アイドルになった幼なじみが俺のことを好きすぎて大炎上! ひたすら迫られまくるエキセントリックな生活が始まったのだった。

秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家

第一章「押しかけ幼なじみアイドル」

第1話「生放送中に愛を叫んだ幼なじみ美少女アイドル」


 それは突然だった。


「わたし、今日でアイドルやめます! 普通の女の子になりたいんです! そして、幼い頃に大好きだったしゅーくんと結婚します!」


 テレビに映っているのは、かつての幼なじみであり現在は国民的アイドルの玉瀞菜々美たまとろななみ


 整った目鼻立ちに黒髪ロングヘア―は清楚感溢れすぎていて神々しさすら感じる。  なお、服装はピンクと白を基調にしたヒラヒラドレスのアイドル衣装。

 そんな異次元レベルでかわいい元幼なじみ現アイドルが――、


「しゅーくん! ずっと好きだったよーーー! 今でも愛してるーーーっ! わたしアイドル今日でやめるから! 結婚しようーーーーー!」


 メチャクチャ俺への愛を叫んでいるっ!


 突然始まったトップアイドルの公開告白にスタジオは騒然。

 観覧席からは驚愕の叫びと悲鳴。


「ちなみにしゅーくんの本名は越草修人こしくさしゅうとです! もうわたし今日で絶対にアイドルやめるんだからぁ! 絶対にしゅーくんと結婚するぅううううううううーーー!」


 菜々美、俺の本名を口にしながら絶叫。

 テレビ画面、暗転。


『しばらくお待ちください』


 番組とは無関係な花畑の映像とともにテロップが出た。


 しかし、音声は切り替え忘れたのか菜々美の「しゅーくんだいしゅきいぃー!」という菜々美の絶叫と、スタッフの「おい早くとめろ! 早く!」とか「なに考えてんですか玉瀞さん!?」という怒号が響いていた……。


「……なに考えてんだよ菜々美……」


 スタッフと同じようなことを呟いてしまう。

 向こうのスタッフたちは怒り心頭だったが、こっちは呆然自失である。


 もう昔とは、なにもかもが違う。

 あの頃、確かに俺と菜々美は仲のいい幼なじみだった。


 しかし、今の俺はただの陰キャ男子高校生。

 菜々美は燦然と輝くトップアイドル。


 まるで住む世界が違う。容姿も違いすぎる。

 あの頃とは、なにもかもが違ってしまったのだ。


 ……というか、俺の本名をテレビで思いっきり叫ぶな……。


「しゅーくん! わたし本気だからね! 絶対に結婚しよ――」


 ブツッという音とともに、菜々美の絶叫も途切れた。

 どうやら音声も切断されたらしい。


「……マジでどうなるんだこれは……」


 美少女トップアイドルから名指しで結婚しようと叫ばれてしまった。

 俺の今後の人生はどうなるのか……。というか、菜々美もどうなるのか。

 完全に予測不可能である。


 ――ブィイイン!


 スマホが振動した。


『どうなってんのよ修人っ!?』


 メッセージを送ってきたのはクラスメイトの戸川二三香とがわふみか


 陰キャの俺だが、二三香とは小学生の頃から中学、高校に至る現在までずっとクラスが一緒という腐れ縁なので連絡先を交換している。


 下の名前で呼びあってはいるが、友人以上の関係ではない。

 二三香は菜々美が芸能界デビューした中学一年の頃からのファンなのだ。

 この歌番組を見ていないはずがなかった。


『俺のほうがどうなってるのか知りたい』


 今思っていることを率直にそのまま返信した。


『なんで菜々美ちゃんと幼なじみだったこと隠してたの!?』


『隠していたわけじゃない。あえて言うことでもなかったからだ』


 そもそも人に触れ回ることでもない。


 幼なじみだといったって、幼稚園時代や小学生低学年の頃に仲がよかったなんてノーカウント扱いだろう、普通は。


 ちなみに菜々美は小学二年生の頃に東京へ転校。埼玉に住む俺とは接点がなくなってしまった。結婚の約束をしたことは覚えているが、当然、幼稚園時代の約束なんて無効に決まっているだろう。


 菜々美が中学生になってアイドルデビューしたときは、本当に驚いた。

 昔のこともあって、俺は密かに菜々美のことを応援し続けてはいたが……。


「まさか、菜々美が今でも俺のことを好きでいてくれただなんて……」


 ありえない。ありえるはずがない。

 でも、さっき菜々美は生放送中の歌番組で俺への愛を絶叫してしまった。


 未だにテレビ画面は『しばらくお待ちください』のまま。


 試しにツイッターを見てみると、菜々美の今回のことで一色だった。

 当然、トレンド入りである。


 ちょっとツイートを見てみたら、ファンたちの悲鳴と怒号によって阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。


 どうなるんだ、これ、本当に……。

 俺は、ただ呆然とタイムラインを眺めるばかりだった。

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