第11話 ブラウズの帰宅

 洗濯が重労働だと知った君は、心地よい疲労感に包まれていた。

 シェルがのぞき込むように君を見ている。


「アッシュのおかげで助かりました」


 君は頷いて答えると差し出された手を取り、起き上がる。

 細い腕なのに軽々と引っ張る力に君は少し驚いた。


「どうやら、お父様が帰ってきたようです」


 唐突にシェルがそういうと、足音が聞こえてきた。

 そして、現れたのはシェルの言う通りの人物だった。


「おかえりなさい、お父様」

「ただいまシェル。おや、アッシュじゃないか。起き上がって大丈夫なのか?」


 君を見るなり、少し心配そうな声だった。

 大丈夫だと伝えるために手を振り頷く。

 ブラウズは君の腕や足、背中など色々触ったが少し驚いていた。


「細いのは変わらないが、肉付きは良くなっている。どういう事なんだ?」


 ブラウズはシェルに説明を求めるが、シェルも分かりませんと首を振る。

 昨日まで起き上がる事すらできる状態ではなかったのだ。

 ブラウズが驚くのも無理はなかった。


 君は夜にあった出来事は伏せる事にして話をする。

 あの出来事は不可思議で現実感が無かったからだ。

 起きたら身体に力が入るようになった事、シェルが看病してくれたおかげだという事を伝えた。

 

 ブラウズはあまり納得していなかったようだったが、君の様子を見る限り大丈夫だと判断したのだろう。


「実は城の地下牢から凶悪な犯罪者が脱走したらしいんだ。最近、帰ってこれない原因がこれでね。被害報告とかはまだないんだが、シェルもアッシュも十分気を付けてくれ」

「この辺りに潜んでいるという事なのでしょうか?」

「分からないな。そうでないことを願うしかない。俺は巡回に行ってくる。後は頼む」


 それだけ言うと、ブラウズは庭から出て行った。

 ブラウズを見送るシェルは少し心配そうな表情だった。


「行ってらっしゃいませ、お父様」


 と、それだけをブラウズがいなくなってからシェルは口にした。

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