聖職の姫さまの「せいしょく係」に任命されたけど、その職業初耳です
トン之助
プロローグ
「なぁ旦那様よ。今夜は寝かさぬから覚悟しておれよ」
「ひ、姫様いけませんっ! そんな格好をしては……」
「二人きりの時はヨルと呼べと言うておろうに」
「し、しかし自分は姫様を守る役目が」
赤い月だけが二人の蜜月を見つめていた。
姫様と呼ばれるのはヨッキュー国の姫、サカリナ・ヨル・ヤルヨ。
旦那様と呼ばれるのは姫様を守る騎士、正確には『性職係』という事になっている青年、名前をホワイ・ナゼ・オレガ。
赤い髪が天を衝くような風貌の彼だが、その心根は正直者で周りの事にも配慮できる性格の持ち主。
そんな彼が騎士学校を卒業して性を司る姫様に召し抱えられて幾分かの月日が流れた。
「ヨ、ヨル様、素敵な髪が乱れておりますよ」
「なぁに、これからもっと乱れる事をするでな。気にせん事じゃ」
白髪の髪を惜しげも無くシーツに投げ出す彼女は淡いエメラルドグリーンの目をオレガに向ける。
華奢な体に相応しい慎ましやかな胸とは裏腹にその心根は興味優先。よく言えば天真爛漫と言えるだろう。
そんなサカリナに振り回される毎日を過ごす内に次第に彼女に惹かれていったのはオレガ自身も理解している。
「な? 一回ヤレば何回でも一緒じゃて」
「し、しかしヨル様」
経験豊富と自称するサカリナであったが実際はそんな事は無く、書物や映像で知識を得たに過ぎない。それを知られたくないが為に彼女は「経験者なのじゃっ!」と声高に豪語する。
「お主の活躍を見てどうしようもなくなったのじゃよ……なぁナゼよ」
「ぐ、ぐぬぬぬっ」
サカリナや近衛隊、騎士学校時代の仲間と共に国の窮地を救ったオレガは一躍有名人になっていた。そんな彼に色目を使う女性が多いと聞いて彼女は少し焦っていたのも事実。
「ヨル様……お恥ずかしい話ですが」
「なんじゃ?」
諦めにも似た表情のオレガは肩の力を抜いて脱力する。
「自分は女性経験が無いのです」
正直な言葉に姫様の口元がニヤリと笑う。
「うむ。知っておる、知っておるぞ」
彼女は獲物を目の前にした肉食獣の顔になり、その目は月に当てられて爛々と光る。
「それでも、よろしいですか?」
決意に満ちた顔のオレガとヨダレが垂れそうなサカリナ。
「よいっ! むしろ大好物じゃ!」
サカリナはガバッと起き上がると彼の首元へ手を絡めてそのまま押し倒してしまった。
「や、優しくお願いします姫様」
「二人きりの時は……」
「はい……ヨル様」
赤い月だけが揺れる二人を見つめていた。
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