実は××漫画家なんだって


 目を覚ますと知らない天井が見えた。


 あれ、ここはどこ?

 そう思いながら俺は記憶を辿る。


 ——確か、死のうとしてでもなんかよく分からないお姉さんに拾われて、家まで来て、壁中に女の頃の裸体が張っていて、急に耳元で「サキュバス」をカミングアウトされて……あれ?


 ん、待てよ、サキュバス?

 それってあれか?

 漫画のサキュバスか?


 ————え、もしかして今の俺って。


「精力奪われて立てな——————」


 くはなかった。

 起きると俺は可愛らしい柄の布団にくるまっていて、何ともない部屋にいた。


「あれ?」


 さっきまで確か藍原さんのおかしな部屋にいたんじゃ?

 そう思った矢先、扉が開いた。


「おぉ~~起きたかぁ?」


 入ってきたのは正真正銘藍原さんだった。

 僕の拾った、いや僕が拾われたのか。どちらでもいいが、ついさっき出会ったお姉さんがそこには立っていた。


 しかも部屋着。


 脇の見えるえっちぃ無防備なタンクトップにパツンパツンの胸。

 そして美脚の実が許されるジーパン風の短パン。

 首にはZONYの高そうなヘッドフォンに丸眼鏡をかけて、手には黒いペンの様なものを手にしている。


 なんなんだこれは。

 最初に言ったが僕は下ネタが嫌いだ。

 もちろんそれで笑いを取る奴もあまり好きではない。


 だがしかし、これは違う。

 こっから先は僕の性癖の話だ。

 人生楽しくないのもこんな人がいないって言うのが分かっていたからだ。

 支給されたタブレットで毎晩見漁っていたジャンル。タンクトップ短パンという謎の性癖。


 これがサキュバスの力。もしかして僕は今幻想を、見たかった夢の幻想を見ているのか?


「——おい、返事しろや坊主」

「え、あっ——すみません」

「おぉ、大丈夫だったか。すまんな、強く言って」

「いえ、こちらこそ」

「おう。それで、めまいとか大丈夫かぁ?」

「今ははい。なんかおかげさまで……ってそうじゃなくて」

「ん、どしたん?」

「あの、ほ、本当にサキュバスじゃないんですよね……」


 ふと意識が途切れる寸前に聞こえた嘘という言葉を確認する。

 しかし、帰ってきたのはこれまた違う言葉だった。


「あぁ~~私がサキュバスってこと?」

「は、はい……」

「んとね、一つ言っておくね」

「はい?」

「私はねサキュバスじゃないの」

「じゃあ、一体なんですか?」

「……そうだね、伏線回収ってやつなのかな? 名前二つあるって言ったよね?」


 確かに、そう言えばそんなことを告げられた気がする。

 二つ目の名前。普通の人間にはないものが彼女にある。


 それが告げられる。おかしな緊張感に襲われて僕は生唾を飲み込んだ。


「私の二つ目の名前はね――――オホ声ダブルピースって言うの」








「は?」







 思考が止まり、熱が一気に覚める。

 何を言ってんだこの日と思いながら、同時処理していた頭が一つの答えを導き出した。


「もしかして、エロ漫画家ですか?」

「おぉ~~正解! そうそう!」


 この裸体の壁一面も、このペンもヘッドフォンも、そしておかしな二つ目の名前もそれらすべてがエロ漫画家という境地を示していた一部だったのだった。



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