チートを貰って転生したけど、眼鏡だけがない。 〜視力0.01でどう生き延びろと?〜

赤金武蔵

初めての異世界

第1話 いざ、異世界

 俺こと狭間鏡一はざまきょういちは、異世界に転生した……らしい。

 何故らしいなのか。順を追って説明する。


 学校に登校中、暴走した野良猫が俺の眼鏡を叩き落とす。

 →眼鏡吹っ飛ぶ。

 →取りに行く。トラックに轢かれる。

 →実は神様が野良猫と戯れてたら怒らせたせい。詫びが入る。

 →現実世界には帰れないから、詫びを込めてチートスキルをあげるから異世界に転生する。←なう


 それはいい。いやよくはないが、すぎたことはしょうがない。

 ただ、大問題がある。


 ……眼鏡がねぇ。


 やばい。やばいぞ。

 俺の視力は0.01。

 眼鏡がないと、マジで何も見えない。


 今見えてるのは、(多分)森の緑色と、(多分)空の青色。そして(多分)地面の茶色。


 視界がぼやけすぎてる。なんだこれ。

 あのクソ神め。転生させるなら視力を回復させるとか、せめて眼鏡を付属してくれよ。眼鏡が日用品の人間から眼鏡を奪ったら、何も残らないぞ。


 ……あっ、そうだ。確か神が、ステータスがどうのこうのって言ってたな。

 えーっと……。



「ステータス」



 お、開いた。

 …………なんも見えん。

 は? ちょ、ステータスボードもなーんも見えないんだけど。え、なんて書いてあるん?


 顔を近付けて頑張って見ようとしても……離れていく。

 どうやら一定距離を保って開かれてるらしい。

 なるほど、HAHAHA☆


 …………。



「ざっっっっっけんなゴルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



 なーにが転生だ!

 なーにがチートだ!

 なーにが異世界だボケェ!!

 こんなんじゃただの視力が悪い一般ピーポーだよ! 異世界でチート無双もクソもなにもねぇよ!


 あーあー! 帰りたーい! 帰って暗い中二十四時間ゲーム三昧したーい!!


 ……こんな生活してたから、目が悪くなったんだろうなぁ……。



「はぁ……ん?」



 茂みから何かが飛び出してきた。

 なんだろう、あの黒いものは。

 形状は……犬? 多分、犬。ちょっと大きいけど。

 野良犬かな。異世界でもあんなのいるんだなぁ。



「よーしよーし。チチチチチッ」



 しゃがんで犬の目線になると、指をちろちろ動かす。

 おおっ、近寄ってきた。

 ふっ。異世界だろうと、犬は犬か。


 近付いてきた犬は、くんくんと俺の指先を嗅ぐ。

 ははは、可愛いヤツめ。よし今日からお前は俺の友達──



「あ゙〜……」

「……ぁ?」



 口。え、デカ。牙、鋭い。は? なん──



「ガブッ!」

「ほべっ!?」



 え、くわっ、食われた!? 食われたの俺!?

 おえっ、生臭ぇ! ネチョネチョしてるしっ、舌の感触が気持ち悪い!!



「ガブガブガブッ」



 おああああああああ!?!? は、歯ァ! 噛まれてっ、噛まれてるぅ!

 死ぬっ、食われて死ぬ! 転生した矢先に死ぬ!

 あぁ、ちきしょう! これも全部あのクソ神のせいだ!

 クソ神めっ、もう一度転生させろや! 今度は視力を回復させて!


 あ〜。短い異世界人生……次はもっと長生きしたい……。


 ……にしても、まだ死なないな。しぶとすぎないか、俺。

 それに痛くないような……あれ? 甘噛みされてる?



「ぺっ」

「おぶっ!」



 は、吐き出された? なんで?

 頭部だけでっかくなっていた犬は、唾液まみれになった俺の周りをうろうろと動き回り……うげっ、しょんべんしてきやがった!



「ケッ」



 最後に唾を吐きかけ……行っちまった。

 なんだったんだ、あれは……?

 ……まさか、今のって……魔物ってヤツか? 異世界では定番の?


 ま、まあ、助かったならよかった。まだ生きてるってことだもんな。

 ……なんで生きてるんだろう、俺。

 まさかこれが、チート能力ってヤツなのか……?


 クソ神からはなんの説明もされず、ステータスボードで確認できると言われてたけど(見れないが)。



「……この後、どうしよう」



 一応、地面っぽい茶色は見えるから、道はわかる。

 ……とりあえず、前に進もう。進めばどこかしらにぶつかるかも。

 もしかしたら、街があるかもしれない。






 砂漠でした。






「どうしろって言うんだよォ!!!!」



 見渡す限りの乳白色!

 足元に感じる砂の感触!

 照りつける日差し!


 はい詰んだー。終わったー。

 ここまで来るのに、体感的に四時間は歩いてる。

 その上、石につまずくこと十回。転けること六回。

 チート能力のおかげなのか、痛くないのが救いだ。


 けど……これは無理だろ。

 こーんなに何もない場所を歩くなんて、正気じゃない。

 眼鏡を掛けてても無理。眼鏡がない今、自殺行為と同じだ。

 どうしてこうなった……。


 森と砂漠の境界にある岩に腰をかける。

 疲れたよー。生臭いよー。いくらなんでも、体力が貧弱だよー。

 今のところ、ダメージを負わないチート以外の情報がない。

 ここから先、どうやって生きていけと。


 空を見上げて、ぼーっとする。

 あぁ……鳥が飛んでる。いいなぁ、鳥は自由で。

 俺も、ある意味で自由だけど。学校行かなくていいし。

 ……親父とお袋、悲しんでるのかな……親不孝な俺を、どうか許してほしい。ごめんなさい。


 ぼーーーーーーーーーー……。

 ……あの鳥、なんかでかくね?

 てか、近づいてきてね?

 心做しか、羽音も大きくなってるような。


 いや……そもそもあれ、鳥か?

 急接近してくる鳥(暫定)。

 それにしてはでかい。ぼやけてるけど、翼を広げただけで5メートルは……。



「ぐおっ!?」



 ふ、風圧やべぇ……!

 な、なんだ!? こいつも魔物ってやつか!?



「グルルルルッ……!」



 腹に響くような唸り声が、頭上から聞こえる。

 やべぇ、見上げたくない。怖い。

 でも好奇心には勝てず、壊れたロボットみたいに顔を上げる。


 …………やっべ、わからん。何このでっかい塊。

 改めて、俺視力悪すぎだろ。



「グルルッ」



 もしかして俺、今威嚇されてる?

 こんなでっかい生物、見たことない。

 これは間違いなく死んだか?

 いくらチート能力で無敵状態とはいえ、こんな馬鹿でかい生物と戦うなんて無理だ。

 このはゲームの異世界じゃない。現実の異世界なんだ。

 誰か、たしゅけて──






「貴様、大丈夫か?」

「……え?」






 声? 女性の?

 でっかい生物の方から、女性の声が。

 まさか、この生物が声を?

 さすがファンタジー世界。人語を喋る生物がいるなんて。



「どこを見ている。こっちだ」

「こっち?」



 どっち?

 見ると、でっかい生物が目の前に降り、頭を地面すれすれまで下げる。

 そして……背中から、何かが飛び降りてきた。

 多分、人。声からして女の人だと思う。

 しかし全身が鎧で覆われているみたいで、シルエットがいまいちわからない。



「貴様、ここで何をしている」

「何をって……何してるんでしょうね、俺」



 突然死んで。

 異世界に放り出されて。

 犬っぽい魔物に食われかけ。

 四時間も一人で歩け歩け大会。

 本当……何してるんだろう。



「ふむ、旅人か。それにしても軽装だが……身ぐるみでも剥がされたか」

「まあ、そういうことで」

「不憫だな……しかし貴様も運がいい。この私が来たからにはもう安心だ」



 女性は自信満々に胸を伸びやかす。

 フルマスクの兜だから、表情は見えないけど。まあ目が悪いから、兜を付けてなくてもわかんないけどさ。



「私はリアンナ・レベッカ。リヴァーブ王国竜騎隊隊長だ。この子は私の相棒のリオ」

「グルッ」



 リヴァーブ王国……聞いたことがない。当たり前だけど。

 それにしても、竜騎隊……てことは、このでっかいのはドラゴンってヤツか!?

 お、おぉ……ドラゴンなんて初めて見た。見えてないけど。



「お、俺は狭間鏡一。よろしく」

「ハザマだな、よろしく。……それにしても、私たちを前にして驚かないとは、見上げた根性だ。そこらの奴らは、私たちの名前を聞けば竦み上がるというのに」



 だって知らないもの。

 なんて言えず、とりあえず愛想笑いを浮かべておいた。



「近くの街まで乗せていこう。ハザマ、ドラゴンには乗ったことは?」

「な、ない。初めて」

「だろうな。ほら、こっちだ」



 リアンナがリオに飛び乗る。

 その後に続いて、俺もリオに近付いた。

 ……どうやって乗るん?



「ハザマ、どうした?」

「いや、その……どうやって乗るのかわからなくて」

「仕方ないな。ほら」



 手を差し伸べられる。

 それを掴むと、女性とは思えないほどの力で引っ張りあげられた。



「あ、ありがとう」

「気にするな。……なあ、ハザマ。さっきから目付きが異様に悪いが、何をそんなに睨んでるんだ?」

「え? ああ……いや、目が悪くてさ。ぶっちゃけ、これだけ近くてもぼやけて見える」

「そ、それは相当だな。しかし、目が悪い人間なんて初めて見たぞ」



 俺もそう思います。

 ……ん? 初めて見た? それって……。

 どういうことなのか聞こうとすると、リアンナはリオに付けられている手網を握ると、軽く脚で胴体を蹴る。

 それを合図に、リオは飛び上がった。

 体に重力と風を感じる。

 思わず、リアンナの腰周りに抱き着いてしまった。



「あっ。ご、ごめん……!」

「気にするな。しっかり掴まってくれ」



 いや、いくら鎧の上からとはいえ、女性に抱き着くのは……。

 でもそうも言っていられない。徐々に体に掛かる圧が強まる。

 俺は慌てて、リアンナに抱き着いた。


 それにしても、ここでリアンナと出会えてよかった。

 もし出会えてなかったら、どうなってたか……。

 街に行ったら、とりあえず今後の方針を決められる。

 そしてなんと言っても、眼鏡だ。

 眼鏡がないのは死活問題。なんとしてでも手に入れなければ。



「リアンナ、街についたら眼鏡が欲しいんだけど」

「え? 何が欲しいって?」

「眼鏡だよ、眼鏡」








「めがねって、なんだ?」







 …………は?

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