第24話 勝負の行方

――いざ、勝負!!


僕達は刀を強く持って、園城寺さんに向かって走った。


戦っても大人に勝てるわけない。


僕達は「とにかく逃げる」選択にした。


相手も刀の名手とは言えかなりのお爺さんだ。


筋肉もあるが、体はかなり衰退しているだろう。

それに対しこちらは子供。


一番育ち盛りで自分で言うことじゃないがまだ小さい。


その分すばしっこく逃げれるだろうと見た。


そこで健一さんが背後を取って一突きする作戦だ。


――カキンッ!!


「ふはは、そんな簡単に一突き出来るものか!これまで出来たものは居ないと言っているだろう!」


健一さんが刀を振りかざしたと同時に、園城寺さんの刀で阻まれた。


「くっ……!!」


「くそ!おりゃぁあ!!」


元太くんが園城寺さんに向かって思いっきり向かうのを仮面の少女が止めた。


「うわぁあ!!!」


「だから何回も言っているでしょう。主人様に触れるのは難しいんです。貴方には死んでもらいます……!」


剣を思いっきり振られた衝撃だろうか。


彼は吹き飛ばされていた。


白い服は胸元から徐々に赤く染っているのが精一杯の僕でも確認できた。


見逃せる量では無かった。


彼女は血を滲ませる彼に飛びかかった。


「死んで下さい。」


彼女は包丁を思いきり振りかざした。


「神奈、辞めろ!!」


健一さんからの剣を防ぎながら、仮面の少女、神奈に向けて言った。


「え!?でも……!!はっ……!?」


「どうしたんや。まさかお前、一突きされたんやろ?」


「だから何ですか!?私に一突きするという規則など設けていません!!」


「わしらは一心同体や!!心臓が三つあるうちの一つを破壊されたんや!!」


「主人様……」


「分かりました。蘭、変わって。私が審判を務める。」


「分かったわ。」


彼女は隣に置いておいた刀を抜いて、部屋の中に入った。


「さぁ、私が相手よ。」


「さぁ貴方達も入りなさい。」


二人は渋っているようだった。


それとも恐怖で足が動かないのだろうか。


とにかくその場から二人固まってく動く様子はなかった。


「あんたら動かないとお友達一発で殺されちゃうんだわぁ。まぁ手加減しろって言われてるし。蘭なら手加減してくれるでしょ。本当は私が戦いたかったんだけどなぁ……。」


「あんたが戦ったら手加減してあげないでしょ!だから主人様も私を後半に選んだのよ。」


「……」


神奈はそれっきり黙ってしまった。


「ほら、行くわよ。」


「は、はい……」


――カキンッ


「うぅ……!」


「これでも手加減はしてるのよ?」


「うぅわぁ!!」


彼女たちの方もかなり押されているようだ。


やはり、数では叶わないのだろうか。


「まだいけるでしょ。早く体制立て直しなさい。」


「蘭ちゃんの方が手加減してないじゃんー。」


「あら、そうかしら?」


「行っちゃえ行っちゃえー!」


僕らは二人の楽しい会話など聞く余裕は無かった。


「これじゃ埒が明かない!作戦B!」


「了解……!」


「B!?」


「おっさん、かかってきな。」


「さっき神奈に殺されそうになったやつが何を言うんだか!」


「こっちだよ。ふっ!」


僕は彼のお腹を思いきり蹴って、よろけたところを健一さんが突いた。


「とどめだ……!」


「う、うわぁぁ!」


その時、彼の刀は確かに園城寺さんの背中に当たっていた。


「主人様!お前ら……!」


「神奈!蘭!辞めなさい!わしはこの方たちに負けたんじゃ。」


「そんな……主人様。」


「刀をしまえ。」


その言葉に続き全員が精巧に作られた刀を鞘に収めた。


「負けじゃ、負けじゃ。わしの負けじゃわい。で、なんだっけかな?」


「その前に元太君の手当を。」


「……してやれ。」


「でも……!」


「神奈もういいよ。主人様が言ってるんだから。それ以前に子の人たちが私たちに勝ったのも事実でしょ。」


「……」


二人の言い合いはすぐに終わり、元太君は二人に連れられて手当を受けに行った。


「お前たち。分かっているだろうが元太君とやらを殺してはいけんぞ。殺したらどないなるかわかっておるじゃろ。いつもわしの傍にいたのならな。」


「はい分かっています。行こ。」


「うん。」


元太君はゆっくり進みながら部屋を出て行った。


しばらく帰ってきた三人はお茶とお菓子も一緒に持ってきた。


しばらく僕たちは休んで話をした。


「で、なんだっけかな?」


「この町の全員分の名前が入っている紙が欲しいんです。住民票をまとめたものでしょうか。それから少しの間助けてほしい。」


「あぁ、そうじゃったな。じゃあ町役場に伝えとくわい。その前に聞いてもええか?戦う前にも聞いたが、なぜこれが必要なんじゃ?」


「別にそこまで必要というわけでもないのですが、あった方が完全に断つことができますので。私は医者をしていまして、この町に来たのも伝染病ワクチンをお届けするために来ました。この町では今伝染病が流行っていて、感染者も出ています。感染経路は血や飛沫から。しかし、開発されたワクチンを打つと抗体が作られ、かからなくなるのです。」


「そんなものが!?知らんかったわい……。」


「それもそうでしょう。感染者はまだ少ないのですから。」


「その感染者は誰なんじゃ?」


「個人情報ですので教えることは出来ません。」


「誰がかかったか知らないとその人に会ったらどうすればいいんじゃ!」


「そのためにワクチンを打つんです。」


「いくら払えばそれが打てるんじゃ!?」


「主人様、落ち着いてください。」


仮面を被る二人は円城寺さんをなだめた。


「いいですか?」


「あ、あぁ。」


「ワクチンは無料です。」


「そうか!いますぐ打ってくれ!」


「無理です。家に置いてありますから。」


「その伝染病の症状は!?」


「そうですね。感染者がまだ少ないので断定は出来ませんが、血液検査をして出た反応から推測するに、皮膚になんらかの炎症が見られます。恐らく血が当たった部分でしょう。水滴を当てられた時のような感じで炎症が起きていると思われます。今のところはそれ以上の手掛かりは……。」


「じゃあその形の炎症が表れている人が感染者ということだな?」


「そう……ですが、もうないかと思われます。」

「なぜ!?」


「もう治っているんです。まだ感染はしていますが皮膚には何の炎症も見られません。少し経過を見させてくれないかと言って、ずっと診療所に居てもらったのですが、個体差はあるものの数時間で治りまして。」


「そんなすごいものが……すぐに手配しよう。」


「ありがとうございます。」


円城寺さんは携帯で誰かに電話を掛けた。


「あの、園城寺ですけれども。」


「これはこれは園城寺さん!どうなさいましたか?」


「あのな、この町全員の名前が入った紙が欲しいんやけどええかな?」


「住民票のまとめですか。それ、何に使うんです?」


「あぁ、知り合いに医者がおってな。なんとこの町に伝染病が流行っとるらしいわ。やからワクチン打ちとおて、それが欲しいらしいんやわ。」


「伝染病?そんなの聞いたことないですね……。」


「数人しか出てないらしいから聞いたこともないやろなぁ……。わしもさっきまでなかったもん。別の町ではもう流行ってて、この町にも感染者が出たらしいで!血液や飛沫感染もするらしいわぁ……。今の状況やとかなり危ないんちゃうかなぁ。ワクチン打ったら絶対かからんらしいで!」


「そうなんですか!?そんな事が……。分かりました。すぐにコピーを手配します。出来次第すぐそちらに持っていきますのでお待ち下さい。」


「あ、いや僕取りに行きます。」


「いや大丈夫や。取りに行く。取りに行くもんの名前は高木健一や。高木健一と名乗る男が来たら渡してやってくれ。」


「その方の特徴お伝えいただけますでしょうか?」


「長髪で目はきりっとしていて、ジーンズをはいている。」


「はい、かしこまりました。ではお待ちしております。」


ノイズが入った話声を最後に電話を切った。


「これで後は取りに行くだけやな!それにしてもなんでこの町を選んだん?」


「あー、えーっと、日本で最初の感染者が発見された地域から近くて、我々がその付近の市町村の診療所や病院などに配属されることになったんです。で、僕が選ばれたのが黒百合町だったんです。」


「そういうことやったんかぁ……。まぁ頑張ってくれや!この町を守ってくれな!」


「はい、本当にありがとうございます。」


「そうや、そろそろ住民票も用意されてるんちゃうやろか。行って来たらどうや!」


「いえ、ここにいます。」


「大丈夫や、安心せぇ。この子たちを殺したりなんかせぇへんから。」


「皆いい?」


「僕たちなら大丈夫ですのでどうぞ言ってきてください。」


「わかった。じゃあ行ってくるわ。気を付けてな。」


「はい。」


健一さんが玄関の扉を閉め、砂利を踏む音が部屋中に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る