次期女王になる美姫はダメンズと言われる公爵令息を寵愛中

しろねこ。

プロローグ・可愛い婚約者

 レナードは深くため息をついた。


 パーティ会場にて、自分の腕に手を置いて優雅に微笑んでいる婚約者を、ちらりと見る。


 レナードの婚約者は次期女王だ。果たして自分は彼女を支えていけるだろうかと、心配になっていた。


「レナード、どうしたの?」


 彼女はため息をついたレナードに気づき、上目遣いで彼を見つめる。


 金髪翠眼、白い肌に桃色の唇、程よいスタイルと整った顔立ち。美姫として有名な彼女のその瞳が、切なげに自分を見上げる様子に、レナードはより落ち着かなくなった。


(可愛い……)


 レナードと婚約前は無表情な事が多く氷の美姫と言われていたが、今は感情を表す事が多くなり表情も豊かになって、ファンも増えている。


 お陰で彼女の本来の可愛らしさを知った者達が、レナードを婚約者の座から下ろそうと画策するようになってしまった。


 元より彼女と婚姻出来れば王族と縁続きになるのだから、狙う者は多かったのだが。


「いえ、少し疲れただけです。頭を冷やすために夜風に当たってきますね」


 エレオノーラ様はパーティを楽しんでいて下さいと伝えようとしたのだが、腕を絡ませられてしまい、途中で言葉が止まる。


「わたくしも疲れました。ですので一緒にテラスへと行きましょう」


 ふわりと目元が笑みの形となる。


 とても優しい表情にレナードは、顔が赤くなるのを自覚しながらも抑えられない。


(可愛い)


 何度目かの言葉かわからなかった。


 そのままぼんやりとした頭で、エレオノーラに促されるままテラスへと出る。


 二人の後ろを、エレオノーラの従者ニコルが、影のように付いてきた。


 二人きりにはさせないようにと厳命されている為だ。


 テラスにはそこそこ人がいるので、レナードとエレオノーラは邪魔にならないよう隅の方に寄る。


 風が気持ちいい。


 深呼吸をするレナードの胸元に、エレオノーラはそっと顔を寄せた。


「エ、エレオノーラ様?!」


 驚いて声を上げるレナードの口を、エレオノーラはそっと人差し指で塞ぐ。


「しぃ。皆の邪魔をしてしまうから、お静かになさって? それに、今なら近くに人がいないのですから、エリーと呼んで欲しいわ」


 蠱惑的な笑みにクラクラする。


「エリー……」

 言われた通り小声にて愛称を呼ぶ。


 それだけで気恥ずかしさを感じ、今にも倒れてしまいそうだ。


「ここは少し薄暗いから……愛し合う人達しかいないの」


 皆を見ると確かに親密に寄り添うものが多い。


 エレオノーラがレナードの手に指を絡める。


「ぼ、僕はそんなつもりであなたをここに連れてきたわけじゃなくて」


 言ってて気づいたが、このテラスに誘導したのはエレオノーラだ。


 つまり彼女がわざわざレナードとくっつきたいが為に連れてきた、ということになる。


「嫌かしら?」


 不安そうに見上げてくる瞳に思わず釘付けになる。


「嫌なわけではないのです、ただ恥ずかしいだけで」


 言っててまた顔が赤くなるが、エレオノーラの憂いを晴らそうと、恐る恐る抱きしめる。


 ほぼほぼ力も入れず、添えるだけだが、その手は大きくて温かい。エレオノーラは心地良さを覚えていた。


「嬉しいわ」


 レナードの体温が感じられ、エレオノーラは微笑む。


 彼といると本当に温かな気持ちになれる。


 淑女の礼節など忘れ、積極的に動いてしまうのも、彼が相手だからだ。


「愛してますわ」


 そう呟けば彼は耳まで真っ赤になり、目はぐるぐる、口は言葉を紡げずパクパクと動くのみ。


 こういう反応も可愛らしい。


「……エレオノーラ様、その辺りでおやめ下さいませ」


 ニコルがそっと咎めた。


 薄茶色の髪をした従者は、眼鏡の奥の黒い瞳に呆れたような光をたたえて主であるエレオノーラに注意を促す。


「レナード様が倒れそうですよ」


「あら」


 レナードの足がガクガクとしており、最早フラフラだ。


「あまりおからかいになられますと、嫌われますよ」


 ニコルの一言にさっとエレオノーラは顔を青くした。


「すみません、レナード。わたくしはただあなたが可愛くて」


(男に可愛いなんていうものではないよな)

 でもそんなことを言われてまた嬉しくなり、更に体が覚束なくなった。


 美人で可愛くて、自分には不釣り合いな完璧なお姫様。


 そんな人がレナードの婚約者なんて。


 どうしてこんなことになったのか。




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