシアは先程の攻撃で酷い怪我を負っている。
このままで遅延されていると負けるのは明白だろう。
しかし、いきなり救いとも思える声が炸裂する。
「そこまで! 終わりだ終わり!! 魔術展開をやめろ」
この声はレイスターだ。
いつの間にか決着が着いていた、というかリンシアの渦潮に巻き込まれて6人が脱落したのだ。
その結果舞台上に残ったのはリンシアにガゼル含めて4人となった。
「チッ、勝負は次に預けるぜ」
「望むところ」
ガゼルは苦戦しながらもそれでもほとんど無傷なのに対して、リンシアは身体中傷だらけだ。
本戦までに間に合わないとかなりキツそうだ。
「おかえり、リンシア」
「ん、ただいま」
「あいつ、強かったな」
爆発の魔術の連続使用に火力収束、そのうえリンシアの魔術に囚われながらも展開自体はできていた。
「あれは間違いなく脅威そのものだろうね」
「あぁ、魔力量は化け物のそれだろう」
「負けるかと思った」
初見であれを回避しろなんて無理な話だ。
それこそレントみたいに分身を最初から仕込んでいるくらいしかないだろう。
とはいえ、レント達は全員最後の5人に含まれているので無事本戦出場が決まった。
時間も夕暮れということもあり、締めの挨拶が終わったら夕食がてら作戦を立てる予定である。
「あー、ゴホン。予選おつかれさん。明後日から始める本戦選手は後から街の掲示板に貼り付けておく。対戦組み合わせについては当日行うから、それまでにどんなやつが相手になるかよく確認しておけ。以上だ」
それだけで話を終えると続々と参加者達は会場を去っていく。
本戦に行けたのか嬉しがってる人、はたまた行けなくて残念そうな人等色んな人がいる。
そうしているとコウと目が合って少し話す機会ができた。
「よぉ、レント」
「コウ先輩じゃないですか、どこで参加してたんですか?」
「俺はBだったよ。残念ながら負けちまったけどな、お前のあの触手みたいなやつに……」
「あぁ……」
コウはBブロックだったのだが、開幕雷を纏った蹴撃で応戦してたらしい。
しかし、背後からいきなりうねうねとした謎の攻撃を食らって雷が暴発、吹っ飛んで舞台から落ちたみたいだ。
「それは……残念でしたね」
「お前んところ全員残ってんだろ? レントの枠欲しかったぜ」
「あ……はは……」
なんとも言えないレントはただ流すしか方法が見つからなかった。
「おっと、いけねぇこれから用事あんだった。レント頑張れよ! 見に行くからな」
「あ、はい」
そう言って去っていくコウはなんとも悔しそうな表情をしていたが、悟らせまいとその去る背中が語っていた。
──学校内の食堂にて作戦会議が行われていた。
「1番の壁はやっぱ今日の爆発男だろうね。ガゼル? だっけか」
「そうだね、見たところ1番の火力所はそこだと思うよ」
「巨人も危なそう」
巨人と言えばミラと共闘していたあの男だ。
そう言えばABCのどれにも巨人が1人ずついたので、おそらくその3人でチームなのだろう。
「僕と戦ったのは攻撃が強いと言っていたね。確かにあれは強かった、攻撃一辺倒とはいえあれは無双と言って差し支えないだろう」
「私の時は補助に徹していた。でも最初の爆発で舞台から落ちてた」
レントの時はやたら硬い巨人がいた事を覚えている。
いくら暴発を促してもビクともしないのだ。
もはやあれは岩だろうとさえ思っていたことを思い出す。
「そうか、あの男はやっぱり防御特化だったんだね。うーん、腕がなるなぁ」
ミラも防御に特化しているだけあって、少し対抗心が芽生えているようだ。
「私は本戦では少し本気出す。今度こそ油断しない 」
「あはは、あれは痛そうだった」
リンシアの傷はもう消えており、痛みもないそうだ。
あの後、大会運営の救護室に運ばれて回復を受けたのだろう。
「それと、僕らと同じようにみんなまだ力を温存してるはずだ」
「そうだね、最初から手の内全部見せるほど強い訳じゃないもんね」
「私は本戦で最初から飛ばす」
リンシアはこのチーム最大の火力要員だ。
これからの対戦相手の対策含めて最初から飛ばした方がいいだろう。
その方が防御に徹してくれそうだ。
「その隙に僕が妨害しよう」
「じゃあ、僕は攻撃全てを止めればいいね」
奇しくもいつもと同じ陣形では、とレントは思うがこれがこのチームの恩恵がいちばん大きいのだ。仕方ない。
「他にも妖精族だったり、小人族、それと学校の先輩もいるようだ」
「コウ先輩以外にもいたのか」
「いた。第3学年」
「それは見ておくべきだった……」とレントが少し後悔していると、思わぬ人から声をかけられた。
「レント 勝てた?」
「あぁ、ガルドじゃないか。うん、何とかね」
「おめでと これあげる」
そういって手渡されたのは鳥の羽をあしらったブレスレットだった。
なんだこれ、とレントはガルドに大して説明を求めるとライゴウが口を挟んできた。
「それは我らハーティア族が友の勝利の為に送る魔導具だ。受け取ってくれないか」
「風の魔術 少し耐えられる」
どうやら風魔術に対して耐性が着く魔導具のようだ。
「そういうことならありがたく貰っておくよ。ありがとう、ガルド」
「いい レント 期待してる」
「第1学年では主達のチームしか残れなかったのでな、我ら全員期待しているのだ」
「これは、責任重大だね。レント」
「あぁ、そうだね」
貰ったブレスレットを早速身につけ、せっかくなのでライゴウとガルドも一緒に夕食を食べた。
「とりあえず明日は大会に備えて休養としようか、リンシアも怪我してたし」
「そうだね、僕も用事あるからその方がいいかな」
「ん」
レントは明日すこし調べ物をしたいと思っていたのでちょうど良かった。
どうにもあの爆発男──ガゼルのことが気になるのだ。
「じゃあ、夕食も終わった事だし解散でいいかな」
「うん」
「じゃあ明後日また会おうか」
そうして5人はそれぞれの部屋に戻ることになった。
──────────────────
「ヒィーーーハハハァッ!! 楽しいねぇ! アァン??」
その夜、どこかの平原で不完全燃焼気味のある男が連続でぶっぱなしていた。
「ハァ……ハァ……俺様がやるぜやるぜやってやるぜぇ、なぁ?」
その不気味で狂った声は夜空に響き渡り、返ってくることの無い決意をあらわにしていた。
「リダンの息子、レントくんよぉ……」
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