第13話 思い出の場所

「ここは、お父様とお母様との思い出の場所です。お母様は私を生んでしばらくして亡くなりました。ですから、私はお母様の記憶は無いのです」


 そう言うと、何故だか君の事をシェルは見つめる。

 見つめるというよりは、まるで逃さないという風に見える目だ。

 君は思わず目を背けたくなるが、捕らえられた獲物のように視線を外せなかった。


「お母様は、お城の中のような豪華な内装を嫌っていましたので、お父様と食事をする時は必ずこの部屋で食事をしたそうです。ここは他の部屋と比べるとかなり質素で何もありません。あまり外に出る事もなく、この部屋が唯一落ち着く場所だったそうです」


 シェルはずっと君を見つめたままだ。

 君は何か悪いことをしたのかと聞いたが答えてもらえない。


「お父様は、お母様が亡くなってから笑うことが無くなったそうです。兵士長という立場ではありますが、あまり人にも興味を持たないような感じの人です。もちろん、尊敬はしています。仲が悪いという訳でもありません。それでも、親子なのに常に一線を引かれているのを感じるのです」


 シェルの想いが伝わってくるようで、君は胸が苦しく感じる。

 怒りではない。嫉妬しているのだ。

 母親にだけ向けられたであろう愛情に。

 それがよく分からないからこそ、こうして話をしているのだろう。


「どうしてアッシュに話をしたのか分かりますか?」


 君は首を振り、分からないと伝えた。

 するとシェルの目の端に少し涙がたまる。


「私はこの部屋にいると、お母様を感じます。生まれたばかりの時の記憶が無くても、お母様の存在を感じるのです。そして、それがアッシュから何故か感じるのです」


 まるで君を問い詰めるように、シェルは涙を流しながら訴えてくる。

 痛いほど伝わる気持ちに君は真剣に向き合わなければならない。


「どうしてお母様は愛されて、私は愛されないのでしょうか」


 シェルから投げられた問いに君は……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る