マジカルゲーム 〜ストーカー後輩が魔法少女だった件〜

ザラニン

第一章 ストーカーする魔法少女

第1話 ストーカー後輩

「えーと、まずは呼び出してごめん。こんな寒い屋上に、それにこんな早い時間。面倒だったろうし、何よりこんな男に呼び出されて嫌だったと思う」


 朝7時。学校の屋上。風が吹く朝だった。

 そこで俺は目の前にいる少女に謝った。

 対して少女は両手と首を横に振る。


「いえいえいえとんでもないです。私こそ先輩にこんな所で待たせてしまって、申し訳ないです」


「君が謝ることないよ。えーと、確か名前は神崎かんざき 式乃しきのだっけ?」


 名前を確認すると、少女は「はい、そうです」と答える。


 神崎 式乃

 彼女はこの“時坂中学高等学校“で中学2年の女子中学生だ。

 肩まで伸ばした銀の髪をたなびかせる彼女は、まるで人形のような可愛らしい見た目をしており、10人中10人が認めるほどの美少女だ。


 そんな美少女を、どこの馬の骨かも分からない男である俺が、朝早くに屋上に呼び出している。


「俺は高校2年の佐々木ささき ひろ。早速だけど、君をこんな所まで呼び出した内容に入りたいんだけど。その……なんとなくだけど分かるよね?」


 俺がそう言い出すと、式乃は肩をビクつかせた。どうやら心当たりがあるようだ。まあ、そうでなくては困るのだが。

 俺は一度一呼吸置き、そして口を開いた。



 言った瞬間、式乃は再び肩を震わせた。もうここまで来たら疑惑は確信へとほとんど変わってしまっていた。

 そしてしばらくの沈黙。その間、俺はどんな表情をしていたのか分からなかった。しかし目の前の彼女は真っ直ぐだった瞳を震わせ、色々な所に視線を逸らしまくっていた。

 だが、俺は無理矢理その沈黙を断ち切り、続ける。


「見間違いだったらごめん、全力で否定してほしい。関係ない人に濡れ衣着せるようなことになってたら俺だって嫌だし」


 誰かに帰り道を付けられていると感じていたのは、数日前からだった。

 中学から帰宅部だった俺は、学校が終わるのと同時に即帰宅していた。

 友人と呼べる存在はいるにはいるのだが、そいつは運動部所属で基本毎日が部活なので一緒に帰宅することはまずない。プラス、他に帰宅してくれるような人はいないので、帰る時はいつも1人だ。

 慣れていることなので孤独感などは感じず、特に何も考えずに帰っていたのだが、そんなある日、明らかに自分の後ろをずっと付いてくる気配を感じるようになった。

 最初は気のせいだと思っていたが、俺の家まで感じれるし、何より家に入っても不思議と誰かに見られているような気がしてならない。

 これは……まさかストーカーか? と考えるようになり、そして昨日、とうとうその正体を見ることができた。

 その正体が、彼女である。



「でも、見ちゃったんだよね」


「見たって……何を、ですか?」


 若干だが震えた声で聞いてくる式乃。

 俺は言う。


「……俺の家付近の道路でガードレールのネジにスカート引っ掛けて赤面してる君を。そして、俺と目が合った瞬間にそそくさと逃げだしてうっかり転びかける姿を。俺は、見てしまったんだ……」


「……」


「はっきり言って……ダサかった」


「はぅぅ」


 そして可愛かった、と口から漏れそうになったが、ギリギリのところで呑み込んだ。

 ふざけるのはここまでにしよう。そう思い、俺は話を戻した。


「……真面目な話、そして再度確認だけど、俺のストーカーしてたの君だよね? 別に先生に言ったり警察に突き出したりするつもりじゃないからさ、正直に答えて欲しいんだ」


 彼女は瞳を震わせたままだ。俺の性癖はSに向いているわけではないが、正直に言うと……可愛かった。

 少しの沈黙。しかしやがて彼女によりそれは断ち切られる。


「は、はい……後をつけていたのは、私です」


「やっぱり」


「でも、そういうつもりじゃないんです! 先輩をそういう……変なこととか、やましいことを狙ってたりとか、そんな理由でやっていたんじゃないんです!」


 彼女は必死に誤解だと言う。

 だが当然俺は分かっている。そんなものはストーカーの言い訳であるということを。

 故に俺は彼女に告げる。


「うん……でもこう言っちゃ悪いけど、いや悪くないか。付けられている側からすればさ、ストーカーが何言おうとこっちとしてはどっちも同じなわけよ。だって行動としては同じことしてるんだから当然でしょ? だから、まあそういうこと」


 彼女に遠慮しているのか、ただ可愛いからなのか、それとも俺が弱いからなのか、よく分からなかったが強く言うことはできなかった。昔からあまり怒らない性格だったので、それは仕方がないことなのかもしれない。


「そ、それはそう、ですけど……でも、やっぱり先輩の言う通りです。言い訳ですよね、私の言ってることは。理由はともあれ、先輩に不快な思いをさせてしまったことに変わりはないんですから」


 彼女はそう涙まじりの震える声を漏らし、首が折れてしまうほどの勢いで思い切り頭を下げてきた。

 そして言葉を絞り出す。


「……迷惑をかけて、申し訳ございませんでした」


 その一連の流れるような行動に、俺は慌ててしまう。


「いや、ちょっと待って待って! そんなに深刻な感じにされても」


「でも先輩は私のことが迷惑だったんですよね? なら、この行動を取るのも当然です!」


 彼女は深く頭を下げたまま上げることをしない。寧ろさらに深く、直角90度を超えるほどにまで深くなっていく。


「待ってって! そこまで求めてないって! 確認と注意をしたかっただけだから! それに、迷惑って言ってたけど、ただ気になっただけだから! 違和感感じただけだから! ほんっととりあえず頭上げて! 上げってってば!」


 かなり焦った俺は、彼女の肩を掴んで無理矢理体勢を戻させた。

 そして震える眼を俺の目の前に持ってくる。正直その顔が色々とヤバかった。何がとは言わない。


「いい? もう一回言うけど、ただ俺は気になっただけだから。迷惑っていっても、俺の家のポストに変な物入れたり、迷惑電話したりしたわけじゃないでしょ? それなら俺も罪を突きつける気はないから、安心して欲しい」


「そう、なんですか?」


「言ったでしょ? まあ外からの視線は気になったけど、あれは今考えてみると気のせいな気がするし、まあ、ね」


 彼女に言うと、俺は肩から手を離し、顔を離す。

 ひゃーヤバかった。あんな至近距離で異性と話すのしんど過ぎんだろ。


「でも、最後にこれだけは言わせて。今回は、まあ自分で言うのもあれだけど、色々と甘い俺だからよかったけど、他の人だったら普通に問題にされてたから、マジで。もうこんなことはやめてよ? 相手の為にも、そして自分の為にも。人生なんてそれ1回で簡単に狂うんだから。まあ、たった十数年しか生きていないような輩が言うことじゃないんだけどね」


「……」


「……分かった?」


「……はい、すみませんでした」


 式乃は若干先程の感じを引きずっていたが、本当に申し訳なさそうに謝罪した。しかしさっきよりかは少しマシだった。

 少し説教じみたことを言ってしまい、またしんみりとした雰囲気に陥ってしまったので、俺は早々に話を切り上げて楽にすることにした。


「うん、じゃあこの話はもうおしまい。君もしっかり反省してるようだし、もう終わり終わり!」


 俺のその言葉に、彼女は目を丸くする。


「ほ、本当に許すんですか、私を」


「許すも何も別に俺怒ってないし。ただ確認と注意だけだよ。まあ思春期だし、そういうことしちゃうこともあるよ、多分」


「ですけど、それじゃあ私が申し訳なくて、せめて何か私にさせてください」


「させてほしいって、いいよいいよそんなこと」


 俺は手を振って遠慮しながら、屋上の出入り口へと足を進める。


「お願いします! なんでもしますから!」


 その言葉を聞いた俺は、けしからんと内心思いながら足を止めて振り返る。


「その言葉、簡単に口にするものじゃないよ。なんでもするって言葉聞くと本気になる男が世にいるんだから」


「でも、せめて何か私に」


 ダメだこの子、ストーカーしてた割にはいい子すぎて、逆にちょっと面倒だなぁ。

 こういった場合どう逃れればいいのかを知らない俺だったが、ふといいことを思いついてしまった。


「……分かったよ。じゃあ、今度なんか奢ってよ、飯でも飲み物でもなんでもいいからさ。それでチャラ、いいね? いいよね? じゃあ俺戻るわ」


 そう言い残し、そして彼女の返答を聞くことなく、俺は逃げるようにその場を立ち去っていった。

 最後に彼女が何か言っていたような気がしたが、聞こえることはなかった。




 ↓




「で? あんな可愛い子を俺の妹に呼ばせて、お前何したん?」


 ホームルーム直前。

 朝練を終えた俺の友人 玉野たまの 雪次ゆきじは、股の間に椅子の背もたれを挟みその上に両腕を敷いて、後ろの椅子に座っている俺に聞いてきた。


「特に何も? 世間話ってところかな?」


「世間話でわざわざ妹に労力使わせたのかよ」


「いいでしょ別に。スマホに指ポチで会話できるいい世の中になったんだからさ」


 式乃を屋上に呼ぶことができたのは、雪次の妹のお陰だ。その妹を介して式乃を屋上に呼んでもらった。雪次とは付き合いが長く、彼の妹とも交流することが多かったので、快く受けてもらえた、筈。


「にしても、珍しいこともあるもんだなぁ。お前が女子を呼び出すなんて。なんだ? 隕石でも降ってくんのか?」


「降ってたまるか。俺だって女子と話すし」


「あんま見たこととか無いんだけどな」


「……とにかく、こっちにも色々とあるんだよ。悪いけど詳しいことは言えない」


「ちぇっ、なんだよ水臭い。これでも中学からお前の友達やってやってるんだぞぉ?」


「やってやってるってなんだよ、やってやってるって」


 少々イラつき、ボソッと口から言葉を漏らす。

 言えるわけないだろう? 中2の子がストーカーやってたなんて。少なくとも俺は絶対言わない。

 時計を見てみる。針はホームルームの時間を刺していた。そして見たのと同時にチャイムが鳴った。


「というか、前向いてよ前。先生来るぞ」


「ふぁ〜い向きますよっと。あー眠てー」


 大あくびをしながら、玉野は前に向き直る。それを見て先程まで朝練していたのだから無理もないと思いたかったが、よく考えたらこいつ徹夜でゲームしてるから自業自得だとしか思わざるを得なかった。


 少しすると、担任の先生が教室に入ってきた。

 そして起立して朝の挨拶、諸連絡へと移っていった。

 内容はどれも聞いたことあるようなものばかりで、はっきり言って聞くのが面倒に思ってしまっていたが、その中で唯一、俺の耳を傾かせるものがあった。


「ええー最後に1つだけ。みんなも知ってるように、今朝、10

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