第2話 犯人は吸血鬼

「これは間違いないわ。吸血鬼の仕業ね」


 「はぁ」とジェームズは気のない返事をする。

 内心、勘弁してくれよ、と思っていた。エクソシストだがなんだか知らないが、これを吸血鬼の仕業にされてはたまらない。市井の人間がその存在を信じたらどうすると言うのだろう。


「エクソシストって、なんでしたっけ?」


 後輩が、声を潜めて聞いてきた。


「クソの間違いだろ」


 と適当に返事をする。


 英国のファンタジー好きは知っていたが、殺人事件までおとぎ話にされたらたまらない。しかも、こんなガキが正式なエクソシストなどと世迷言もいいところだ。

 しかし、ポール警部は協力を惜しむな、と言い残してさっさと帰って行った。組織人であるジェームズは従わざるを得ない。


「首の二つ空いた何かの跡、これは調べてるのかしら?」


 死体の首元を見てエイプリルが言った。

 答える義務があるのか、と思いジェームズが黙っていると、彼女は物凄く睨みつけてくる。


「あ、それは、何か鋭利なもので刺された跡っす! そこから血を抜かれたみたいで、だから吸血鬼なんて言われてるんすけどね!」


 後輩が明るく言う。

 妙に高いテンションの後輩をジェームズが見ると、彼は目をキラキラさせていた。刑事のくせに、オカルトじみた話が好きなようだ。


「なんの跡かはわかっているの?」


「えーとですね……」


 後輩が助けを求めるかのようにジェームズを見つめる。

 どうやら忘れたらしい。


 きちんと覚えとけ!


 心の中で突っ込んだ後、しぶしぶ言った。


「まだわかっていない。動物の牙のようだが、特定はされていないんだ。付着している唾液も、解析されていない」


 それを聞くとエイプリルは満足そうに頷いた。


「当然よ、吸血鬼の牙だもの。ねぇヴィシー?」


 エイプリルが誰かに問うと、突然、空間を裂くようにしてコウモリの姿をした何かが現れた。

 まるで最初からそこにいたかのように、当然のように浮遊している。


「ああ、そうだ。間違いなく、吸血鬼の食事後だ。これほど食い散らかしているということは、まだなりたてだろうなァ」


 そのコウモリににた生き物はそう言って、ぬらぬらと光る牙を見せながら笑った。

 この世のものではないその姿に、後輩は顔が真っ赤になるほど興奮し、逆にジェームズは青ざめた。


 その生き物はそんなジェームズを見て、(もっとも、その生き物には目がないが、確かにジェームズは見られたと確信した)ニヤリとしたものだから、気分は最高に最悪だった。


「ふむ、大体の事は分かったわ」


 そう言って立ち上がるエイプリルに対して、ジェームズは苛立ちを覚えながら言った。


「はん。何が分かったんだ? 犯人でも分かったのか?」


 喧嘩腰のジェームズを小馬鹿にしたように見つめながらエイプリルは答える。


「ええ、そうね、犯人が分かったわ」


(まさか犯人は吸血鬼なんて言わねえだろうな)


 ジェームズがそう考えていると、エイプリルはふっと口元を緩めて言ったのだった。


「犯人は吸血鬼よ!」

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