第4話


「……ん。検査魔法の結果は……。

 問題なし!と。

 やれやれ、ようやく一安心だな」


元の世界に帰ってから一週間。

長いこと、軟禁されていた自分の部屋から飛び出し、検査結果の資料を読む。

検査の誤差も考えて今回はいったん封印したが、その結果なら、軟禁中は休眠魔法を使っても問題なかったかもしれないな。

もし、向こうの世界で蔓延していたゾンビウィルスや、インフルエンザやらがこちらの世界にも適応でき、超進化したら…なんて思ったが、どうやら自分の心配は杞憂で終わったようだ。

よかったよかった。


「あ!師父様!

 勝手に部屋から出てきても〜!

 検査が分かったら、私が呼びに行くって言ったじゃないですか!」


さて、検査結果報告書を見ていると、横から自分よりやや大柄の女性が一人。


「まったく固いこと言うな。

 どうせ、部屋の入り口が封鎖されてないってことは、大したことじゃなかったんでしょ?

 なら、これぐらい問題ない」


「問題あってからでは遅いんですよ!

 それに、異世界ではどんな病気があるかわからないんですから!

 今回はただでさえ、危険なことをしたんですから、検査期間中くらいはおとなしくしていてください!」


自分がひらひらと手を振りならも、言い訳をするもどうやら彼女的にはよろしくなかったのかその文句はまだまだ続く。

なんなら、こちらを持ち上げて、部屋に戻そうとなんかもしてくる。

まったく、一応は私の弟子なのに、いろいろと小癪で面倒くさいやつだ。


「まったくもう。

 こちとらもう、十数日も部屋に監禁されて、退屈過ぎて死にそうだったのだぞ?

 それにあれだ、お前もそんなにずっと怒鳴っていると、ストレスがたまりすぎて、太るぞ。

 多分。」


「怒りと体重は、何の関係ありません!!

 というか、私は不死人です!

 見た目や体重なんて飾りなんですよ!飾り!!」


「え?でも、どう見ても以前よりふくよかに……」


「あー!あー!聞こえません!!

 全然聞こえません!!」


不詳の弟子よ。

流石に言われたことが図星だからといって、魔法を使ってまで私を移動させようとするのはどうかと思うぞ?

でも、流石に魔力運用の差が違うから、こちらを一ミリも動かせないさまは見てて、ほっこりする。


「まったく、主従合わせて、何をやっているの?」


「え~っと、ダイエットの付き添い?」


「……~~~!!!」


なお、自分の愉快な弟子はこちらを持ち上げてでも動かそうとしてきた。

もちろん、それは無駄なうえ、こちらはいまだこちらを一ミリも動かせていない。

でも、代わりに魔力が蒸気のように噴出しているから、ダイエット効果と特訓どちらにもなっているのではなかろうか?


「はいはい、あまりかわいいからって、弟子にかまいすぎるのはその辺にしなさい。

 それより、細かい報告もしたから、さっさと会議室に来てよね」


「へいへいっと。

 それじゃ、移動は任せたぞ、わが弟子よ」


「……はい!

 わかりました!まかせてください!」


かくして私は、弟子に持ち上げられながら、久々に自分の屋敷を存分に移動するのであった。



◆◇◆



「……で、結局、おおむね問題なしと」


「師父様の香り~♪」


かくして現在は屋敷の会議室。

我が領地の参謀担当から、今回の遠征帰りの検査結果の詳細を改めて尋ねた。

なお、なぜか、弟子の膝の上で。

なんでじゃ。


「そうね。

 今回の遠征はかな~り遠い世界だったからね。

 カビや胞子レベルの生き物も当然消失。

 むしろ、こうして、あなたが五体満足で戻ってきている時点でいろいろとおかしいのよ」


「はっはっは。

 そりゃ、元の世界に似ているような似てないような世界だし?

 適合度が違うんだよ適合度が」


「……実は、神経や魔脈の1本や2本、失ったりしてない?

 ちょっと、もう一度直に魔力検査させなさいよ」


「あ、師父様!

 あんまり動かないでくださいよ~」


彼女はそういうと自分の手を取り、目や指に魔力を込めて、確認している。

が、結論としては無問題。当然花丸健康体である。

どさくさにまぎれて、弟子がさらに頭部に触れてくる。

だからって、こっちの頭皮の匂いまで嗅ぐな。

ここ数日は、感染を気にして水浴びしかできていなかったんだから。

石鹸使えてないんだぞ、こっちは。


「……う~む。相変わらずのびっくりするほどの魔力と概念許容量よね。

 このサイズでラストダイブしたのに、往復で無傷。

 相変わらずの、人種とは思えない魂特性ね」


「まぁ、こちとら神様公認の異世界転生者だし?

 もっとも、元一般人だから期待されても困るけど」


「こんな一般人がいる異世界があってたまるか!!」


弟子にこちらの髪をいじれながら、参謀に頬を引っ張られる。

しかし、いくら魔力や魂の質がレアだとしても、前世には魔法なんて存在しなかったし、ましてやテレポートなんて妄想の産物だ。

だからこそ、召喚適性が高くても、前世では持ち腐れ、ないも同然。

自分が一般人でも仕方ない、とは何度も言ってるんだけどなぁ。

何度言っても信じてくれないんだよなぁ。


「それで、こっちが持ち帰ったものについてはどうだ?」


「ん?あの無数の植物と鉱物でできた本の事ね。

 それに関しては、シーラの保護魔法がきちんと機能しているから、問題ないわね。

 ま、本自体を持ってきたのは、素直にいいセンスだといってあげるわ。

 いつも通り、隔離書庫においておいたわ。

 あ、今度暇なときに私にも読ませなさいよ」


「はい!終わりましたよ師父様!

 枝毛の1本もありません、相変わらずパーフェクトでキューティクルな髪の毛です」


こちらの髪を勝手にとかしていたアホ弟子はさておき、今回の遠征結果にとりあえず、胸を撫で下ろす。

今回の遠征において、実は私は、ある種覚悟してあの元地球っぽい場所に訪れていたりしたのだ。

なぜなら、異世界への移動は基本危険な行為だからだ。

体が合わない、空気がない、そもそも空間適性が合わない。

これらならまだいい。何故なら、その場合私はその世界に訪れた時点で、私が死んだり、消えたりするだけすむからだ

最低でも被害は私だけだ。


しかし、異世界への行き帰りとなると、話しは変わる。

なぜなら、それはこちらから向こうに行くだけではなく、向こうなものをこちらに余計なものを持ち込んでしまう可能性があるからだ!

特に、今回は私は死んでも後悔のないようにと漫画を含む無数のアイテムを向こうの世界から持ち帰ってきたわけだが、実はこれは相当危険な行為であった。

もちろんそれらの物資を、わたさは封印魔法をかけた上で持ち帰ったが、それだってあくまで私が使える程度の簡単な封印魔法に過ぎない。

異世界ではおとなしかった生き物が突然暴れだした、そもそも物質として不安定で大爆発した。

世界が半端に似ていたせいで、付着していた菌や呪いの大流行まで!

まぁ、こういうものは案外時間差で被害が発生するかもしれないものなので、完全に安全だとは言い難いが、それでも、まずは一安心だといったところだろう。


「というかな?今度から二度とこんな無茶をしないでよ?

 仮にもシーラは私の上司なのよ?

 それなのに、あなたの自殺モドキに付き合わされる身にもなりなさいな」


「そうですよ〜!師父様がもし帰って来なかったら……もう二度とこんな風に、師父様の髪型をいじる事もできなかったんですよ??

 そんなの、悲し過ぎますよ〜〜!」


勝手に、こちらの髪形をいじり倒していた弟子のでこをはじきつつ、部下からのお説教を甘んじて受ける。

元地球人の男とはいえ、こういう自分を心配してくれる人や守るべきものがいると、改めて自分の今の居場所がここなのだとしみじみと感じる。


「……ふぅ、まったく。

 これじゃぁ、次の探索に行くまでは思った以上に手間がかかりそうだなぁ」


「あ・た・り・ま・え・よ!!」


「ええぇぇ!?ま、まだこれを続けるつもりなんですかぁ

 危ないですよ!?やめましょうよぉ!?」


自分の発言に、両方から大ブーイングが飛んできた。


「そもそもシーラは、ここザマの領主なのよ?

 あんたがすべき仕事は山ほどあるし、ここでの仕事は魔王様直々のご命令なのよ?

 その辺ちゃんとわかってるの!?」


「まぁまぁ、そこはほら。

 ここに来た当初ならいざ知らず、今はグレアやその部下もいるし、ギルドの運営も順調。

 それに、召喚や封印系魔法も自分がいなくても、この弟子が何とかできるかもしれない!

 するかも、するといいなぁ…」


「む、無茶を言わないでくださいよ~」


何とか弟子にキラーパスをしてみるも無事失敗。


「ともかく!

 この溜まるに溜まった、無数の仕事が終わるまでは異界探索はおろか、まともな遠征、いや魔都にすらいけないと思いなさい!」


「いや、別に魔都にはそこまで興味がないし……」


「い・い・か・ら!

 というか、あんたがいないと、私含めまともに休暇すら取れないんだから!

 この溜まるに溜まった、仕事が終わるまで二度とここから出れないと思いなさい!!」


私はこの後しばらく、この領地での仕事に封殺されることになる。

そして、さらに残念なことに部下は私の帰郷探索を好ましく思っていないようだ。


「このままだと、次の探索はいつになることとやら……」


「はいはい、馬鹿なこと言ってないで、さっさと魔力回路を動かしなさい。

 あんたがすべき封印は無数にあるんだから」



◆◇◆



「がぁああああ!!!このバカーラめがぁあああ!!!」


「いたぁああああ!!」


そして、その数か月後。

無事私は、参謀に全力で殴られることになったとさ。

やっぱり、【大作長編漫画や小説の最終巻だけ持ち帰らない作戦】はそれなりに、効果があったようだ。

それこそ、建物1つが吹き飛ぶくらいには、だ。

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